⁂ 2~3章 登場人物

----------2章-----------

【セイラ=カンノン】

◇身長156cm。19歳。


 リヴェル・クシオン連邦で行われた、聖女召喚の儀に応え現れた可憐な少女。当初は言葉を話す事が出来なかったが、三か月ほどしてから、少しずつ喋るようになった。

 愛らしく、神秘的。何かを成し遂げたわけではないが、一目で多くの人間を虜にし、祭り上げられている。その様子から、他国では「ただ可憐なだけの乙女」と皮肉交じりに言われていたが、いざ直接会うと大抵の人間は手の平を返す模様。


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【三柴玲/ミシバ レイ】

◇身長156cm。19歳。


 セイラ=カンノンを名乗る、転生者。

 三年前(当時16歳)に、趣味の女装コスプレをしていた際に、『交通事故に遭いそうになっている知り合い』の幻覚を見て車道に飛び出し、無人トラックに衝突して死亡し、転生した。男性。アオバと同じく、神様の物の手により再構築化されているため、死ぬ直前と同じ姿形をしている。身長はあまり伸びず、声変わりが来ないまま第二次性徴が終わっている。

 教育熱心な両親の間で育ったが、高校受験に失敗。両親からの関心を失い、呆然と過ごす中、当時テレビで放送されていた、色々問題だらけな女児向けアニメ「かしぇ どーる!§アイユエ」に登場するキャラクターの一人、貫音セイラの真っすぐな台詞に救われ、様々なアニメや漫画にのめり込み始めた。ちょっとした気まぐれからコスプレをし始め、SNSではじんわり知名度を伸ばしているところ(フォロワー数が千人突破したあたり)だった。

 初対面の相手には必要以上に距離を取る癖があり、オドオドしがち。慣れるとよく喋るタイプで、特に好きな話題や得意分野となると早口になって捲し立ててしまう。

 ラピエルから「魅了」の能力を付与されたが、異世界にやってきたいの一番に意図せず発動させてしまい、偶然一番手前にいたコーディアが魅了されてしまう。その後も能力の解析の為、男相手に(女性相手は気が引けた為)実験を繰り返した結果、能力の規模や効果時間、代償(強度に比例して声が出ない期間が伸びる)などは分かったものの、男ハーレムが完成してしまった。また背格好から女性だと勘違いされたまま、聖女として三年過ごしている。

 コスプレしているキャラのフリを続けている内に周囲に祭り上げられてしまい、隙を見て聖女という立場から逃げ出そうとしていたが、コーディアを「セイラと出会わなかった自分」として見てしまい、気がかりで動けずにいた。

 元々不安定気味だった精神状態を、セイラのフリをすることで保っていた。しかし、周囲の人間から一斉に敵意を向けられたことで精神的に参ってしまい、古傷からフラン・シュラ化した。直後に精霊に守られた事で気力を取り戻し、セイラのフリとしてではなく、玲本人の意思で聖女として振舞うことを決めた。

 アオバの音叉によって精神と肉体を結び付ける術を解除され、治癒も受けた事で完全復帰している。コーディアとの関係については諦め気味で、とりあえず仕事仲間としては信頼してはいる。

 何よりも自国の精霊を味方につけることに成功し、無意識に精霊術を獲得した。聖女として各国代表と顔合わせをし、魅了の能力を使わず人柄と交渉力で外交に挑んだ。

 『リヴェル・クシオンの聖女』といえばこの人、と言われる程の知名度にまで押し上げた。七十代手前の頃に過労で倒れたが、国民に心配をかけるわけにはいかないと、公の場に出る数を減らす事なく聖女として振舞い続けた。享年75歳。

 最期の最期まで自身が男であることを、一部を除いて隠し通した。またこれまでの功績から、『清らかで誠実なる可憐な乙女』として語り継がれたが、御使いにこの話をすると「んんー……そうだねー……うん……」と苦笑されるとか。


