第59話 提案と攻守
「ねえ、アスカ君。ちょっとルールを変えないかい?」
剣撃を一切緩めることなく、突然カルマが口を開く。
「どういうことだ?」
「なに、このままどちらかのシールドが2枚とも破れるまで君とずっとぶつかっているのも悪くないけど、まだお互いに無傷。
それに、自分で言うのもなんだが、僕は体力は人並み以上にあることを自負している。
それは君も同じだろう?」
「このまま何十時間もスタミナ切れまでキンキンやるより、すっきり決着をつけようってことか。俺もそっちの方が分かりやすくて助かる。」
「そう言ってくれると思ったよ。一応提案させてもらうと、ストラグルというゲームだ。
まず、1分ずつ互いに攻撃と守備を繰り返す。
攻撃側は守備側の体かその所有物のどれかに剣を当てれれば勝ち。
守備側は剣で防いだりは禁止で、完全に回避に徹してどこにも剣を当てられなければ勝ち。
2セット繰り返して勝ち数を競い、同点ならサドンデスセットで繰り返す。
このルールに触れなければそれ以外は自由。
どうかな?僕が昔故郷でよくやってたゲームだから、君に不利と思えば拒否してくれて構わない。代案を出そう。」
暫しの沈黙。
「いや、大丈夫だ。俺もそれでいい。」
「なんということでしょう!
なんと!30分以上剣撃を交え続けたと思えば、突然新たなルールを2人で決めてしまいました!
しかし、運営側はあくまで互いの意見を尊重します。
1分の時間はこちらで測らせていただきます!」
「カルマ、それならもうこの撃ち合いは一旦やめないか?」
「ああ、そうだね。忘れていたよ。」
ずっと続いていた金切り音が止み、森の閑かさが漂う。
「先の攻守は君が決めてくれ。それと、ヒラつく衣服なども攻撃の対象内になるから外しておいた方がいいよ。」
自分のの額を見てほくそ笑むカルマを見てなんのことか分からなかったアスカだが、触れてみてようやく気づく。
「早く言ってくれよ…」
2回戦までの団体戦でリーダーの証としてつけていた赤いハチマキをバツが悪そうに外す。
「いやあ、君の仲間があえて黙っていたという、君への愛情表現を僕も真似ようと思ってね。」
試合が終わったら懲らしめてやろうと心中で思ったアスカだった。
特にメグを。
「先に守備を希望する。」
「分かった。それじゃあ始めようか。本当の決勝戦を。」
「タイマーの準備が整いました。
新ルール、ストラグルでの決勝戦第3試合。
1セット目 攻撃 : カルマ・守備 : アスカ
開始!」
(基本ルールはいたってシンプルに思えるが、気になるのがそれ以外は何をしても自由ってところだ。
防いではいけないのに武器を使うってことか?いや、何に…
クソッ流石に早いな。これは、1分でもさっきよりもキツイかも。)
振られる片手剣は一本であるのに、数秒の間に入る斬撃の数はは、クロウの双剣にも劣らない。
しかも、本来は致命傷になり得ないため、髪の毛や服は第一に守るべき胴体などに比べて、かすめても大丈夫という意識があるため、
それらが致命傷になるこのゲームにおいては、かわす時の剣と体との距離感やタイミングが普段とは違うのだ。
それを掴むための先手で守備。
アスカの捨ての一本だった。
(いっそのこと、飛翔で高く飛ぶか?いや、あいつのバケモノじみた脚力なら跳躍でついて来られるかもしれない。
それに、高度を上げれば、それだけ速度も落ちる。そうなれば、格好の的になってしまう。
4回のゲームでそんなギャンブルはできない。
隠密で姿を隠せば確実に一本はとれるが、剣を当てるときには姿を出さなきゃいけない。一度解除したら数分のインターバルを置かなきゃいけない。一回1分のこのゲームで複数回使えるかどうか…
切り札としてとっておくべきか。)
「あれ?予選のときみたいに消えないのかい?あれをやられたら結構厄介だと思ってたんだけど。
やっぱり、強力な魔法には何かしら制限があるみたいだね。」
(肯定も否定もできない。よくは分からないが、心を見透かされている気がしてしまう。
それほどカルマが剣を握っているときの目からは、普段とは違う気迫を感じる。)
「終了ーー!アスカ、回避成功!1-0攻守交替です。」
「カルマ、わざと当てなかっただろ?」
「手を抜いたとか、そんなつもりはないよ。ただ、やっぱり自分の提案したゲームで自分が最初に得点したら、ちょっとフェアじゃないじゃないか。」
「そうか、じゃあありがたくもらっておくよ。」
「それでは1セット裏、開始!」
(あいつの直剣に対して俺のレイピアは体積的に不利な所はあるが、その分、機動性が高い。
しかもカルマは長身。当てれないこともないはずだ。
狙うのは体ではない。靴か服の袖。1分あれば当たるはず。まだ時間がある。
なのに、それなのに…
「終了ー!カルマ、回避成功。1-1で攻守交替です。」
終わるな終わるな、と念じながらの1分は、一瞬で過ぎ去ってゆくのだった。
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