第2話も個人情報です。

 それから間もなく、別の男性が血相を変えて飛び込んできた。

「ちょっと、すみません!」

「何か。」

 応対するのは、先輩婦警だ。


「妻、妻と昨夜喧嘩してから、出て行って、行方不明なんです。それで、そ、そこの駅で人身事故があったって聞いたんです。それも女性が自殺したみたいで。ひょっとしたら、妻じゃないかって、それで」


 かなりの動揺ぶりなのは若手女子警官にもはっきりとわかる。

「どういったご用件でしょうか」

「ええと、駅の人に聞いたら担当の警察署がここだって聞いたので、ええと、僕もまだ何も知らないんですけど、事故にあったのは、自殺した人がいたのは間違いないんですか」

「個人情報になりますのでお答えできかねます」

「男か女かだけかでもいいんです」

「それは個人の情報にあたります。個人情報です」

「事故があったのは確かなんです。どんな人かだけかでも」

「個人情報です」

「個人情報個人情報ってそんな、妻かもしれないんですよ?」

 男性からは焦りからくる苛立ちが見えた。

「あなたとその方が夫婦であるという証明もありませんのでお答えできかねます」

「住民票でも持ってくればいいのか?いいんですか?」

「それも含めて、個人情報ですので」

「じゃあ、その事故に遭った人は死にましたか、生きてるんですか」

「それも個人情報ですのでお答えできません」

「あのなあ、何も知らないと思いやがって、法律では個人情報は生きている人間の情報だろ。死んだ人の情報は個人情報に当たらないだろ」

 若い女性警官は聞いていてたじろいだ。これはさすがに……。

「事故があったとして、その人が生きていたとしたら?個人情報になりますよね」

「く……」

 ベテランの先輩婦警は全く動揺するそぶりさえ見せない。

「心配だから来てるんだろ!連絡も取れないんだ!じゃあどうすればいいんだよ!」

「亡くなられたのであれば新聞に載りますので」

「なんだっ!その言い方は!新聞には、マスコミには情報流すのか!」

「報道の自由ですから」


 結局、全く話が通じないことをさとり、門前払いされた男性は帰っていった。

「さ、さすがですね」

「こんなことでうろたえていて、どうするの。あなた、ここをどこだと思っているの?」

「ここは、警察です」

「わかっているじゃない。私たちの役割はただひとつ。絶対に上には通さない。絶対に、警察は仕事をしないのよ」


つづく

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