第15話 決意と告白

店内だからなるべく威力を抑えて、方向も制御しやすい操縦闇弾にしよう。


俺は黒光りした球体を2発出現させると1発を“ひとまず真っ直ぐ”ザザに向けて放出した。


「魔法も使えるのか。珍しいな。あんなに金持ってたのと何か関係ありそうだな。」


あっさり避けられた。まあそうだろう。俺も初見は避けたからな。


だが、闇弾の本質はスピードにはない。


俺は闇弾をUターンさせ、ザザの背後を狙う。


「頭ぁ、後ろですっ!」

「何ぃ!?」


手下の1人に気づかれた。でももう間に合わない。直撃だ。

ザザは振り向いて左手で頭をかばう。

そして、闇弾はザザの左手に着弾…しなかった。

当たる直前に霧散したのだ。

「こんのビビらせやがって、ぶっ殺す!」


えっ!?もしかして、俺と同じ…


確かめなきゃいけない。

ザザの足元にゆっくりと忍ばせていた“もう1発”の闇弾を急加速させて腹下へ放つ。


「ふはぁっ!どっから…」


着弾した。

さっきは一体何が起こったんだ?


いや、それより、今のうちに追撃せねば。


接近してレイピアの先端がザザの首を捉え、

そしてこのまま…



このまま…なんだ?


殺すのか?


人を?


………



気づけば俺は足を止め、剣を床に落としていた。

しょうがないじゃないか。人は魔物とは違うんだ。


たとえそれが悪人でも、抵抗を感じずに人を殺めることなんて…できない。


「とんだ甘ちゃんだな、所詮ガキってこった。ここで死ね。」


気づいたらザザも剣を抜いており、俺に向け振りかぶっていた。


その直後、考える間も無く、ザクッという肉を裂く音が耳に響いていた。



--------------



耳に響いた肉を裂く音は俺の目の前から聞こえた。


「ホント、甘すぎて笑えねえぜ。」


軽くカーブを描いた双剣で、ザザの横腹を左右から挟むようにしてえぐったクロウが目の前に立っていた。


ザザは腹と口から大量に血を吹き出し、間も無く、絶命した。


ケイトたちもうまく相手を無力化できたようだ。


こうして、対ザザ盗賊団の戦いは幕を閉じた。


「おおおおおーー」


村の人たちの喜びの叫びが響く。

俺はクロウに一言礼をいうと、それ以上は何も言えず、村人の縄を解きに向かった。


「この度はなんとお礼を申し上げたらよいか。ワシはこの村の長のダラスという者じゃ。

ほんとうに、ありがたく思う。まだ成人もしておらんじゃろうに、なんと立派な。


だが、見ての通り、小さな村じゃから大層な礼もできん。代わりにといってはなんだが、格好からすると、ロンド村の方から来たのじゃろう?

央都へ向かうのならオリバーという者が店を出しているからなんでも頼んでみるといい。ダラスから話を聞いたと言えば、聞いてくれるじゃろう。」


俺たちはその後、村の入り口で待っていてくれた御者さんも呼んで来て村の人たちにご飯をご馳走になることにした。


「アスカ、なにガラにもなく落ち込んでんだよ。クロウがやらなきゃぁ、あそこで死んでたのはオマエだったんだぜ?」


「そうよ、あそこで切ってたってアスカは何も悪くないわ。」


「うんうん!」

「ありがとう、みんな。」


「ふん、そろいもそろって甘やかしやがって。今度は助けてやらないからな。」


「チビ!うるさいぞ、アスカの気持ちも考えろ!」

「チビじゃない!」


「ああ、次にこういう場面にあったら迷わないよ。何より、みんなを危険な目にあわせちゃうかもしれないし。」


そうだ、俺は今この世界を生きてるんだ。

強くならなければ、心も体も。



そう決意をした食事の後、村の外にザザの死体を埋めることになり、手伝うことにした。


抉られた腹の中に血とは違う光沢に近い赤色がチラつくのが目に映った。


気色悪いが注視すると、それはここ最近で俺が多く目にしているものだった。


「やっぱりか…」


そう、ザザの腹の中でチラつく赤石は魔臓だった。人間も魔臓を介して魔法を使うのだから当然だ。


だが魔物と同じように奪うか?


いや、迷わないって決めたばかりだ。悪人に慈悲や情けをかけていてはそのうち自分が命を落とす。つけれる力はつけておかないと。


そう再決心して、腹から魔臓を引き抜き、ポーチに入れる。


だが、俺はこのことを後悔した。


罪悪感じゃない。

魔臓を取る瞬間をクロウに見られたのだ。



事が済んだ後、俺はクロウに呼び出されて2人で人気のない所へ行った。


「何をしていた?」


「………」


「お前が死体から魔臓を抜いていたのは見ていた。俺が聞いているのは何の意図をもってそんなことをしたのかだ。」


「……」


「お前らと一緒に行動してあまり時間は経ってないが、俺はお前らがキライじゃない。

ロンド村の子供たちを助けてくれたのもお前たちだ。感謝もしてる。

だが、今聞いてることは俺にとってとても重要な事かもしれないんだ。」


「……」


「はぁー。


…………俺には、魔臓が2つある。」


!!?


「い、今、なんて?」


「やっと口を開いたか。俺の体には、生まれ持った魔臓と、後から埋め込まれた魔臓のふたつが入っている。」


「向こうの世界から来たわけじゃ…ないのか?」


「向こう…?というのかは分からないが、ああ、俺は9区の人間じゃない。


俺は……10区、ダスト生まれの人間だ。」

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