第2章 ベンチャー大会編
第29話 解散と混合
「解散って、バカ言ってんじゃあねえぞ、ケイト!」
「バカはあんたよ。私1人のために5人の夢を1年も長引かせる方がよっぽど馬鹿げてるわ。
それに、べつにお別れしようってわけじゃないもの。私も来年は登録できるんだからすぐに追いついてやるわ。それまで、私は強くなるわ。もっともっと---」
その言葉にギーブがこれまでになく激昂する。
「お前が---」
「わ、私!ケイトについていく!」
「ちょ、シャルル---」
そのギーブの声を遮ったのはシャルルだった。
「私はみんなが寝てからも、ケイトが剣の練習してたの知ってるから---
誰よりもみんなと一緒にベンチャーになりたがってたの、知ってるから---
私はケイトと一緒に来年登録する。1人じゃなければきっと大丈夫!」
シャルルがこれまで見せたことない、力強い言葉と意志だった。
「シャルルまでよお---」
「俺とアスカは今年登録するぞ。」
そうだ。クロウの目的は、1年を棒に振っていいほど易しいものじゃない。
クロウは例え薄情と思われようとも、意志を曲げないだろう。同時に、クロウと絶対の協力関係を結んでいる俺も同じになるが。
「くっ---なんだよ---こんなにあっけなく終わっちまうのかよ。」
ギーブも現状のどうしようのなさを十分理解している。だが、それを理解できなくするほど、このパーティへの思い入れが強かったのだろう。
だが、両手で自分の頬をパチンッと叩いた後、
「わぁったよ、俺は1人で始めてやる。お前らなんかよりもすんげえパーティ率いてくるから覚悟しとけよ!」
と言って、いつものようにニヒヒと------
笑おうとしているが顔がピクピクと引きつっていた。
「じゃあ、またいつか、それぞれがパーティを率いて再会するってことね!負けないんだから!」
そういったケイトの目には涙が溜まっていた。
再会の約束をし、今後の動向が決定してからは、あっけないほど行動が素早かった。
生活必需品を買って、翌日ケイトとシャルルは北方へ、ギーブは西方へと旅立った。
ギーブは出会ったばかりの人とパーティを組むより、一年旅して仲間を作ったほうがいいとのことだった。
こうしてシーラス防衛隊は、解散した。
「行っちまったな。」
「ああ。」
アーメリアの街には、3人を見送った俺とクロウだけが残っていた。
ずっと寝食を共にしてきたやつらが3人もいなくなるのは、俺の心にいくらかの穴を開けるには十分だった。
だが、切り替えなければならない。それぞれがパーティを率いて強くなると決めたのだから。
そして、俺とクロウはみんなと別れた4日後の、パーティ登録日、街の中央広場に来ていた。
「新成人のみなさん!おはようございます。
今日という日を待ちわびていた人も多いでしょう。今日からみなさんもベンチャーの仲間入りです。それでは、パーティを決めてください。」
広場には同い年が三百人ほど集まっていた。
大きな街毎に行なっているらしいので相当な数がいるだろう。
ちなみに、仲間決めの要素として、各自自分の選定が書かれたプレートを持って広場で交流する。
とりあえず、俺はレイピア、クロウは双剣の選定ということにしておいた。
すると、開始早々
剣を差した、赤髪で容姿の整った男が声をかけてきた。
「やあ、僕はカルマ。君の剣すごいね。使い込まれているのに、丁寧に手入れもされている。
それ、炎鳥の羽?かな。しかもレイピアってのが面白いね。」
気さくなやつだった。きっと性格もいいのだろう。
ふとカルマのプレートを見る。
【混合魔法(炎/水)】
!!
混合魔法は一つの魔法にして2つの属性を併せ持つというとんでもない魔法だ。聖魔法や雷魔法といったレア魔法よりも遥かに希少価値が高い。
「俺はアスカだ。こいつは仲間のクロウ。」
「ほう、君の双剣もなかなか---
よかったら、僕も君たちの仲------」
「あっ混合魔法のカルマがいたぞ!」
その呼び掛けと共に大勢の人がこっちに押し寄せてきた。
「ちょっと、待ってくれ!アスカ君!クロウ君!------」
俺とクロウは人混みの外へと押し出されてしまった。
あんなすごい選定をもったやつに誘われたのは嬉しいが、あれだけの人に誘われたらさすがにどれかには入るだろう。
まあ他をあたろう。
広場を進むと、1人うずくまる男がいて、周りを3人ぐらいが囲っていた。囲まれた男は背に弓をかけている。
「なーんで武器選定のやつがこんなとこにいんのかね。誰もお前なんか誘わねーから早く帰った方がいいんじゃねえか?」
「そうだぜ、大人しく商人とかでもやってな。」
いかにも柄の悪そうな奴らだ。
確かに、忘れていたが、8区以上の区では選定の9割以上が魔法系だ。戦闘術や生活の様々な面においても魔法を前提として組み込まれている。
武器選定はその中では役立たずとして蔑視されているようだ。
カルマはあまり気にしていないようだったが。
だが、付与魔法や身体強化魔法などと併用することで、魔法にはできない複雑な動きができる武器選定は俺はパーティに必要だと思う。
長い間、ギーブたちとパーティを組んで魔物と戦闘してそれは強く実感した。
それに、弓使いは新しく仲間を集める上で遠距離攻撃として是非ともパーティに欲しいと思っていた。
クロウもそれは分かっているようだ。
とりあえず、1人目を勧誘しに行こう。
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