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【コーディア=レッシンルィク】

◇身長181cm。23歳。


 リヴェル・クシオン連邦の星詠み。代次官(高次官の代理)を務めている。男性。金髪と茶髪の間の髪色で、後頭部で編み込んでいる。目の色は緑。清潔感のあるイケメン。

 星詠みとしての能力が無いどころか、一般的に感じ取れる精霊の気配すら微塵も分からないにも関わらず、母の一存で星詠みの役職を得ており、嫉妬や蔑みから仲間外れにされている。しかし、生まれた時から星詠みの世界に居続けたコーディアにとって、ここから抜け出すという選択肢は存在せず、この世界の頂点である母に逆らうという考えもなかった。

 半ばいじめに近い構図で成功するはずのない聖女召喚の儀を取り仕切ることになり、呼びかけに応えて現れた(ように見えた)聖女・セイラの能力で玲に惚れてしまう。数か月ほどで効果は解除されているが、一目惚れを聖女の神聖さ所以と思い込み、聖女へ救いを求めて依存するようになった。

 玲から死者である事、男である事、聖女として呼ばれて来たわけではなかった事、それらの告白を受けて混乱してしまい、聖女という肩書があるからセイラが大事なのか、女性だからセイラを好きなのか、悩みに悩んだコーディアは様々な文献を手に取り、原点回帰した。

 聖女愛者。唯一の肉親である母からの愛情を受け取れず、周囲の星詠みから蔑まれて育ったコーディアにとって、万人を愛する聖女・ケルダだけが心の拠り所で、いつしか“聖女”に相応しい心意気を持った人物にしか愛情を向けられなくなっていた。男であったとしても聖女と呼ばれた歴史や、自身に救いの手を指し伸ばした玲本人から聖女の風格を感じ取ったコーディアは、玲を“聖女”と認め、愛することを決めた。

 想いが実ることが無いと分かっており、玲がセイラではない素の言動を見せてくれる特別感を味わいたくて、わざと玲が気味悪がることを口にしている節がある。年々玲が慣れて、軽くあしらわれることが増えた。アオバが御使いとして各地巡行を行うようになった辺りから、アオバにも聖女感を見出し始めた為、玲から「アオバと会う時はなるべく喋るな」と言いつけられている。

 相変わらず精霊の気配は感じ取れないものの、それ以外の仕事は優秀で重宝された。セイラの最期を看取った後、身辺整理をし、後を追った。享年79歳。


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【ケルダ=レッシンルィク】

◇身長149cm。49歳。


 リヴェル・クシオン連邦の星詠み。元聖女であり、現・高次官(役職というよりは、人間と聖女の中間の存在である称号)。コーディアの母で、プライベートな場では息子から「母上」と呼ばれている。アッシュブラウンの髪色、目は細く常に微笑んでいるように見える。生まれつき足が悪く、普段から杖をついている。

 星詠みの才に恵まれ、お告げの的中率が尋常ではない程に高く、聖女と呼ばれて来た。物心がついた頃から星詠みに囲まれて育ち、それ以外の世界を知らない。

 同じ星詠みである側役の男に自分以上の聖女らしさを感じ取り嫉妬から攻撃をしたが、変わらず優しい彼に恋をし、密かに愛し合っていた。しかし身ごもった事で周囲に隠しきれず関係を公表。結果、“聖女”を守りたい者や、かつて彼を攻撃した時に嫌悪感を持つよう支配した星詠みたちにより、彼を殺されてしまった。

 周囲に反対されながらもコーディアを出産するが、出産と同時に星詠みの才を失った(無くなったわけではなく、度重なるストレスによって封じられた状態。アオバへの警告は直感からの発言だったが、ほぼお告げと同等の内容)。自らが知る世界で唯一安全な場である、『聖女の目が届く場所』に息子を置くことで守って来た。

 息子や周囲の人間から悪く誤解されようとも、息子を守ろうと行動をし続けてきた事をアオバに見透かされ、彼の遺品である宝石が手元に渡り、玲個人と向き合い話し合った事で、聖女の役目から解放されることを受け入れた。

 聖女の座をセイラに譲ってからは現場から一歩退き、セイラの補佐などを行うようになった。コーディアとの関係はぎくしゃくしたままだが、夫の命日には共に墓参りに向かえるぐらいには関係を修繕した。多くの信者に見守られて、寿命で亡くなった。享年66歳。


