第54話 意思と闘志
「大丈夫?パイン」
「うー。パイン大丈夫じゃないかも。」
メグによる捨て身の一撃。それによりパインのシールドを崩壊寸前まで追い詰めることはできた。
だが、メグのシールド状況から、同じ手は二度と使えない。
それに、チャクラム攻撃を防ぎきれていない現状は変わっていない。
ジリ貧である。
それをよく理解していたルイズは考える。
こういうときのために
この日のために、アスカに隠れて、メグと2人で夜な夜な魔法の練習をしていたのだから。
(選定が決まった10歳のあの日から、誰からも必要とされなくなった。
不要な武器選定として親に勘当され、挙げ句の果てについた異名が区落ち女。
ただ、誰かに必要としてほしかった。豪族として裕福な暮らしができなくても、ただそれだけでよかった。
15歳になって、わずかな希望を抱いて新成人ベンチャーパーティー編成会に参加した。
思っていた通り、どのパーティーも私を受け入れてくれなかった。
ところが、1人の男が勧誘してきた。見たところ、全員が武器選定。ああ、ここだ。と思った。
もしかしたら、私と同じ気持ちを背負っている人がいるかもしれない。
辛さを共有してくれる人がいるかもしれない。
そう思ったのに、生まれ持ったプライドと、素直になれない性格のせいで、断ってしまった。
男は残念そうな顔をしていた。
断られる辛さを一番分かっていたつもりなのに、私がやられてきたことと同じことをしてしまった。
終了時間が近づく中、結局入れてくれるパーティーが見つからなくて、図々しくも最後の望みとして、あの男の元へと向かった。
男のパーティーは既に4人が決まっており、最後の1人が入れて欲しいと頼んでいるところだった。
このままじゃ取られてしまうと焦って、横入りをするように声をかけてしまった。
最後の1人の人は混合魔法を使う、すごい人気者だった。
男が私とどちらを選ぶかは決定的だった。
それなのに、男は私を選んでくれた。
私を仲間に入れてくれた。
それからの生活はたった2ヶ月だけど、人生で一番楽しかった。ダンジョンに潜り、日に日に強くなっていくのを感じ、必死に練習して魔法も使えるようになった。
仲間も生きる歓びもアスカがくれた。
だから私はそんなアスカのことが………
そんなアスカのためにもここで勝ちたい!)
ルイズの槍の穂先は青白く光り始めていた。
「メグ!痛覚よ!」
メグはルイズの言葉に無言でうなづき、双子を迂回しながら、ルイズの元へ走る。
ルイズも走り出していた。
「パイン何する気だと思う?」
「パインはわからない。でも危なそう。やめさせよう。」
「そうだね。やめさせよう。」
そういって2人はチャクラムの投槨を再開した。
ルイズと共に魔法を練習していたメグは、あまり才能はなかったため、クロウのものには種類や練度は劣るものの、付与魔法を習得していた。
アスカに黙っていたのは、勿論、驚かせるためである。
「まさか、こんな使い方になるなんて、思ってもなかったっすよ!」
メグがルイズの槍に手をかざすと付与は完了し、それとほぼ同時に飛んできたチャクラムによって、メグのシールドは全壊する。
「負けて、あんさんに怒られるのはごめんっすよ。」
「分かってるわ、よ!」
次の一撃で2人同時に倒さなければまず勝機はない。
炎弾や水弾といった、ただの魔法攻撃では致命的な攻撃を与えることができないと判断した、ルイズは、自分で編み出した、固有魔法を使うことにした。
付与魔法は術者が予めマナを使って、ある効果を持った魔法を生み出し、物や人に付与するものであるが、今回ルイズが自身の槍に付与したのは、純粋なマナの塊。
魔法として、的確に操られているため、一定の効果を発揮するマナだが、何も操作されていない純粋なマナは不安定な爆発物と同じである。
それを、短時間ではあるが、武器に纏わせておける領域にまでルイズは達していた。
それに、メグによる『痛覚』の付与の効果が加わり、パインペイン2人のシールドが全壊するのは必然だった。
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「アスカ、クロウ!あの2人があんな魔法を使えるようになってるなんてびっくりだよ。
あれが決まれば…」
「ああ。帰ってきたら、いっぱい褒めてやろうな。」
カルマがあいもかわらず爽やかな笑顔を見せて平然と話しかけてくる。
「アスカ君たちさ。もしかしてだけど、パインたちの選定があのチャクラムだと思っていないかい?」
「えっ今なんて言った?」
「試合終了ーーーー!!圧巻と言える試合でした。第1試合、勝者、パインペイン姉妹ーーー!」
「!!?」
モニター越しに見えるフィールドでは、
パイン、ペインの手から生み出された、巨大な植物の蔓によって、体を巻きつけられていたルイズの姿があった。
「そう、ご覧の通り、彼女たちの選定は植物魔法。
といっても、あれを出しちゃうとなくなるまでしばらく時間かかってチャクラムが使えなくなるし、火にめっぽう弱いからいざという時以外は使わないように言ってあるけどね。」
「火にめっぽう弱い…か。」
そう、もし、最後のメグの付与を『痛覚』ではなく、『炎』にしておけば勝敗は逆だったかもしれない。
まあ、そんなことを言っても仕方がない。
彼女たちはやれるだけやりきった。それを責めることなんてできるわけない。
しばらくして、2人が転移ゲートから出てきた。
泣き崩れるルイズをメグが慰めながら。
「ごめん、なざい。私、アズカの、ために、精一杯、がんばっだけど…」
「ああ、見てたよ。すごい魔法だったな。今度教えてくれよ。」
「許して、くれるの?見捨てたり、しない?」
「許すも何も、これはチーム戦だ。お前の負けは俺たちの負けで。俺たちの勝ちは、お前の勝ちだ。
ルイズも見ててやれよ。お前たちの闘志が伝染して、燃えまくってる仲間2人の闘いを。」
クロウとイオンは立ち上がり、ルイズとメグの肩を叩き、力強く、
「「勝ってくる」」
そう言い残して転移ゲートに入っていった。
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