◇ 02
アティ、テルーナ、そしてグランと共に保護区に入り、地下道を見つけ、脱走を試みていたペルルたちと合流。そしてアオバの捜索に出──アオバの反応が消滅していた。
淡々と話すユラを、一旦止める。
「え、僕ってやっぱり、消えてたんですか?」
「驚いた。あの状態だと意識も保てても、数秒だろうに……」
「き、消えてたんですね……?」
オーディールに触れた事が原因だろうか? いや、今までも何度か触れているが、消えた事はなかったよな、と考えていると、観念したようにユラが口を開く。
「その……黙っていたのだけど、貴方の肉体は転生とは違って……非常に脆い状態なんだ。オーディールが貴方を生命だと認めなかった場合、今回のように霧散して消えるぐらいには、不安定」
「へー……オーディールってそんな力もあるんですね」
「なんで感心しているんだ。最近貴方の考えている事が分かりにくくて困る」
普通は怯えたりするものじゃないのか、と小声でぼやき、ユラは続けた。
「今回オーディールが貴方を拒絶したのは、おそらく、貴方が“黒い霧”を生んだのが理由だろう。今までは、オーディール自体が弱っていた事、そして“黒い霧”が発生してもすぐ対処していたからどうにかなっていただけで、常に危険な状態だった。それを……伝えないほうが、貴方を不安にさせないだろうと判断し、伝えずにいた。ごめんなさい」
今までずっと、ユラがオーディールの復活を素直に喜べずにいる様子だったのは、アオバのせいだったらしい。しおらしくなったユラに、アオバは慌てて首を振った。
「こ、こちらこそ、そんなに気を遣っていただいていたのに、気づかなくてすみません……でもまた戻れたんですよね? なんででしょうか……」
「……さあな」
ユラは、聞くな。と言いたげな顔をした。アオバは遮ってしまった事を詫び、ユラに話の続きを促した。
「アオバが消失して……その後か。さっきのリコルという青年らと鉢合わせた。テルーナが人を探していたのを覚えているか?」
「はい。あ、そういえばさっきの人、特徴が一致しますね」
「ああ。どうやら彼を探して周っていたようで、今は人探しは終えて、被害者を家に戻す手続きに励んでいる」
一拍置いて、ユラは続ける。
「さて。それで貴方の再再構築を見届けた後──」
「え。待って。見届けた?」
「うん。その場にいる全員で見届けた。だから、貴方が人ならざらぬ者だと認識されていると、構えておいてほしい」
「わ、分かりました……?」
ただでさえ、一緒に連れて行かれた面々はアオバの能力を見て御使いだと思い込んでいそうなのに、(どのような状況だったかは分からないが)再再構築とやらを見られては人外認定をされてもおかしくなかった。石を投げられても受け止め切れるだろうか、などと余計な心配しながら、ユラの言葉に耳を傾ける。
「その直後、地響きがしたので急いで撤退。テルーナの先導で、たどり着いた町で保護してもらっている。その後、先ほども言った通り、アティとグランがネティアたちを探しに行って発見し、この町で保護されている。大まかな状況は理解できたか?」
「はい」
「よし。それでだが、これを……ああ、見えないか。ええとだな、地響き以降、ラピエルの気配が保護区内で強まっている」
空中を指さし、それをアオバの目の前まで寄越そうとして、思い直した様子でユラが頬をかいた。考えと行動がかみ合っていないようで、こちらからフォローする。
「今までは、世界中に満遍なく散らばっているような感じ、でしたよね」
「ああ。以前からあった気配は変動無し、急に保護区内だけが強くなった印象だな」
「ということは、本体というか……ラピエルと接触するなら、保護区内が有力ってことですね」
少し分かってきたことをまとめていると、構ってと言わんばかりにペルルが顔を覗き込んだ。
「わっと。ペルルも怪我は……無さそうかな。よかった」
「ん。ぺるるねぇ、じゃんて、みつけた。みたからわかった。ぎゅうして」
「うん?」
言っている事が分からないまま最後の、褒めて、という意味で使われている「ぎゅうして」だけを聞き取り、だっこしていると、誠意が感じられなかったのか、ペルルは無表情ながら不満そうに唸った。
今日はよく喋るねぇなどと呑気に呟くと、横からユラが「アオバが目を覚ますまでは、保護された女の子たちと一緒にいたからだろう」と情報を足してくれた。(見た目は)同年代の少女らと仲良くできて偉いねー、とペルルに話しかけると、今はその話じゃないと言いたげに鎖骨のあたりに頭突きをされた。
「じゃんてだよ」
「じゃんてって何?」
「じゃんてー」
困ってユラを見るが、こちらも「分からん」と言いたげに首を振った。
「みつけたらねぇ、かいんよろこぶ」
「んー……うん? カイン?」
ペルルの顔を見つめ、何か思い出せそうで思い出せなくて、もやもやしながらペルルの背をさする。
(なんだっけ……ええと、カインが喜ぶ……じゃんて……じゃんて……)
ふと、ユラが俯いた。下の方を見て何かに気づいたようで、「あっ」と声を漏らして顔を上げた。
「もしかして、ジャンティー、か? 誘拐被害者の中に、成人女性でそういう姓の人がいる」
「じゃんてー」
「姓……ジャンティー……あっ!」
引っかかっていたものが取れた。
「ジャンティーって、カインの姓と同じだ! よく覚えていたね、ペルル」
「ぺるるえらい?」
「偉い!」
カインが姓名を名乗ったのは一度きり、しかもあの時のペルルは喋る事すら出来なかったのに……。記憶力の高さに驚きながらも、アオバはペルルを抱きしめた。
「偉いね。僕とカインがした約束、ちゃんと覚えてくれてたんだね」
「ふむ。とすると……後は本人確認か」
「すぐにしましょう!」
ペルルを膝から降ろし、ベッドに手をつき、体を外に向けようと力を入れた途端、腰から背にかけて激痛が走った。思わず叫びそうになったのを堪え、布団から足を出し、立つ──事は叶わず、そのまま前のめりに転んだ。
ユラが支えようと手を伸ばしたが、やはりすり抜けてしまった。
「痛てて……」
「だ、大丈夫か? 二日も昏睡状態だったんだ。急に動くのは無理だろう」
「い、いえ、立つぐらいは……」
床に手をつくが、そこから体が動かない。膝の関節が軋んで、座った体勢にすら動かせずにいると、扉の外からバタバタと足音がして、先ほどの金髪の青年が飛び込んできた。
「どうした!? 転んだのか?」
「すみません……ちょっと布団から出たら、立てなくて……」
「二日も寝込んでいたのだから、当然だろう。でもこれだけ動こうとする元気があるなら、食欲もありそうだね」
そう言ってリコルは軽々とアオバを抱えてベッドの縁に座らせると、持ち込んだ布巾を水を溢してしまった箇所に広げ、後ろから入ってきた生真面目そうな男性に目配せをした。その人物は、持っていた盆の上に、少量の食事を乗せていた。
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