第16話 過去と秘密
「俺は10区の人間、つまり、墓場の民だ。」
墓場の民、この世界の階層において貧民よりもさらに下、最下層に位置し、そこの人間は蔑称の“墓場の民”と呼ばれ、人間とはみなされていない。
実際の区内の状態は知らないが、ロンド村の貧民街が清潔で可愛く思えるような場所らしい。
「俺は妹と2人で平穏とは言えないがそこそこ危なげもなく暮らしていた。子供達だけで集団を作って最低限の秩序を立てていたんだ。
だがそこに、1人の男が現れてから俺たちの生活はむちゃくちゃになった。
最初は上位の区にある食べ物を恵んでくれていただけだった。警戒はしていたが、ホントにそれだけだった。
だが、ある日その男は俺たちに「力を授けてやる」と行ってきた。
力を得られれば上位の区へ行けると。泥のような味がする食い物しかない生活から抜け出せると、そう言ったんだ。
断れるはずもなかった。一度その味を知ってしまったから。持ってなかった欲望を植え付けられたから。
結局俺たちを含めてその場にいた子供は全員、力がほしいと言ったんだ。
すると男は快く受け入れた。
その後は悪夢だった。
1人ずつ個室へ連れて行かれ、叫び声が聞こえたと思うと次が呼ばれる。
俺も自分の番になって分かった。部屋の中では先に入った奴らがうめきながらシーツに寝かされていた。
俺も寝かされ、腹部を刃物で開かれた痛みを覚える暇もなく、腹の中をかき回されたような感覚が走り、中に赤い石を入れられた。
後になって調べたら魔臓だと分かったが、知らない当時はそりゃ怖かったよ。
全員にその作業が終わった後も、俺は何日も苦しくて立つこともできなかった。
だが、妹や他の何人かは次の日には普段通りに戻っており、しかも魔法が使えたんだ。
信じられなかったが痛みを伴うだけでホントに力を得られるのだと思った。
だが、暮らせど暮らせど俺の苦しみは消えなかった。
そして奴は言った。
「適正があったのは5人か…まあ十分だろう。」
横で寝ていた仲間たちは次々に死んでいった。
次は自分が死ぬんじゃないだろうか。そんな不安が毎日俺の頭につきまとっていた。
いつの間にか看病に来てくれていた妹も来てくれなくなった。
日がたち、ようやく全身を覆う苦しみから解放された時には、俺は1人になっていた。
周りにあるのは仲間たちの亡骸だけ。でも、妹の死骸は見つからなかった。
あいつが連れて行ったんだ。きっと妹には適正とやらがあって、今も何かに利用されているかもしれない。
俺はその時誓った。俺の全てを奪ったあいつから妹を取り返し、あいつの全てをぶち壊すってな。
これが俺の秘密だ。お前に初めて話した。
俺はお前だけを信頼して、お前の目的を果たす。
だからお前も俺だけを信頼して、俺の目的を果たせ。」
衝撃、と言う他なかった。
墓場の民であることを広められたら、奴隷にされるか、殺されるか、あるいはもっと酷いことをされるかもしれない。
それを俺に言ったのだ。何の質問にも答えなかった俺に。
俺はこの世界の人間と体の構造が違う。長いこと一緒にいるギーブたちなら話しても嫌な顔せず受け入れてくれると思う。その確信はある。
だが言えなかった。この世界の価値観が、俺をどう評価するのかまだ客観的に分からなかったから。
また、この魔臓を使った能力もそうだ。露見して、変に注目を浴びたら身に危険が及ぶかもしれない。
俺は保身のために嘘を付いてきたんだ……
決めた。
クロウに全てを話すことにした。
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「別の世界…信じられない話だが、お前を信頼すると言ったからな。信じよう。
俺の探してるやつとは関係ないみたいだな…
なら、お前の目的は元の世界に帰ること。でいいんだよな?」
「ああ。今のところはな。それには何より、世界の中枢に近づかなきゃいけない。」
「そうだな。その点で言えば、俺の目的と重なって丁度いい。
そうだ、俺のもう1つの魔臓の選定を見せよう。」
そういうとクロウは50mほど後ろへと下がっていく。
と思ったら、とんでもないスピードで走り、すぐに戻ってきていた。
「これは補助魔法だ。体に付与して何かの力を増幅させたり、武器に付与して威力をあげたりする。結構便利だろ?」
「ああ、驚いたよ。じゃあ、俺のも見せるぞ。」
そう言って、闇弾と炎弾と飛翔を実際に見せ、後の魔法は口頭で説明した。
「剣術や体術は元の世界の受け売りだ。」
「空を飛ぶとか聞いたことないぞ。それにまだ増えるんだろ?規格外だぜ。」
そういってクロウは俺のポーチに目をやる。そうか、ザザの魔臓を取り込んでなかった。ゴブキンの魔臓と接触させるといつものように光は移った。
【魔法: 闇属性 / 回復魔法
固有魔法(闇): 操縦闇弾ダークオーダー
固有魔法: 自然治癒
魔法: 炎属性 / 従魔魔法
固有魔法(炎) 炎弾ブレイズボール
固有魔法: 飛翔
魔法: 雷属性 】
どんどん増えていくな。今回のことで物理攻撃に弱いことがわかったからな。クロウのような補助魔法も使えるようにならないかな。
こうして、この世界に来て初めて、俺に秘密の共有者ができた。
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