第5話 精霊四属性と聖獣四属性
ニーアの店へ向かえば普段着の一つは完成させてくれていたようで早速着替える。
他にオーダーしていた物に関しては、仮縫い状態だったためまた後日引き取りに行くことにして、追加注文を付けた。
学園側の授業はこの時期一週間、短縮授業を実施するらしく、食堂で合流した俺たちは朝同様に軽く食事を済ませてリーナの部屋へと戻ってきていた。
「さて、朝の続きだ。この世界には火、水、風、土の四属性が存在する。
だがな、人の身体に流れる属性は決して四属性だけではないんだ」
「どういうこと?」
リーナは眉をひそめる。
この世界においてこれら四属性を扱えないということは落ちこぼれということであり、そもそも属性が合ってないから使えないという発想に至らないのだから。
実は魔法というのは誰でも使えるものなのだ。
当然、持って生まれた素質によって実力差は出るが、全く使えない者などいない。
何故なら、全ての人間は少なからず魔力を持って生まれ、必ず一つは属性の波動を持って生まれるからだ。
「それにな、色々と思い返してみたりニーアに話を聞いていたりして思いついた推論なんだが、恐らく使い魔の召喚において召喚された使い魔は主と同じ属性を持っている可能性が極めて高い」
「同じ属性? 確かにアイシア様は
「まぁ、そういうことになる」
「ま、待ってください! なら、私の属性は何だって言うんですか?」
サーシャは使い魔である白い猫を腕に抱いている。
触れば本当に生きているのか不思議に思うほどひんやりとしている。
「冷たい……この子は何が出来るの?」
「わ、私もまだ把握していないんですが、なんか水に触れると凍らせてしまうんです……」
「やはりか。となると、落ちこぼれと言われる理由も分かる」
「波動を持たない意外に理由があるの?」
「確かに、四属性の波動は持っていないが、それでは満点は上げられないな。
例えば、俺もその四属性に関しては適性がないぞ」
サーシャが目を見開いて驚いている。
今朝、火を指先に灯して見せたばかりなのだから当然と言えば当然である。
「人間、必ず一つは波動が流れている。
複数持つ者や、他の属性は微弱な波動を持つ者など様々だ。
魔法とは呪文を唱えて波動を体外へと打ち出す行為を示す。
故に、火属性魔法の呪文を唱えても、火の波動を持たない者は火属性魔法を発動出来ない。
実際問題、リーナは複数の属性の魔法を使っているが、詠唱はしていないのだろう?」
「確かにしていないわ。
すると逆に出来ないもの」
「それは、リーナの使用している魔法が普通の魔法ではないからだ」
「普通じゃない魔法?」
「そう、俺は便宜上、精霊魔法と呼んでいる」
世界には二つの魔法が存在する。
先に言った通りの波動を体外に打ち出す“魔法”と、精霊の力を使って魔力で現象へと干渉する“精霊魔法”だ。
魔法とは魔力をイメージ通りの形にして打ち出すものであり、一言に火属性と言っても炎の大きさや形状に違いが出る。
例えば、槍の様な形で前方に放つ“フレイムランス”、広範囲を焼き払う“インフェルノ”などなど。
そして、これらの魔法を繰り出すのに必要なのがイメージで、イメージを呼び起こすのに必要な
要は連想ゲームと同じ要領なのである。
それに対し、精霊魔法とは読んで字のごとく精霊の助力によって発現する魔法である。
詠唱なしで魔法が扱える上に、精霊との意思疎通さえ出来れば自身の波動の属性とは関係なく他の属性も扱える。
もっとも、各属性の精霊と交友を持たなければいけない上に、イメージを精霊に伝え代わりに魔法を使って貰うわけで、イメージ通りの形で魔法が簡単に使えるわけではない。
故に精霊魔法師はどこの世界でも重宝されるのだ。
難易度が高い分、複数の属性が扱えるようになればその分だけ汎用性も高まる。また、そもそも魔法の扱いはどんなに頑張っても人間より妖精の方が上手なわけで……
「私が
