第4話 異世界の魔法
「何故止めるリーナ」
「その方が誰か分かって言ってるの?」
「王家の血を引く分家筋のリーベルト大公家のご令嬢だろ?」
はぁ……とため息を付くリーナ。
何故そこまで分かっててそんな態度なんだと続けて言う。
理由? そんなもの決まっている。
「俺はこの世界の人間じゃないからな。
この国の王が誰なんか知らないし、王の功績も知らない。
何も知らないものを崇拝する気はない。
そして、俺の王家に対しての印象は王家の血を引くアイシア嬢の態度から見て、はっきり言って最悪だ」
「ふん! たかが使い魔風情が偉そうにっ――」
「使い魔としてリーナの指示にある程度は従うつもりでいるが、俺も思考を持つ者として考えることをやめることは出来ない。
そして、大公という爵位が邪魔して誰も意見を言わないのであれば、爵位なんか知らない俺がお前に物申してやろう」
――爵位に甘えるな
はっきりと言ってやった。
何故、俺がここまで言うか。
そういう身分に甘んじて破滅していった者を知っているからだ。
彼女はそれ相応の教育を受けているのは傍目から見てもわかる。
彼女を見れば誰もが爵位に甘えるだろう。
そう言う貴族が増えれば貴族の威厳もなくなり、国は腐敗の一途を辿るものなのである。
だからこそはっきりと言った。
とはいえ、少々強引だった自覚はある。
それ故に、彼女は魔法を行使してしまったのだから。
リーナが止めに入ろうとしているのが視界の端で見える。
リーナの魔法師としての才能は飛び抜けているとニーアから聞いてはいるが、前で頭に血を上らせて暴走直前の魔法を止めるには少々動きが遅かった。
アイシアの手には周りを焼き払えるほどの火が収束する。
周りの令嬢は慌てて散っていく。
聞けば、構内で私情による魔法行使は禁止されているとか。
それもそのはず、あんなもの何の監視もなく行使すればどんな被害が出るか分かったものではない。
だからこそ、この騒動を止めるために、俺も魔法を使った。
「え? つめ――あつっ」
直後に爆発が起きる。
俺たちの周りには激しい風が吹き荒れるが、外への被害はなかった。
何をされたか分からないという顔でこっちを見るアイシア。
「貴方何をして……っ⁉」
直後、俺は思いっきりアイシアの頬をビンタした。
リーナやサーシャが唖然とする中、俺はアイシアに向き直った。
「お前こそ何をしたのか分かってるのか?」
「なんですって?」
「お前こそ何をしたか分かってるのかと聞いた」
「大公の娘にこんなことして――」
すぐに気持ちのいい音を立てアイシアの発言は中断される。
当たり前だ。呆れてものも言えないので思いっきり叩いたからな。
「俺はさっき、爵位に甘えるなと言った。
それが何だ? いきなりあんな考えなしに力込めただけの火属性魔法なんかだして、そのまま放った時の被害を考えなかったのか?」
実際、アイシアはただ力を込めているだけで半ば魔法の制御を失っていた。
あのまま放てば、まずここにいるサーシャとリーナも大やけどし、後ろにある寮も焼けていただろう。
だからこそ、アイシアの手に水属性魔法を行使して火を消し、水蒸気爆発を風属性魔法で俺たちの周囲を囲うことで被害を減らしたのだ。
「何しても終いだ。誰か来たみたいだからな」
サーシャとリーナに目配せして走り出す。
しかし、アイシアは腰を抜かしたらしくそのまま地べたに座ったままだった。
「まったく、仕方のない奴だ。二人とも先に行っててくれ」
踵を返しアイシアを担ぎ上げる。
もっとも、令嬢を雑に担ぐわけにも行かずお姫様抱っこになってしまったが、まぁ、そこは腰抜かして全く動けないアイシアが悪いのだ。こっちの知ったことではない。
「ちょ、ちょっと!」
「落とされたくなかったら大人しくしてろよ。
見つからなければどうとでもなるが、見つかればあれやこれやと言われるぞ」
アイシアは黙った。
当たり前か。大公の娘が学校で問題を起こしたなど不名誉にも程がある。
誰がなんと言おうと、そんな事実がそもそもなければ問題ない。
自力で動けないアイシアは黙るしかなかったのだ。
そして、そのまま食堂の近くへと移動した。
場所は知らなかったが、二人が先行していたためすぐに見つけることが出来た。
「まぁ、ここまでくれば何も問題はないだろう。
幸いあの場にはお前の取り巻きしかいなかったようだし、あとできっちり口止めしておけよ?」
アイシアを下ろしながらそう告げてリーナとサーシャのもとへと急いだ。
流石に丸一日なにも口にしてなかったために空腹もそろそろ限界だった。
アイシアはどこか呆けていたが、まぁ、別に問題ないだろう。
逆上して何かしてくる様子もないし、あと処理はリーナがうまいことしてくれるだろうし、俺が考えたところでどうしようもない。
「おかえりツカサ。アイシア様は?」
「なんか、呆けて居たから端に座らせてきたよ。
ついでに取り巻きの口止めもお願いしておいた」
「すぐにバレそうな気もするけど、起きたことをどうこう言っても仕方ないわね。
とりあえず、朝食にしましょう?」
「で、では私はこの辺で――」
「何を言ってるの?