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【デック=ローロイロ】

◇身長158cm。 ?歳。ラバ族・第七世代。


 主にイヴェオンを中心に運搬業をしているラバ族。女性型。見た目は40代後半ぐらいの年齢で、赤毛のショートカット、茶色の目。古くから星詠みの屋敷と取引をしている。

 明るく朗らかで、空気を読むのに長けており、場面に応じては茶化したり、おどけてみせることもある。

 ケルダに心酔しており、運搬業をしているのも彼女に勧められたからだった。ケルダと側役の関係を勘付き、それが報われることはないと知りながら、止めなかった。それは一人の人間として彼女が幸せになってほしいという思いからだったが、同時にすべての人を愛する聖女であって欲しいとも考えており、当人はこれを「中途半端だった」と語る。

 側役の男が殺害された場面を目撃し、星詠みたちから口留めをされていた。彼の宝石を探し出し、ケルダに返そうとしていたものの、その美しさから手放すことができず、今渡さねば今後もう返す機会が無いと感じ、ラバ族批判が高まり始めた町から離れられずにいた。

 ラピエルの騒動が落ち着いてからも二、三年ほど運搬業務から離れていたが、アオバに諭され少しずつ星詠みの屋敷に顔を出すようになった。

 ケルダの死後、故郷に帰った。以降連絡は取れていない。


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【メル・メ・リア=ビッカーピス】

◇身長168cm。37歳。


 王都聖騎士十番隊隊長を務める女性。黒髪ショートボブ。使用している聖剣は双剣型。威厳ある雰囲気の持ち主で、見た目に相応しく自他共に厳しい。聖騎士至上主義である以上に、前隊長に傾倒しており、ラピエルに煽られた際には一言で激昂するほど。

 稽古を怠らず、聖騎士である自身を誇りに思っている反面、聖騎士ではない自分に価値は無いと考えている程に自己評価が低い。前隊長の引退と共に十番隊が瓦解したことが「自分には求心力が無いから」と考えており、更に新人ばかり任されることで常に隊の実力が不安定で成果を上げられないことにやきもきしていた。

 実際は、「ビッカーピスが作る新しい十番隊に、古株が残っては前隊長色が残って面倒だろう」という隊員たちの気遣いだったり、「ビッカーピスが教育した新人は、聖騎士としての自覚が育って、仕事に真面目になる。新人教育はビッカーピスに任せるに限る」という実績から任されていたと、随分後になって知ってからは、若干だが聖騎士至上主義は薄れ、自己評価もやや高くなった。

 セイラが男だと知ってからはややギクシャクしたものの、聖女セイラであることには違いなし、とこれまで通り聖女として扱い続けた。

 ラドーが中央区で働くようになってからも手紙のやり取りは続け、たまの休暇には会いにも行った。生涯現役のつもりだったが、後ろに控える部下たちのことを考え、少し早くに引退し、各地を放浪しながら人助けや、現地の聖騎士の稽古をつけた。指を二本ほど失ったが、概ね傷も無いまま寿命で亡くなった。


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【リッキー=ラ・セリュオ】

◇身長177cm。20歳。


 王都聖騎士十番隊副隊長を務める男性。使用している聖剣は蛇腹剣型。茶髪で目にかかりそうなほど前髪が長く、かきあげる癖がある。細身で、口調も軽く、また女性好きで口説きがちと、全体的に軽薄そうな印象を与える。

 16歳の時に聖騎士試験に合格し、八番隊に所属していた。真面目に仕事に取組み、稽古にもかかさず顔を出していたが、妹であるレティモと比べられる内に「どうせ叶わないなら、努力するだけ無駄だ」と嫌気が差し、次第にさぼるようになり、それを注意したレティモとも口論が増えていた。その行動が目に余った為、十番隊に飛ばされた。

