第58話 決着と理解

「しゅ、しゅうりょーーーう!今度こそ、正真正銘決まりました。

ロイ、フロンのシールドが破壊されたため、勝者、クロウ・イオン ペア!!


よって、優勝争いは1-1で、シングルス戦へともつれこみます!」




「クロさん!」

「ふん、よくやったわね。」


「ああ、正直、最後、水の範囲外に飛ばされてなかったら俺もあれをくらって勝てなかっただろうな。」


「ま、運も実力の内っすよ。後はあんさんに任せればいいんだし、国選パーティーも決まったようなもんっすよ。」


でしょ?っとばかりに期待の目をアスカへと向けるメグ。


「いやあ、善処はするが、相手があいつだとよく分からないな。」


カルマをチラリと見ると、負けた2人を笑顔で出迎え、嫌がっているのをムリヤリ抱きしめている姿が見える。


「そんなことないっすよ。私、あんさんが勝つ方に有り金全部賭けてますし。あっ…」


「おいおい。」


ベンチャー大会本戦では、一種の娯楽として各ブロックごとに、どのパーティーが優勝するか観客が賭けている。


それは出場者にも例外はなく、自分のパーティーに賭ける者も少なくない。


「いくらなんでも、有り金全部ってのは。」


意外なところからプレッシャーをカサ増しされ、苦笑するしかないアスカだった。


「ほら、イオンも元気だすっすよ。お前もよくやったっす。」


「でも、僕、結局やられちゃって…」


「それまでフロンを足止めできていなかったら、クロウもやられてたんだ。お前は強い。よく頑張ったよ。」


「そうかな…そうだね。見てた?僕、クロウを守ったんだよ!」


「あんまり調子にのるのはムカつくっす。」



「アスカ君、そろそろ行こうか。」


「ああ、待ちくたびれたよ。」




「フィールドの清掃が終了しました!

それでは決勝戦最終試合を行います。」





「さあさあ、ついに来ましたCブロック決勝戦最終試合。これに勝ったパーティーは晴れて国選パーティーです。


では参りましょう。

ゼロマジック : アスカ vs 炎水の剣 : カルマ


始め!」



「アスカ君、君はいい友人だと思っているし、思い切り力をぶつけてじっくり戦いたい相手とも思っている。

けどね、君のパーティーが予想以上に強くて、この試合、僕が負けるわけにはいかなくなっちゃったよ。


悪いけど、テンポを上げていくよ。」



そう言って生み出されたのはカルマにお馴染みの炎水の混合魔法。


しかも驚くべきはその創生時間と大きさであり、象が何頭も入りそうなほどの球体をすぐさま創り出し、こちらに放り投げる。


その放出速度も凄まじいものであり、アスカが後手に出て魔法を生み出しても対処が間に合うものではなかった。


やがて球体はアスカの姿を飲み込み大きな光を上げて、しかし衝撃音もなく、消え去る。


そこに立っているのは、シールドに何の損傷もないアスカだった。


一番驚いていたのはカルマだった。

「悪いけど俺も勝って上に行く必要があるってのは同じだからな。」


「君は…いや。」


受けた衝撃を一瞬で振り払い、今度は剣を握って間合いを詰めるカルマ。


アスカもレイピアを片手に走り寄り、片手で久しぶりの闇弾を生み出し、正面へ放つ。


カルマは半身をずらしてそれをかわすが、ここで、闇弾をUターンさせ、カルマの背後を狙う。


しかし---


カルマは後ろを振り返ることなく、剣を持たない方の手を不自然な動きで後ろへ回し、同威力の魔法を放ち闇弾を打ち消す。


実は、カルマの嵌めている腕輪は自分に一定の距離近づいた魔法を所有者のマナで対処できる範囲まで自動的に撃退するというものであるのだが、

アスカは全てではないが、なんとなくこのことを理解した。


なぜなら、闇弾を撃退した本人が驚いていたのだから。


「その腕輪か…」


「操縦可能な魔法とはね。君には驚かされてばかりだよ。

ああ、大体君の考えてることは合ってると思うよ。

尤も、最初のを見る限り、君も似たようなことができるみたいだけどね。」


「まあ、そうだな。」


カルマの最初の一撃。それを受けて無傷というのは極めて奇怪である。


モニター越しに見ていた者には、アスカが何かしたとも見れるが、撃った本人には、分かるのだ。


直撃したのに効いていない、と。


このことをお互いが認めたということは、この試合において魔法攻撃が意味を為さないということ、つまり物理攻撃のみの試合になるということだ。


お互いがそれを理解し、さらに間合いを詰めて剣と剣を交じらせる。


アスカが突き、カルマが払い、カルマが斬りかかり、アスカが受け止める。


アスカは強化魔法や飛翔を駆使し、カルマはその圧倒的な身体能力を持って、まさに

一進一退の戦いを繰り広げる。




「ねえクロさん、あんさんたち、どんくらいああやってます?」


「ああ、もう30分以上続いてるな。」



全身の筋肉を全力で酷使し続ける30分というのは、本人たちからすれば何十時間とも感じられるものである。


そんな無限に続くと思われた均衡を破るのは、カルマからの1つの提案だった。

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