あなたも一緒に来るのよ」
離脱しようとしたサーシャを引き留めるリーナ。
正直引き留めるとは思ってなかったから、俺としては非常に意外な行動だった。
「いいんですか?」
「これも何かの縁でしょうしね。
ツカサも何も考えず声をかけたわけではないんでしょう?」
「さて、どうかな。きっかけは偶然。結果は必然。
確かに、サーシャにはいずれ声をかけていただろうよ」
サーシャはそう聞いて目を見開く。
大方、落ちこぼれ同士、話す機会も増えるという意味に捉えているのだろうが、残念ながら別件だ。
席へと移動しながら俺は一つ疑問に思っていたことを聞く。
「まず前提条件として聞きたいんだが、この世界の魔法属性はいくつあるんだ?」
「まるで、世界によって属性の数が違うような物言いね?
属性はもちろん、火、水、風、土の四属性よ」
「やはりか……ちなみに、その属性の得手不得手は何で決まる?」
「か、身体を流れる波動の属性によって変わります。
人の身体には生まれたときから魔力と波動の二種類が備わっていて、生まれ持った波動の属性がそのまま適正魔法になります」
「じゃあ、いわゆる落ちこぼれって奴は魔法が使えないということか?」
実際に落ちこぼれと呼ばれていたサーシャの前で聞くのはどうかとも思ったが、前提条件を聞いた上でどうしても確認しておかなければいけない内容だった。
「そ、そうなりますね……どの魔法も失敗するということは、術者の波動が中途半端でどの属性でもないということですから」
「それを聞いてどうなるの?
今、目の前にいるサーシャはまさにその属性不明の魔法師なんだけど?」
「ん? リーナはサーシャと面識あるのか?」
「別にあるというわけではないけども、クラスは一緒だから嫌でもその辺の嫌がらせの話は聞くわ。
流石に私の目に付く範囲ではしてないようだけどね」
流石にいじめっ子グループも公爵令嬢の前では表だって動かないらしい。
とはいえ、そもそもいじめの原因が勘違いだとすれば?
どうやら、この世界の魔法技術というものは他の世界に比べて遅れているようだ。
「で、リーナはどうなんだ?」
「私? 私はどの属性も使えるわ。
もっとも、他の人と同じように術式による魔法ではないから『超能力』なんて言われてるけども……」
「試しにこんな感じで炎を出してみてくれないか?
魔法行使と言ってもこのくらいなら問題は起きないだろ?」
「まぁ、そのくらいなら」
こっちが右の人差し指を上に向け、指先にろうそくの炎の様に火を出すと、リーナもまねをして火を灯す。
「お二人とも凄いですね……特にツカサさんは使い魔さんなのに」
「確かに、なんでツカサは魔法が使えるの?」
「俺か? まぁ、理屈はお前らと一緒なんだが……授業の時間大丈夫なのか?」
二人が時計を見れば、
食堂の席もすでに空席だらけだ。
慌てて食事を取り二人を見送った俺は二人と放課後にリーナの部屋で会う約束をしてニーアの店へと向かった。
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