第28話 旅立と成人

みんなが持ってきた情報をまとめると、

まず、ここはナッツという町であり、8区全体の南方に位置する。(8区も9区同様、全体の地形としては正方形のような形だが、9区よりは遥かに広いようだ。)


そして、俺たちの目指すパーティ登録は、1番の近場だとここから少し北方に進んだ大きな町で次の夏に行われるようだ。新成人たちが大勢集まって、その場で誰と組むかを決めるらしい。


締め切りを過ぎるとまた来年まで登録できないので気をつけねば。(どのみち15歳にならないと登録できないけどな。)


だから大まかな目標としては、半年後に俺たち5人でパーティ登録をすることだ。


パン屋のおばさんは、リアおばさんと言うそうだ。バイトは1日に2人を交代で回して行くことになった。


ギーブの棒捌きやシャルルの聖魔法の客引きで大繁盛したときは、リアおばさんはとても喜んでくれた。

ここのパンはホントに美味しいのでもっと売れるべきだと思う。


もちろん、買った本を読んで勉強したり、鍛錬はしていた。


ちなみに、ドタドタしてし忘れていたが、スケルトンとタートルの魔臓から得られた力はこれだ。


【 固有魔法(闇): 隠密

身体強化魔法(敏捷)

身体強化魔法(防御) 】


テイム魔法などの被っている魔法などはどうなるのだろうか。

まあ、実用的な魔法が使えるようになってよかったと思う。


また、仲良くなってから聞いたのだが、リアおばさんには俺たちと同い年の娘さんがいて、ベンチャーになる(つまり、パーティ登録をすること)といって家を飛び出していったらしい。俺たちが旅立ったらついでに探して欲しいと言っていた。


(ベンチャー・・・冒険者パーティまたはそのメンバーのこと)


物置き部屋生活も慣れれば存外悪いものじゃなかった。


あっという間だったと思う。

あれから、半年が経過した。



…………………



「行くのかい。」


朝、店の手伝いをしていると真面目な顔をしたリアおばさんに問われた。


「はい。リアおばさんにはとても恩を返し切れないほどお世話になりました。いつか必ず、帰ってきてお礼をします。」


「バカ言うんじゃないよ。あんたらが来てからウチも大繁盛だよ。逆にこっちが礼を言いたいぐらいさ………」


リアおばさんどこかさびしげな目をしていた。自分の娘と重ねているんだろうか。


「本当にありがとうございました。」


こうして俺たちは半年すんだ町ナッツを離れ、ついに北の街アーメリアへと足運んだ。


最近は、ベンチャーになるのが楽しみにしすぎて(特にケイトとギーブが)ソワソワしていた。俺ももう15歳になり、あとは1週間後にケイトが15歳になったら、全員成人だ。


アーメリアの街は聞いていた通り大きく、人も多かった。


最近ベンチャーの登録申請が始まったと聞いていたので俺たちは中央の役所に行って話を聞いてみることにした。


締め切りの日時や細かい事項などはこの街にこないと分からなかったのだ。


「登録申請か?」


役所のおじさんが訪ねて来たのでここが受付なのだろう。


「いえ、とりあえず申し込みの締め切り日等の確認をしたいと思いまして。聞いてもいいでしょうか。」


「ああ、申し込みは昨日から始まったから4日後が締め切り日だ。その翌日に新成人をこの街の中央広場に集めて交流、仲間決めを行ってもらう。

ベンチャーは5人で1パーティだから5人組を作って役所で登録すれば、晴れてベンチャーの仲間入りだ。お前さんらはもう仲間は決めているみたいだがな。」


「4日後か、じゃあもう登録済ましちゃおうと思います。この子誕生日1週間後なんですけど、大丈夫ですよね?」



もしかしてと思って聞いたことだった。

申し込みが夏と聞いたときに薄々この不安には気づいていたかもしれない。

俺だけでなくみんなも、無意識に気づいていないふりをしていたのかもしれない。


そんなことを思わせるように役所のおじさんの顔が曇った。




「申しわけないが、15の誕生日を迎えてない者の登録はたとえあと数日だとしても、認められない。

その嬢ちゃんは、来年度の新成人だ。」



あと少しだった。

13歳で旅を始めて最短でここまでやってきたつもりでいた。そして、こいつらとこのまま最短で上っていくつもりでいた。


しかしここで1年も足踏みするのか?

たった数日生まれた日が違うだけで?

またお別れしたリアおばさんのところに戻って暮らすのか?


だが、決まりに文句を言っても仕方がないだろう。1番ショックなのは1番楽しみにしていたケイトなのだから。


「そうですか、分かりました。また来年来ます。」


「アスカ!…」

クロウが怒声にも近い声をかけてきたが、やはり気まづさを感じているのだろう。言葉を探して何も言えないでいるようだった。


俺たちは肩を落として路地に集まり、これからのことを話すことになった。


しばらく続いたその沈黙を破ったのは他でもないケイトだった。




「このパーティを、解散しましょう。」

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