第44話 固定と隠密

『敏捷』だけに頼るのも無理があるか。


するとやっぱり俺の魔法を使わなきゃいけないか。


後ろからはカルマが目を輝かせて近づいてくる。


「亀のときはすごかったね。磁力…かな?

あの電球はどうやって避けるんだい?」



「………」


「ああ、そうだね。言わないのが正解だよ。じゃあ僕が他に使える固有魔法を1つ見せるから君がどんな手を使うかみせてもらえないかな?見せてもらえれば、それ以上は追及しないよ。」


その青い双眼に宿るのは邪な濁りが一切ない純真な好奇心の光。


カルマの固有魔法もとても気になる。

それに見られるだけなら全て分かるわけじゃないしな。


「分かった。俺の魔法も見せてやるよ。」


「ホントかい!?ありがとう。ちなみに僕の固有魔法は物を一定時間固定する魔法だよ。

見ててね。」


そういってパーティーのもとへ駆けていき、5人で電気球の街道に足を踏み入れた。


5人を目視した左右の壁の奥にいる魔法使いは電気球を撃とうとしている。


「フロン!」


「分かってますよ!」


フロンの手から次々と生み出されたのは10つはあるかと思われる氷の板。それをカルマが空中で回収していく。


「カルマ、右から電気来ちゃう〜」


「カルマ、左からも〜」


「はいはい」


パインとペインの呼びかけに微笑み、カルマは電気球の軌道上で氷の板を放し---正確にはそこで固定する。


数秒したら氷は砕け散るが、それまでは電気球が当たってもビクともしない。


そんなことを繰り返してあっという間に街道を突破してしまった。


「おおーっと、最初に街道を突破したのは、カルマ率いる『炎水の剣』だ〜。

他のパーティーは街道の攻略にてこずっているようだー。

ホントに100組もゴールできるのかーー?」


「あの固定の魔法、人にも使えるのか…だとしたら…

いや、今は突破に集中しよう。みんな、方法はさっき言った通りだ。準備はいいな?」


-----------


「ふう。さて、アスカ君たちはどうするのかな。」


街道を突破したカルマは街道の終わりで後ろを振り向き、アスカが動くのを今か今かとと待っている。


「カルマ、彼が只者ではないのはなんとなく分かりますが、あなたがそこまで気にするほどなのですか?」


「ああ、まずフロンやロイ、いや僕でも敵わないほどの何かを持っているかもね…」


「そんな!…」


その言葉に、フードを被ったロイもピクリと動くが、特に何も言うこともなく、パインとペインは話をテキトーに聞いていた。


「まあ、その片鱗を今から見せてくれるみたいだよ。」


街道の入り口でアスカが動き出した。

と思った瞬間、アスカの姿が消えた。

そして、次々に他の面子も消えていく。


「!?」


辺りを見渡すが、当然その姿は見つけられない。


『隠密』の魔法


短時間の間、自分とその付属物を不可視化(透明化)する。


『共有』の魔法


自分の状態(基本的に付与や強化といった魔法によりなんらかの変化を帯びている状態)を不特定多数の他の者に共有する。


アスカはその2つを使用しているのだが、それが第三者に了知されるはずがない。


それはカルマも例外ではない。


そして、


「うわっ!」


カルマの目の前に突然現れる5人。視界から消えてずっと探していた5人だった。


「いったい…いや、見事と言う他ないね。」


アスカと出会ってから初めて、素の驚きを見せたカルマだった。


一体どうやってやってのか聞こうとしたが追及しないという約束なので潔く諦める。


「い、今のは、アスカさんがやったんですか?」


フロンも目を点にさせてカルマに尋ねる。


「ああ、彼の魔法には違いないよ。

ちょっと恐ろしくて戦いたくなくなっちゃったかもね。」


「おおーーっと、カルマたちに続いてここで2組街道を突破だーー!」


進行役の声が響く。


「2組?アスカ君たちだけに見えるけど…あっ」


「いててっ何だったんださっきのは。」


アスカたちの後ろには倒れ込んでいたジンナーである。


彼らのパーティーは幸運にもアスカたちのおかげで街道を突破したのだった。


時は少しだけ遡る。

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