☆ 貧弱アニュー②
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強くなる事を誓ったアニューは、毎日のように体を鍛えました。
重たい荷物を、二つ、持てるようになりました。
だけどやっぱり、まだまだ騎士の少年には勝てません。
「彼に勝てるようになろう」
目標を決めて、アニューは毎日頑張ります。
貴族の娘は喜んで、あれやこれやと、アニューの世話を焼きました。
そしてそれを、良く思わない人がいました。
アニューを小馬鹿にしてきた人たちです。
貧弱アニュー。
可哀想なアニュー。
お前が騎士の少年に勝つだって?
そんなのできっこないよ。
呪いの言葉に、アニューは挫けそうになりました。
娘が励ましますが、それよりも呪いの方が強力でした。
娘の言葉も聞こえなくなるほど、アニューは落ち込んでしまいました。
ほらね、貧弱アニュー。
お前には何もできないよ。
だけど、意外な事に、騎士の少年が彼らの間に立ちました。
「口先でしか事を成せぬ愚か者め。お前たちにアニューを笑う資格などない」
彼は、アニューを馬鹿にする人たちを、力づくで追い払いました。
その強さに、やはり勝てないのだと落ち込むアニューに、騎士の少年は言いました。
「何度でも、諦めずにかかってこい。君はもっと強くなれる」
騎士の少年の言葉に突き動かされて、アニューは再び頑張りました。
そして、塞ぎ込んだアニューを見捨てなかった娘に尋ねました。
「君はどうして、僕を笑わないの?」
「だって、貴方はどこも可笑しくないもの」
娘は、誰にでも優しい人でした。
「だからこそ、守ってあげなくてはいけないよ」
騎士の少年は言いました。
「人は簡単に、歪んでしまうから。優しい人が、優しいままでいるために、力ある者が守るんだ」
アニューは頑張りました。
娘を守れる力を、手に入れる為に頑張りました。
だけどやっぱり、アニューは騎士の少年には勝てません。
それから何年か経ちました。
相変わらず、アニューは騎士の少年──いいえ、騎士の青年には勝てません。
だけど、悔しくありませんでした。
騎士の少年の強さを、アニューは誇りにすら思っていました。
ある時、美しく育った娘が言いました。
「私、彼と結婚するの」
アニューは喜びました。
守らなければならない優しい娘と、守れる強さを持った騎士の青年が、一緒になる。
これほど嬉しいことはありません。
同時に、少し寂しくなりました。
娘が結婚したら、これまでと同じようにはいきません。
その寂しさを紛らわすように、アニューは二人を盛大に祝うことにしました。
アニューは二人を祝う為、たくさんの人に声をかけました。
たくさんの人が、二人の結婚を喜び、準備しました。
だけど、娘がやってきません。
心配したアニューたちは、娘を探しに行きます。
ようやく見つけた娘は、ぼろぼろになって、道端に捨てられるように倒れていました。
アニューは怪我の手当てができません。
「待っていて、すぐに人を呼んで来るから」
そう言って、走りだそうとするアニューを、娘は引き留めました。
「お願い。誰にも言わないで。心配させたくないの」
「でも、その怪我はどうするの?」
「大丈夫。きっと隠せるから。だから彼には言わないで」
アニューは娘に言われるがまま、まず娘を隠しました。
娘の家から化粧道具を持ってきて、娘に渡しました。
そして皆の前に行き、娘は体調が良くないようだと、嘘をつきました。
嘘は誰にもバレませんでした。
アニューは、賢くなっていたのです。
娘は傷を隠し、彼と結婚しました。
騎士の青年も、嘘に気づいていませんでした。
これから守り、どのような事があっても共にあると誓う二人が、アニューにはなんだかハリボテのように思えました。
「力があるくせに、守れてないじゃないか」
彼は、アニューよりずっと強いのに。
彼は、アニューよりずっと賢いのに。
彼は、逞しくて、頼りになるのに。
肝心の娘の傷を、労わる事はありません。
知らないのですから、当然です。
アニューは、二人の結婚を喜べませんでした。
それから、アニューは二人から距離を置きました。
頑張る事もやめました。
だって、どんなに頑張っても、騎士の青年に勝てないのです。
可哀想なアニュー。
愚かなアニュー。
貧弱アニュー。
笑われても、悔しくありませんでした。
一緒になって笑ってみました。
ありのままを受け入れると、少し、楽でした。
ある日、アニューは娘に呼び出されました。
「貴方にしか頼めない事があるの」
一体、どんな顔をして会えば良いのでしょうか。
一体、どんな頼み事でしょうか。
嗚呼、アニューは、期待に応えられるのでしょうか!
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