第57話 逆転と逆転

「えっ!?君たち!どうしたの!?

エッグにジャスミンにジローにカースも…」


短剣1つ1つに名前を付けていることにギョッとしつつも、クロウはすぐにロイへと攻撃を仕掛ける。


(時間がねえ。早いうちに決着を。)


「みんな、頑張って!もう少しだから。」


もう一度短剣はクロウへと向かうが、刃を突き立てられるものは一本もない。


クロウは何度も切りつけられるうちに短剣1つ1つに『磁力S』の付与をかけていた。


そして、今クロウが纏っている強化魔法も『磁力S』である。


互いの磁力が反発し合い、短剣は外へ弾かれる。


だが、本来の仕様でない使い方であるがために、属性魔法を身体強化に使うのは非常に不安定である。


クロウのマナの制御力では1分も保たない。しかもその後は副作用でしばらくの時間普通の付与魔法すら使えなくなる。


この強化無しにロイの魔法に対する手が思いつかなかったクロウにとって、この1分弱がこの試合の全てとなった。


「行くよ、影丸! ウソ…影丸も…」


ロイの影丸による攻撃も短剣の例外ではなく、難なく弾かれ、『炎』を付与魔法した双剣で素早い6連撃を食らう。


そしてロイの第2シールドは全壊した。


「よし、あとは…」


振り向くと、先ほどまで2人が戦っていた場所には氷漬けにされたイオンと、クロウに向けて手をかざすフロンの姿があった。


「しまっ…」


「これでお終いです。」


生み出された氷はクロウを飲み込み、イオンと同じく、クロウを氷漬けにした。


「クロウ…」

「ウソっすよね、クロさん!」


メグとルイズの悲痛な声が響く。




「き、決まったーーー!謎の魔法によって、これまたロイの謎の魔法を破ったクロウでしたが、フロンの隙をついた氷魔法によって、カチンコチンに固められました!


フィールド上で動けるのはフロン1人、よってこの試合も勝敗が決まり、2-0でCブロック優勝は『炎水の剣』となりま…




おや、おやおやおや!」



「?どうしたんすか?あんさん。」


「いや、お前らもよく見てみろ、クロウはまだやれるって言ってるぞ。」




観客たちもみな、フィールド上の氷漬けにされたクロウに釘付けになっていた。


なぜなら、その氷から赤い光が徐々に広がり出ていたのだから。


「そんな!その中では、魔法を使う余裕もないはず…」


フロンも理解したのだろう。氷で固められた後ではない。その前に使ったのだと。


そして、ただの魔法でないことも理解していた。溶けた氷から抜け出したクロウが体に纏っている大きな炎を見て。


だが、クロウにも余裕はなかった。氷を溶かすのに酷使してしまったため、あと数秒ほどしか魔法は使えないとわかっていた。


全身全霊を込めて斬りかかる。


「でも、ヘロヘロじゃないですか。悪いですが、僕だって負けたくないんですよ!」


小さな氷の粒があまた創られ、クロウへと向かう。


細かく密集した礫に回避し得るスペースもなく、クロウは後方へと吹き飛ばされる。


それと同時にクロウはもう魔法を使えなくなっていた。


しかし、諦念など微塵もなく、双剣の片方を投げつける。



「どこに投げているんです。何を企んでももうムダですよ。」


投げられた剣は最早攻撃と呼べるものではなく、クロウとフロンの中間地点ほどに落ちようとしている。


クロウが氷漬けにされていた所に。


だから、剣をよく見なかったのは仕方ない。


『雷』が付与された剣を。



「自分の足元も見えない奴が、相手の考えを見れるわけねえだろ。」


クロウはそう言うと、地面を転がりながら、木にぶつかって身を埋める。


それと同時に剣も水溜りに着水し、その中にいるフロンにも通電する。


「な…僕の氷が…溶けた水を…媒介にして…」


体中が痺れる中、大きな水溜りから出る余裕もなく、間も無く、フロンのシールドは砕け散った。

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