 見放さずに面倒を見続けてくれたビッカーピスに対して、口にはしないものの感謝しており、内心では「恩師」と呼んでいる。彼女の負担を一つでも減らそうと長年空いていた副隊長の座に収まった。持前の軽さもあって、周囲から多少嫉妬されることこそあれ、可愛がられている。

 二年前の王都招集で初めてテルーナと顔を合わせた。白け色でありながら努力を惜しまぬ彼女に、自分とは正反対な感性が受け入れがたくてちょっかいをかけるようになった。それはそれとして、テルーナの事は普通に可愛いなぁとは思っている。

 聖女信仰はしておらず、セイラがただ可愛い女の子で、聖騎士と衝突しがちな面倒な政治方面を受け持ってくれている事から好意的に見ている。男と知った後も、対応は然程変わっていないが、若干扱いが雑になった。

 初対面時からアオバには少し苦手意識があったが、御使いになってからのアオバに対して更に苦手意識を募らせてしまい、距離を取った。

 ビッカーピスが引退後、十番隊隊長に就任。前隊長の影響は色濃く残り、新人育成に力を入れていたが、任務中に片腕を吹き飛ばしてしまい「いやー、これはもう剣を振れないなー、戦えないなー」と理由をつけて引退。放浪中のビッカーピスと合流し同行。彼女が亡くなった後も遺志を継ぎ、人助けの旅を続け、寿命で亡くなった。


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【エディベル=ベスカ】

◇身長173cm。21歳。


 王都聖騎士十番隊所属隊員の男性。使用している聖剣は青竜刀型。

 プライドが高く、差別意識を隠そうとしないタイプ。失敗が許せない完璧主義者である反面、実力に伴わない思想も持っている為に、よく自己矛盾を抱えて苛立っている。

 サネルチェ公国でも一、二を争う名家ベスカ家の跡取りで、聖騎士になる予定はなかった。しかし、当時副隊長だったビッカーピスに憧れ、聖騎士の道を歩む。実家からは勘当されており、帰る家は無い状態。聖騎士であること、強さを持つことにこだわっており、白け色でありながら副隊長を務めるテルーナに対して反感を持っている。

 リッキーが隊長に就任後、副隊長になった。


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【レヲビッケン=シュザー】

◇身長176cm。43歳。


 王都聖騎士七番隊隊長を務める男性。使用している聖剣は直剣型。灰色の髪を無造作に後ろで束ねている。老け顔で、実年齢よりも高齢に見られがち(リッキーにいたっては、初対面時にシュザーを還暦だと勘違いしていた程)。面倒くさがりで怠惰。聖騎士試験を受けるのも長年放置しており、ビッカーピスと同期である。

 普段からヘラヘラしており、なんとも気の抜けたおじさんといった印象を与えていることに気づきつつも訂正しないでいる。これは周囲に気を遣わせたり面倒事に巻き込まれたりするのを回避する為の処世術として有効だと知っている為。

 怪我をすれば私生活に影響が出る。鍛錬に出なければ上司に怒られる。問題を長引かせるよりササッと終わらせて酒飲んで寝たい。……と、面倒事を避ける為に小さな面倒事は容認していたところ、『鍛錬や仕事に真面目で、尚且つ素早く問題解決をして、周囲に嫌味のない人物』と評価されてしまい、スピード出世をして隊長になって更なる面倒を熟さなければならなくなった人。

 こんな性格なので、白け色に対しても軽蔑よりも「それだけ弱いなら、面倒な仕事押し付けられなくていいな~」と思っており、実際テルーナにも似たような旨の発言をしており「聖騎士としては珍しい考えの人」と思われつつも好意的に認識されている。

 大人数を指揮するのは苦手な為、隊内を細かく班分けしており、少人数を率いて動く。素早い剣技と、高い瞬発力から繰り出される回避とかく乱が得意。

 なんだかんだ言いつつ、聖騎士としての誇りは高く、弱者を守る事に重きを置いている。作中で、左胸が溶けて尚アオバを守る為に力を使った聖騎士がこの人。欠損を治してくれたアオバの能力に畏怖の念を覚えている。

