閑話 落ちこぼれと呼ばれた少女
私が生まれる前から、私の周りでは不思議なことが起こっていた。
例えば、私をお腹に宿した母様は私を生むまでの何ヶ月もの期間を腹痛と戦っていたらしい。
普通に考えれば、私がやんちゃでしょっちゅうお腹を中から蹴り上げていたからだと考えると思う。
違うのだ。母様はお腹の内側から来る冷気と戦っていたのだ。
意味が分からないかもしれない。
でも想像してみて欲しい。氷菓子をたくさん食べた時にお腹の内側から冷たさがへそ周りへと伝わってくる経験はないだろうか?
あれがより酷くなったと思ってくれればいい。
当時は誰もが不思議だった。
しかし、異常はそれだけでは終わらなかった。
生まれてきた私は産声を上げていたし、誰もが無事に生まれたと喜んだ。
喜びは束の間、父様が私を抱き上げることで新たな疑問が浮かぶ。
冷たかったのだ。
母親の中で育ち、人の体温に触れていた赤子が生まれた直後に冷たいなどありえない。
だが、私は泣き叫んでばかりで特に異常があるようには見えなかったらしい。
だけど、今にして思えばそれは必然だったのかも知れない。
私はそんな怪奇に晒されながらも平穏に、そしてすくすくと育った。
そして、ある転機が訪れる。
この国の子供は五歳になると、自身の属性を調べることが義務付けられており、私も例外なく国の鑑定士により属性を確認されたのだ。
結論から言えば、適正属性なし。
両親は驚愕した。
私の身に起きていた怪奇の殆どは魔力制御が出来ないが故の暴発だと考えていたのだから当然だ。
そう、私は人よりたくさんの魔力を持ちながら、そもそも暴発させる属性を持っていなかった――と当時は誰もが思っていたわけだ。
普通だと勘当されたりするのだろうが、幸い私の両親たちはそれでも私を愛してくれた。
その後、魔力量の多さから魔道具技師になる道もあると必死に進路を探してくれた両親には今でも感謝している。
だけど、これもまた苦難の始まりに過ぎなかった。
私が貴族の血を引いていること、魔力量が多いこと、魔法の練習をしてこなかった分、教養は上位に食い込んでいることからも教師陣からは一目置かれていた。
しかしながら、周りの生徒は状況が違う。
同じ貴族で、場合によっては位が上のご令嬢や嫡男たちだ。
私は当然のことながら落ちこぼれとして扱われた。
もっとも、実害が出るようなことには発展しなかった。
これも両親の努力の賜物というもので、実害が出ないよう裏から手を回していたらしい。
男爵家でありながら、それだけやるということは、寄親のアイオーン公爵家にかなりの借りを作っている可能性もあった。
それ故に、私は何が何でも魔道具技師になる必要があった――と思っていたのに、ここでまた転機に出会う。
「なぁ、サーシャ。今日から魔法の訓練を俺から受けてみないか?」
最初何を言っているんだろうこの人はと正直に思った。
だけど、少しその話を信じてみてもいいと思った。理由は簡単だ。
私の適正属性が氷だと彼は言う。
本当に私たちが知る四属性以外にも属性があって、私が仮にその氷属性に適正があるというなら、私が冷たい状態で生まれてきたことも辻褄があう。
幼い頃から魔力が暴走していたのだとすれば、氷属性の魔力の暴走で冷えていたということだ。
だから一つ信じてみてもいいかなと思った。
異世界から来たという彼、時任司という不思議で優しい使い魔のことを――
――
あとがき
今回はサーシャ視点。
閑話なので超短いです。
次の話は早めに投稿できたらいいのですが、何分、書く時間がない(ゲームしてるだけ)、三作品書いている(一個に絞ればいいだけ)と、色々いつも通り迷走しています故、気長に待って頂ければと思います。
今回のカクヨムコンは全部で三作品の応募です。
他二作品も、本日同時刻に公開しています。
一作品は三人称視点で物語を書いていますが、私の文体はどの作品もきっちりと出ていると思いますので、この作品を気に入ってくれた読者の皆様には是非、他作品の評価もして頂ければと思います。
・才女の異世界開拓記
https://kakuyomu.jp/works/1177354054886236317
・黄昏の巫女と愚かな剣聖
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