第4話【2月20日】再会

翌日、東京駅から東北方面へ行く

新幹線のグランクラスを予約。

出発の前に姉へと連絡して今から

帰ることを伝えた。突然の電話と帰省報告に

とても驚いた様子であったが久々に聞いた

声はなんだか嬉しそうだった。


乗り込んだ快適な車内、サービスのビールを飲みながら、残された時間で何をすれば

いいのだろうという、経験したことのない

難問について考え始めた。

今まではスーパースターになって金を

稼ぎ、姉家族をはじめ応援してくれた

親戚や地元のみんなに恩返しをしたい

などとありきたりな事を漠然と考えていた

のだけれども時間も限られてきた今

いったい何をするべきなのか?

形を残す何かをしようにも2月23日には

俺のことなど誰も覚えていないのだ。


駅に到着すると、姉からの連絡をうけた

いとこ達が迎えにきてくれていた。

久しぶりの再会を懐かしんだ後、

車へと乗り込んだ俺はいつも通りの

ハイテンションでアメリカでの生活の話や、今までに出会ってきた有名人の話をした。


普段、聞くこともないであろう話に皆の

テンションが上がり、次々と質問を

投げ掛けてくる。久しぶりに頭の中に

飛び込んでくる懐かしい東北訛りの

言葉たちは英語ばかり聴いて疲れていた

俺の脳に束の間の癒しを与えてくれた。


話は尽きぬまま、姉の家へと到着する。

チャイムを鳴らすと義兄と子ども達が

出迎えてくれた。大きくなった甥姪の姿に

思わず笑みが溢れた俺は二人まとめて

抱き抱えると苦しいと言いながらも

楽しそうに暴れだすまで離さなかった。


リビングに通された俺は数年ぶりに会った

姉の姿に少しドキッとした。

最後に会った時は下の子が産まれたばかり

だったため通常より若干ふっくらとは

していたがその頃からすると多分、20kg

近くは痩せているのではないだろうか。


バレないように静かに深呼吸すると

「姉ちゃんただいま!何?産後ダイエットに

成功したの?びっくりしたわ!」

と失礼な言葉を言う。


姉は弱々しく頷くと

「おかえりなさい、第一声がそれ?

相変わらず失礼なこというやつだね」

と笑いながら言った。


久しぶりの姉弟の会話。

これ以上の言葉は全く出てこなかった。


場の空気を変えるため

「よ~し、夜ご飯は大リーガーの俺様が

何でも好きなものを食べさせてやるぞ!」


と偉そうな態度で笑いをとりながら

その場を切り抜ける。


肉が食べたいと口々に叫ぶ意見を聞き入れ

小さい頃から両親に連れられて

よく行っていた焼肉屋に電話をする。

店に予約が入っていないことを確認すると

ここで、スーパースターの出番だ。

店主に話をつけ焼肉屋は本日、店を

貸しきりにしてくれることとなった。

皆にその事を伝えると、日常では

滅多にできない経験にとても

興奮した様子で喜んでいる。


その光景は、姉の家から悪いものが

全て飛んでいってしまうのではないかと

思うように明るく騒がしい光景だった。


"今から焼肉屋○に集合!

時間あったらきてね。

勿論全て、俺様のおごりです。

by東北が生んだスーパースターより"


というメールを親戚中に送る。

姉は、あまり人には会いたくないだろう。

昔から人に弱味をみせたりしない姉が、

病と戦い、命果てようとしている姿を

親戚とはいえ他人に見せたいはずがない。


しかしここは、姉の気持ちには

気づかないふりをすることにした。

なんせ俺には時間がないのだ。

忘れられるとは言え、1人でも多く

お世話になった人々の顔をみておきたいと

思うのは普通のことだろう。

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