 御使いになったアオバは気を張らなくていいうえに甘やかしてくれるので、中央区での出張があると率先して受けており、互いに息抜きの相手として丁度良かった様子。

 中々後継が育たず、寿命で亡くなるまで隊長職を続けた。


----------3章-----------

【ウタラ=オ・パルン】

◇身長170cm(本来は155cm)。16歳。


 一人で祖母の世話をしている少女。毛先にはねっ気のある柿色のストレートショートをハーフアップにした髪型で、フードを真深く被っている為、顔ははっきりと見えないが年相応より少し大人びた印象の顔立ち。

 風の精霊の加護により、フィル・デ=フォルト化し始めていた。自覚したのは14歳ぐらいから。アオバたちが出会った時点で、フィル・デ化は最終段階に入っており、幻聴として他のフィル・デたちの情報交換の声が脳内に響いている状態だった。抵抗虚しく、『かつてウタラだったフィル・デ』に変貌した。

 ウタラとして祖母の最期を見届け、(作中時間的には5章辺りから)フィル・デ=フォルトとして活動を始めた。

 たまに中央区にやってきて住民を相手に商売をしており、アオバにウタラであると毎回見破られては、嬉しい反面不思議がっている。


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【シュルム=ラダ・パルン】

◇身長151cm。享年62歳。


 シャニア王国のエドゥ山岳地帯にある谷間に一人で居住している、高齢女性。ウタラの祖母。大きな病気の後遺症で、両目を失明しており、寝たきりの状態。孫であるウタラの世話無しでは生活が出来なくなってしまっている。

 若かりし頃は家族と喧嘩をして家を飛び出たり、町中の無法者を殴り飛ばしては衛兵に突き出して小遣い稼ぎをする程のヤンチャな人物だった。故に、まだ若い孫娘を自分の都合で行動を制限するのを心苦しく感じていた。

 アオバの力で視力を回復した後、少しして亡くなった。


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【メニアコ=バッテ・クゥイマー】

◇身長178cm。31歳。


 シャニア王国にある宿場町コレドゥ・アラのライルー図書館の司書であり管理者でもある男。片目にモノクルをつけている、堀が深く面長な顔立ちをしている。愛妻家。

 陽気な性格をしており、興味があれば立場も関係なく話しかけられるコミュニケーション能力の持ち主。特に好きなことや研究分野の話題となるとテンションが高くなり饒舌になる。武力より知力に重きを置いており、昨今の、英雄に憧れ筋力を鍛えるばかりで勉学が疎かな若者の急増を嘆いている。

 セリオス第一王子や英雄アトラティスカと幼馴染。王都の中流貴族家で四男として生まれ育った。独学で文字の読み書きを習得しただけに留まらず、図書館の本を網羅し、寄宿学校の試験を受け入学、主席卒業をした秀才。

 中央図書館で司書をしていたが、「十年前に打倒された土贄の儀の神は、怪物ではなく本当に神様だったのでは?」と仮説を立てて研究を始めた為に、英雄信者によって(実際は、儀の神について調べられたくなかったロディチェ礼会の指金)強制解雇・賃貸契約も白紙にされるなどの嫌がらせを受け、妻の身に何かあっては困ると、王都からコレドゥ・アラに引っ越しをし、研究対象をフラン・シュラに切り替えた。

 白色や灰色の生き物を見ると、特に深い意味もなくアトラティスカの名前をつけがち。また、人の話を聞かずに振り回す傾向にあり、過去にはセリオスがどれほど精霊に嫌われているのかの検証の為に護符を持たず山に連れ入ったり、読み書きを教えてほしいと言ったリコルを軟禁して勉強付けにするなど、暴挙に出ている。逆に妻の話だけはきちんと聞き分ける為、アトラティスカから「やればできるのに、わざとやってないだろ、お前」と小言を言われたが、案の定聞き流した模様。

 数年の内にフラン・シュラがきれいさっぱりいなくなってしまったので、ペルルと共同で精霊術の研究をした。本当はアオバの能力を解剖したかったらしいが、周囲から止められた。王都への出入りも解禁され、友人らとの会合に顔を出せるようになり楽しく過ごした。

