第3話【2月19日】研究者との契約

カウンターの席に案内された俺は

椅子に座り男の行動を観察する。

「何かお飲みになりますか?」

と聞かれたがその質問には答えなかった。

俺が聞きたいのは、看板のことだけだ。


「表の看板、あれって本当なんですか?」

男は優しげな表情で頷いた。

「どうしたら叶えてもらえるんですか?

金ならいくらでも払えます」


男は、拭いていたグラスを置くと後ろの

戸棚の引き出しを開け上部に【契約書】

とかかれた一枚の紙を差し出してきた。

下部には日付と名前を書く場所がある。


内容はこういうものだ。

"あなたの願いを1つだけ叶えます。

ただし、あなたの命は契約成立後1週間

以内の指定された日が終わる瞬間に安らかな最期を迎えることになります。

その願いが叶うのは、あなたが息を

引き取った瞬間です。そしてその瞬間に

あなたが今まで生きてきた痕跡は全て消えてしまいます。人々の記憶からもです。

この契約は決して口外してはいけません。

口外した瞬間にあなたの死は安らかなもの

から想像を絶する苦しみを伴うものに

変わります"


そして男はこう付け加えた。

「信じられないとは思いますが私は、この

地球を観察し研究しているものです。

この様な条件を出された人間達がどのような結論を出し行動をするのかのサンプルを

とっている研究者といったところでしょうか。 勿論、紙に書かれた条件を受け入れる

かどうかはあなた次第です。お断りになる

というのであれば、私に出会ってからの

記憶を消しあなたは元の路地裏に戻るだけ

ですのでご安心ください。

今後のあなたの人生には何の影響も

ございません。もし契約を結ぶのであれば

契約書通り、あなたの願いを絶対に叶えて

差し上げます。死んでから確認に行くことは

できますし、約束は必ず守るのでご安心

くださいませ。」


男が何を言っているのかよく理解できず

ドッキリのカメラでもあるのではないかと

辺りを見回してみたが、薄暗い店内に

それらしきものは見当たらなかった。


突然のことに混乱しながらも余命を

言い渡された姉の姿を頭に思い浮かべた。

姉夫婦にはまだ小さい二人の子どもがいる。

突然母親が目の前からいなくなる子ども達のこと、二人の成長を見届ける前にこの世から消えてしまう姉の気持ち。

俺が死ぬことで、これらを解決できる

というのだ。この家族の不幸を取り除く

方法が他にあるのだろうか。


にわかには信じがたい話であるが俺は

この契約書にサインをすることに決めた。

姉の代わりに死んでやる、それでいいのだ。

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