「まぁ、そうなるな。精霊魔法含めていいのであれば、リーナは五属性使えるはずだからな」
「五属性?」
「俺の適性属性はな――光属性なんだ」
二人は首をかしげる。
無理もない。
精霊の持つ属性とは火、水、風、土の四属性のみだが、聖獣を含めれば光、闇、氷、雷の四属性の計八属性が存在する。
命ある全ての生物は星の子である以上、聖獣や精霊との繋がりは切っても切り離せない。
つまり、八属性のいずれかに属しているのだ。
しかしながら、この世界の常識では人は四属性のどれかに属しているという。
当然、聖獣の四属性に属する人間は落ちこぼれ判定を受けてしまうのだ。
「要約すると、俺は聖獣四属性の一つ光属性に属していて、主であるリーナも必然的に光属性ということになるわけだ。
光属性ということは当たり前だが光魔法しか扱えない。
この世界に光魔法がない以上、リーナが精霊魔法しか扱えないのは必然というわけだな」
「そんな話、信じられると思う?」
「ま、無理だろうな。
そして、証明も難しい」
魔法は簡易的な物であれば発動したとて、校則に裁かれることはない。
朝食の時の
しかし――
「聖獣四属性って言うのは、光、闇、氷、雷の属性を指す。
そして、どこの世界であろうとも、創造神を頂点とする階級とでも言えばいいか、要は、格って言うものがあるんだ」
この全ての世界を構成する次元を創造神が創ったとすれば、それぞれの世界を創った神。そこで生活する生命を生み出した神。自然を生み出した神。生命が持つ運命を紡ぐ神等々、実に多くの神が存在する。
そして、その下には世界の安定を図るためのシステムとして、神格を与えられた獣たる聖獣。聖獣に選ばれ、神格の一部を貸し与えられた精霊の長、精霊王などが居て、その下に特出した人間“英傑”がいるものなのである。
この図式で言うと、上から順に大雑把に書けば「神」「聖獣」「精霊王」「英傑」となる。
「となると、精霊四属性と聖獣四属性のどっちが強いと思う?」
「聖獣四属性ってことよね?」
「そういうことだ。
この世界で言う精霊四属性を魔法で扱うのと同じで、聖獣四属性は自身で発動しなければいけない。
聖獣は人間から見れば神も同然だからな、力を貸して貰える者など英傑といえど極わずかさ。
それ故に、どれも強力な魔法とも言える。
ちなみに、光属性は邪気の浄化といった能力もあるが、光自体が収束すれば膨大なエネルギー源だからな。とてつもない破壊力がある。
例え外でも、試し打ちなんかしようものなら、たちまち大騒ぎになるだろうさ」
実際には見せた方が早いだろうが、残念ながら今の俺では適正のある光属性魔法しか扱えない。
あんなものを使ってしまえば、朝のような誤魔化しは利かないだろう。
だが、幸運にもサーシャは氷属性に適性があるようだった。
「なぁ、サーシャ。今日から魔法の訓練を俺から受けてみないか?」
「魔法の訓練ですか?」
「そうだ。まぁ、光属性魔法を一目の付かないところまで行って見せることも出来るだろうが、それで見せられるのは光だけだしな。
だったら、無能と呼ばれた人間が氷属性魔法を使ったらどうだ?
この世界の魔法に対する常識が覆り、俺の妄言も妄言ではなくなる。まさに、一石二鳥だ」
「それが本当なら――でも、私に出来るでしょうか?」
「大丈夫さ。その使い魔がいい証拠だ。
昨日の召喚で呼び出された多くの使い魔たちは、それぞれ属性をしっかりと持ってはいたが、あの教師の男が言っていた通り、能力が強く戦闘に適したものは少なかった。
その点、その猫はかなりのポテンシャルを秘めているように見える」
「そんな適当なこと言って大丈夫なの?」
「言ったろ。妄言が妄言じゃなくなるって。
まぁ、妄言で終わる可能性もお前らからすればあるけどな」
さぁ、どうする?――そう問いかけるようにサーシャを見つめる。
どうやら、彼女も決心したようだった。
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