第56話 古魔と強化

(よし、ここで上段に隙を見せれば、)


クロウが双剣の構えを下に下げると、

ロイは真上から刀を振り落とす。


それを片手で受け止め、もう片方の剣はロイの胴体へと向けられたが、それが刺さる前に刀によって止められた。


刀は一本しかない。


正確に言うならば、上段で受け止められている刀が剣先を伸ばして変形させ、胴体への攻撃を防いだのだ。


まるで“生き物”のように。


「なん…だこりゃ。気持ち悪ぃ。刀がタコみたいに…」


「気持ち悪いなんて酷いじゃないか。僕の大切な友達なのに…ねえ影丸。」


無口なロイが急に口を開いたことに少し驚きつつも、それより、目の前で起こっている現象に驚きを隠せないでいた。


「これは、魔法なのか。金属魔法か?いや…」






「あんな魔法、知らないぞ。」


「アスカ君が知らないのもムリないよ。僕も彼に出会う前は知らなかったからね。

史料も伝説もほとんど残っていない。

人々に忘れられた、失われた古代魔法。


その1つだよ。」





変形した刀の切っ先は、うねりながら、クロウのガードをすり抜け、胴体を目指す。


それをガードできるはずもなく、クロウの第1シールドは赤く染まる。


「くっ」


それでも一定の距離をとりながら、なんとか鍔迫り合いとも呼べないことはない打ち合いを繰り返す。


「折角だから、みんなにも出てきてもらおうか。ねえ、影丸。」


そういって、自分の着るコートを広げると、その中には、数多くの短剣がかけられていた。


すると、短剣たちはそれぞれが意思を持つかのように動き出し、クロウに向かって、急進する。


「くそっなんて量だ。しかも、弾いても落とせねえ。」


「そりゃあそうだよ。この子たちはそのへんの投げナイフたちとは違って、僕のために君を倒そうとしてくれてるんだから。」





「そう、彼の使う古代魔法は生命魔法。

物に命を吹き込む魔法さ。

命をもらった物はロイ云はく、意思を持ってて、ロイの友達でコミュニケーションをとれるみたいなんだけど、僕には分からないよ。」


「ということは、あの短剣1つ1つがそれぞれの意思でクロウに攻撃しようとしてしてるってことか。

なんなんだよ、古代魔法って。」





度重なる短剣の攻撃や、ロイ自身による影丸を使った攻撃により、クロウのシールドは徐々に削られ、残すは第1シールドのみになっていた。


(イオンはフロンのあの氷に炎で対処して善戦してる。時間はかかるだろうが、なんとか勝てるだろう。


足を引っ張ってるのは俺じゃねえか。


アレを使えるのはこの試合だと1分もないか。


いや、それだけあれば十分だ。)



クロウがイオンを連れてまで付与魔法の練習に明け暮れていたのには理由があった。


付与魔法は基本的にサポート魔法。


身体強化魔法は別として、他の者を強くするのであって、自分を強くするものではない。


故にクロウは考えた。


自分が得意な付与魔法を使って、自分を強くする方法を。


そして思いついたのは、子供でも発想しそうな単純な考えであった。


『身体強化魔法と付与魔法の性質が似ているなら、一緒に使えるのではないか。』


身体強化魔法は

主に力を増強させるもの。

速さを増加させるもの。防御を固めるもの。

その他…

がある。


付与魔法はそれらに加えて

炎、水、磁力などより多岐にわたっている。


クロウはこれまでこの2つを使い分けてきたのだが、強化魔法にない、付与魔法の属性を自身の強化に使おうとしたのだ。




「みんな、ありがとう。早く終わらせてゆっくり休もう。彼にとっても、その方がいい。」


剣の構えを解いたクロウを見て諦念を感じたのだろう。

ロイが声をかけると、短剣たちは多種多様な動きを見せながらクロウへと刃をむける。



その何十本ともある短剣たちは、一本残らずクロウの体に触れる前に弾かれるのだった。

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