I.星剣を持つ者

序章 幾度目かの異世界転移

 この世界には複数の世界が存在する。

 それらは決して同じ時空に存在せず、歪みを通り抜けなければ辿り着けない場所。

 そこには魔法があり、スキルがある。

 片方しかない場所、両方ある場所。そして、両方ない場所だ。

 人はそれぞれの世界で才能、スキル、適正魔法を持って生まれ、一生を過ごすというサイクルを盤上の駒のように繰り返す。

 しかし、稀に他の世界へと召喚され、新たな力を得る者も存在するのだ――


§ § §


 軽い衝撃を受け顔をあげる。そこはただの芝生だった。

 地面に投げ出され顔を上げた俺は、自分が異世界へと召喚されたということを悟った。

 状況をすぐに察知し、受け入れるとは何と物分りのいい――と思うかもしれない。

 しかし、この異世界転移という現象を知っていれば嫌でも察するというものである。

 ただ、今回の召喚に置いて何か様子がおかしいと感じた点があった。

 異世界転移というものは、俗に言う勇者召喚というものであり、他の被召喚者と共に王国の脅威と相対するものだ。

 だが、一体どういうことだろうか? 周りに学生がいるようにしか見えなかった。

 驚いて周囲を見回したが、そこに映るのは制服らしき衣服に身を包み、ケタケタと笑う男女だ。

 当然だが、彼ら彼女らが嘲笑しているのは俺ではない。目の前に仁王立ちした少女である。

 その表情は信じられないものを見たかのように目を見開いている。

 その背後には困惑した男性がどうしたものかと頭を抱えている。服装の違いや年齢から見るに保護者、あるいは担当教師と言ったところだろう。


「ミス・レイフォース。その、何と声を掛ければいいか……」


「構いません先生。はっきり言ってください」


「そうか……少なくとも私の知る限りでは過去にない事例だ。失敗と断言は出来ないが、成功とは言えないように思う。

 とはいえ、使に人というのは、日常生活においては十分に活用できるだろう。

 現に、今まで召喚を終えた者たちも、戦闘向きではない使い魔を持つ者は多い」


「慰めは入りません。これは失敗なのでしょう。

 私は事実を受け入れ次に進まなければいけません。

 不本意ではありますが、彼が私の使い魔で間違いありませんから」


 話を聞きながら酷い言われようだと立ち上がった。

 近づいてきたレイフォースと呼ばれた少女を再び見る。

 自分より頭一つ分は低い身長で、長い白銀の髪と紅い目。

 何か惹かれるようにその目を見ていたが、その顔が不意により近くへと近づいてきた。

 気づいた時には口と口が合わさり、自分のものではない別の魔力が体内へと流れてくる。

 体全身が焼けるような熱に襲われ、引いた頃には右手に一つの紋様が浮かび上がっていた。


「私の名前はリーナ・レイフォース。今日から貴方の主になる者よ」


 そう言って彼女は手を差し出してきた。

 波乱の予感を覚えつつ、新たな異世界生活が始まろうとしていた。

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