 妻が亡くなってからどんどんと気力がなくなり、五年後に家で亡くなっているのが見つかった。享年58歳。


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【ヨールム=デュアヌ・クゥイマー】

◇身長150cm。28歳。


 メニアコの妻。おっとりしており、メニアコの奇行はあまり目に入っていないか、スルーしている。愛夫家。

 裕福な家庭で生まれたが、体が弱く、すぐに精霊の気に当てられて体調を崩す為、滅多に外に出られなかった。そんなヨールムの為、家族が話し相手として連れて来たのが、歳が近く当時秀才として周囲を騒がせていたメニアコだった。彼の毎回分野の違う専門的な話が面白くてもっと話してとせがみ(逆にメニアコからすれば、すぐに鬱陶しがる周囲と違って真剣に聞く彼女に惹かれ)、プロポーズの言葉も無くお互いに一緒になるのだと決めて、とんとん拍子に結婚した。

 現在はやや体は弱いものの健康体に近いのだが、出会った当時の印象からかメニアコからは過保護に扱われている。リコルが来てから、精霊の機嫌がよくなり、さらに健康になった。

 死期を悟ってか、晩年は自分の死後のメニアコの事を気にしており、何度も中央区を訪れ、アオバにメニアコ宛の手紙を託した。なんの前兆もなく、眠るように亡くなった。享年50歳。


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【エイーユ=キュリヒル・ヌア・モルァ】(姓はクレモント語でベセイユ・ジョック教会の意)

◇身長156cm。28歳。


 『百面の騙り人』の異名を持つ罪人。主な罪状は、脅迫、犯罪教唆、公的文書偽造、殺人未遂など。青色のショートカット、目の色は黒でややツリ目がち。自発的な印象を与える養子だが、化粧や服装だけでなく薬剤などを使って顔を変えている為、現在の顔立ちは元の姿と随分違うものになっている。証明書を偽造し、偽名としてロロッタ、コーレンス、ロゼの名を使っている。本名のエイーユは、光の精霊(聖騎士の卵エイ・サクレと語源は同じ)を意味する。

 教会に捨てられた子であり、過酷な環境下で育った。教会内では金になる才能の持ち主だけが優遇されていた為に、目ぼしい才もなく死の順番を待っていたエイーユは「才能なんて教会が掲げる平等に反する物だ」という考えを持つようになった。自身の順番を変える為、教会一才能があった少女の腕を折り、無能に下げたことで生き延びた事から「生きる為には才ある者から才を奪えばいい」と学習した。

 1章の人攫いたちに犯罪教唆を行い、5章の「毒を練ったパン屋の話(3章に登場した、ガーネットを襲った男が店主だった)」にもエイーユが関わっている。

 アオバとの接触で「はみ出し者でも受け入れてくれる存在がいる」と知り、打算から人助けを行うも、目の前に現れたかつて自分が陥れ犯罪者になった男を「救う必要のない者」として見た事、助けた相手が金になる存在であると知り人道に反した考えから手に入れようと画策した自身も同類であると気づき、捕縛される道を選んだ。

 これまでの罪状からすぐに処刑だろうと考えていたが、キラ家で面倒を見るならと釈放が決まってしまい、アオバとも再び顔を合わせることになり苛々しながら、使用人としての日々を送っていたが、ストゥロの長編小説を手に取って以降、他人の思考を受け入れるようになった。

 アオバとエイーユの子が産まれると世話係となり、最終的には中立協会内の職員の総まとめ役にもなったが、かつて犯罪者へと陥れた人物の子を名乗る人物に刺され、アオバの治癒を拒否し「大犯罪者にふさわしい最期だろう? ストゥロの創作のネタにでもしてよ」と残して死亡した。享年41歳。

 ストゥロによりエイーユの人生を元とした物語が執筆され、主に舞台演劇の代名詞として残されている。


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【タスティマナ】

 旧都の地下祭壇に棲む三体の神級精霊。風を司り、戦争以前から旧都に棲み付いている。人語を理解している。

 加護を与えるのは好きじゃないが、人間の目を宝石にする作業が大好き。フィル・デ=フォルトを使って噂話を流し、人間を迷い込ませては目をくり抜き、これまでの成果物とくっつけて大きな宝石を作っていた。

