第55話 氷枷と多矢
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「さあ、第1試合は炎水の剣に勝利が傾き、これで1対0
次の試合で優勝は決まってしまうのか!
第2試合
クロウ・イオン ペアvsフロン・ロイ ペア
始め!」
(フロンは予選でも使ってたのを見るとひとまず氷魔法がメインと考えておいて、ロイの方は、刀?か、あいつも何かしら別に選定があると思っておいた方がいいな。)
「イオン!前は任せて、お前は後ろから狙撃だ。」
「わかってる。」
クロウが向かう先、当然フロンである。遠距離攻撃が可能な氷魔法を封じてしまえば、イオンをかばうことで前衛の移動範囲が狭まることはなくなる。
「って考えてるんでしょうね。」
「!?」
「足が、動かない。」
「開始と同時に張らせてもらいました。たくさんの地雷を。」
見ると、クロウの足には氷でできた蔓のようなものがまとわりついて離そうとしない。
「クロウ!」
「いいから、早く牽制を!」
まさかの事態に一瞬だがイオンが弓での牽制を遅れたために、ロイが動き出す。
身動きが取れないくクロウへ向けて刀を振るうが…
「なるほど、『炎』の付与ですか。」
『炎』の付与の熱により、足の氷を溶かして、刀の攻撃を防いだのだ。
刀。ロイが持つものは日本刀と言えばアスカには分かりやすいものであるが、この世界では非常にマイナーで、チャクラムと同じくらいあまり知られていないものであり、クロウも本で読んで知っていただけである。
(剣戟が重い。俺より小さいくせにこいつのどこにこんな力があんだよ。)
ロイとの立ち会いの中で、双剣の片方で、ロイの刀をいなし、もう片方で踏んだ地雷の氷を溶かすという作業を並行して行っていたクロウが不利であるのは明らかだった。
(僕にできること。僕にできること。)
(僕は弱虫で、泣き虫だった。小さな頃から友達だった子たちがみんな魔法選定になっていく中で、僕だけが武器選定。しかも弓。
数は少ないが、1区にある王都にも騎士団があるように、剣士などは必要とされることもある。
だけど、前衛がいることを前提とする、守ってもらうことを前提とする弓師はこの世界では必要とされていなかった。
それまで友達だった子たちにもだんだん、距離を置かれるようになっていった。
それは、幼馴染のジンナーも同じだった。彼は希少性の高い地属性魔法の選定となってから変わってしまい、他の人よりも一層僕を見下すようになった。
それでも、勇気を振り絞って行った編成会でアスカに出会ったんだ。
アスカは僕に強さをくれた。腕っぷしの強さではない、本当の強さを。
アスカたちは前でいつも僕を守ってくれた。
それにいつも甘えていた。
けどそれじゃダメなんだ。みんなが良くても、僕が嫌なんだ。
今度は僕がみんなを守ってみせる。絶対に。)
「これだけ、いやまだいける。」
イオンは『炎』の付与のかかった矢を6本取り出し、全てつがえる。
「あんさん、イオンが。」
「ああ、あいつ、何する気なんだ。」
本来、弓は一回で一本の矢を射るのは常識であり、それ以上構えても、うまく飛ばず、飛んだとしてもそれぞれが的に向かって飛んでいくわけがない。
そう、本来であれば。
しかし、イオンはクロウの付与魔法の練習に付き合わされる中で、それを実現させていた。
精密なマナの操作によって。
他のメンバーはもちろん、本人ですら気づいていないことだが、攻撃力はパーティ内で最低のイオンだが、マナの扱い繊細さではゼロマジック内随一である。
イオンが放った6本の炎の矢の一本一本が、地に備えられた氷の地雷を溶かしていく。
「なっ1人でこの量の矢を同時に!?」
「クロウ!足場とフロン君は僕がなんとかするから、安心してロイ君を!」
ピチャピチャと水たまりができ始めている足場一帯に氷がないことを確認して、クロウはほくそ笑む。
「なんとかするから…か。頼もしいな。」
足枷がなくなったクロウは防戦一方をやめ、積極的に斬りかかる。
元々、剣技はクロウに分があったため、戦局は一気に傾くように見えたが…
「アスカ君、パインたちのこともあって君ももう勘づいていると思うけれど、ロイの選定は刀ではないよ。」
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