第43話 軌道と電球

9区の3つ目の遺跡でデビルタートルと戦闘したときは、シャルルの咄嗟の思いつきで、攻撃を一定時間防ぎ弾く、ホーリーシールドを立て続けに使い、タートルを弾いて部屋の角に追い込んでいって仕留めた。


今はシャルルはいない。

飛翔魔法の限界の低空飛行でスピードを上げれば捕らえられるだろうが、こんな目立つ場で大きな魔法を使うのは忍ばれる。本戦の前に手の内を晒してしまうことになるしな。


となると、あいつらに頼むか。


そう決めたころには、柵に囲まれたデビルタートルの群れが視界に入っていた。




「アスカ君、どうやら、パーティー毎に課題をこなさなきゃいけないみたいだね。」


「ああ、さっさと片付けよう。」


「君がどんな手を使うか楽しみだよ。」


「自分たちのことに集中してろ」


そういって、メンバーを呼び集めて、作戦を伝える。


「イオンはもう少し後ろに下がって、タートル目掛けて矢を放ってくれ。」


「で、でも。いくら付与がかかって速いからってデビルタートルなんかに当たらないよ。」


「いや、今回矢にかける付与魔法は『敏捷』じゃない。イオンのいう通り軌道が見えてる矢なんて、あの亀は避けちまうからな。」


俺の言いたいことが分かったのだろう。クロウが呟く。


「磁力…か。」


「ああ。」



「「「あっ」」」


本当に偶然の発見だった。

ダンジョンで、20階層のボス、サンダーバードと戦っているとき、イオンが放った矢。サンダーバードは矢に気づき横に回避したのだが、


その矢、本人は『貫通』の付与の矢と思っていたが、何かの手違いで『磁力S』の矢と入れ替わっており、その軌道上にいたメグの

『磁力S』の付与のグローブと反発し、矢の軌道が急激に変化してサンダーバードに命中した。


初見では絶対軌道を予測できない弓矢。


それを再現すればデビルタートルでも捕らえられる。


「でも、あれはたまたまだったし、うまくいくかどうか…」


「私はいけるっすよ。この付与気に入ってるんすよ。」


「俺もイオンの命中率があれば大丈夫だと思う。

じゃあメグはタートルの付近に、イオンは後方に下がって準備してくれ。」


「りょーかいっす!」

「わかったよ。」


デビルタートルの入った柵の中には他の多くの参加者がタートルを追いかけ回ったり、魔法を放ったりしている。


「このっちょこまかと!」


「よし!ここに範囲攻撃魔法だ!」


「捕らえたぞ!これで突破だ!」


「おーーー突破者が何組か出てきたぜー。特に面白い方法をとってるパーティーが…またまた予選1位のパーティーだ。弓矢を使うみたいだぜ。」


「よし、イオン!今だ!」


「うん!」


放たれた矢の軌道のすぐ横には手をかざすメグがいる。飛びのいたりしないのはイオンの弓の腕を信頼してのことだろう。


すると矢はまるで意思があるかのようにその矢先の向きを変え、尚も速度を殺さず、デビルタートルを射止める。


「キュッ!?」


「よし!成功だ」

「やった!」


--------


「全く、アスカ君のパーティーは面白さに尽きないね。」


その少し右方では、デビルタートル2匹を両手に素手で鷲掴みにしているカルマがいたのだが、その様子はアスカたちは見ていなかった。


そして、その少し前方では…


「おらっ地形操作だ!」


ジンナーの地属性魔法の地形操作によって、大地の壁に四方を囲まれたデビルタートルは為すすべもなく捕らえられる。


尤も、その壁を生み出す過程で何度も逃げられてはいたのだが。


「さっすが、ジンナーさんだ。デビルタートルなんて止まってみえますね。」


「あ、ああ。ほら、行くぞ。随分と抜かれちまった。」


こうして、150匹いたデビルタートルの数は、着々と減っていった。



--------


「さあーーー。トップ集団は混戦になりながら、8km地点に到着だー。


そこに待ち受けているのは…『電気球の街道』だーー。


300m続く街道の両端に建てられた壁に開けられた無数の穴。そこから運営側の役員が、そこを通る参加者に特殊な魔法を放つぜーー。


ただの電気魔法の球に見えるが、それを食らったらどんなに屈強な男でも一時間は気絶間違いなし!一時間で起きたら再チャレンジと思うなよ。

電気球にやられたら即脱落だー。


回避に徹してこの街道を渡りきったパーティーが8km地点突破だ!」


「即脱落か…」


先着100組のこの競争において時間は一分一秒が惜しい。だが、焦って電気球に当たったら本末転倒。


尤も、あの数の攻撃を回避だけにおいて100組以上もくぐり抜けられるかも疑問だが。


まあ、結局1発も当たらずに通るしかないよな。


と考えているうちにも『敏捷』の身体強化をつけているらしき参加者が街道に突っ込んでいく。

左右から放たれる電気球を次々に回避していくパーティーだったが、いずれもスレスレであり、当たるのは時間の問題で……


電気球をくらって意識を失っていた。

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