 リコルの目を取らなかったのは「あっ、皆の愛しい宝だ。綺麗な目だな、取っちゃ駄目かなぁ……あ、なんかこっちの人間(アオバ)が取っていいって言ってるし、こっちにしよ!」ぐらいの感覚で見逃されている(間引かれる世界でのリコルの目が抉られたのは、他に取れる人間がいなかった事と、巨大宝石との交換取引があった為)。

 本当はアオバのもう片方の目も抉るつもりだったが、水の精霊(シーゼ)に止められたのでやめた。その後、アオバの目から作った宝石の他の精霊たちが加護を与えて高い価値になった為、「最高傑作だ! 宝石作りやーめた」とその場から移動した。


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【レティモ=ラ・セリュオ】

◇身長175cm。19歳。


 王都聖騎士八番隊副隊長を務める女性。使用している聖剣は直剣型。茶髪で目にかかりそうな前髪を横に流しており、後頭部は刈り上げている。ひょろりとした体形。お喋り好きで、とりとめもない話題でも延々と喋っていられるタイプ。

 正しくあれば必ず報われると信じており、鍛錬にも仕事にも真面目。実際、やればやるだけ知識も技術も吸収できる天才型で、あっという間に兄の実力を超え、他の隊員を超え、今ではアトラティスカに引けを取らない実力者となってが、周囲の人間も自分と同じだけの才能があるはずだという考えからデリカシーのない発言も多々。兄であるリッキーからはそれで何度も喧嘩しているが当人は、兄妹仲は悪くないと思っている。

 体を動かすのが好きで、あまりじっとしていられない。読書や座学は苦手だが、問題解決の為ならばいくらでも我慢できる。また意外と推察力が高い。

 過去に、無謀とも取れる鍛錬を繰り返し、何度となく任務で“黒い霧”に取り込まれかけたりを繰り返したせいか、痛覚が鈍くなっている。よく隊長であるムギアに顔面パンチなどをされるが、本人の感覚では「軽く小突かれた程度」の認識だそう。

 元々仕事柄エルシアと話す機会が多かったが、彼女がアオバと一緒になってからは更に関わることが増え、割とどうでもいい事でよく顔を出すようになっている。

 ムギアが引退後、隊長に就任するもスパルタすぎで隊を抜けたいと希望する者が続出。気にせず一番隊と張り合いをしていたところ、ムギアに説教をされて考えを改めた。以降は良い隊長として部下を指導した。片耳を飛ばしたものの、ほぼ五体満足で70過ぎで引退し、寿命で亡くなるまで旅をした。


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【ムギア=サーティル】

◇身長171cm。63歳。


 王都聖騎士八番隊隊長を務める高齢の男性。使用している聖剣は直剣型。白髪。見るからに老齢だが、背筋は伸びており、歳を感じさせない。正しくあることに重きを置いており、厳格。また融通が利かず、他の隊や新人隊員からはやや煙たがれ気味。アトラティスカの凝り固まった正義感を形成する要因となった一人。

 かつてはラドーと張り合った豪傑の一人だったが、彼が引退するまでに一度も勝つことができなかったことを悔いている。型にはまった、素直で読みやすい太刀筋をしているが、素早く、重く、攻撃範囲が広いので避けるのはほぼ不可能であり、歴代隊長各の中でも指折りで数えられる程の強さを誇っている。

 一度はアオバを御使いと認めたものの、彼が抱える正義感とのズレを感じ取りすぐに撤回。以降も、彼がどれだけ功績を出そうとも、ただの人として扱い続けた。

 とにかく何よりも誰よりも、一見正しいように見えて自由なレティモに振り回された。正直彼女を副隊長にしたのは失敗だったかもしれないと思っている。

 75歳の時に聖騎士を引退したものの、レティモの暴走を止める為に度々隊に関与し、気が休まらない日々を送った。骨をいくつか失ったが、ほぼ無傷で寿命で亡くなった。


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