第17話 腕輪と民宿
村民との諸々の挨拶も済んだ俺たちは央都へと向かった。
クロウが耳打ちしてくる。
「俺だけを信頼しろとは言ったが、別に俺のこともお前のことも、あいつらならきっと受け入れてくれると思うぞ。」
「そんなことはわかってる。だけど、まだ決心が…そうだ!3つの鍵を集めたら話そう、そうしよう。」
「はぁ〜」
「あれあれ〜?アスカとクロウってそんな仲良かったっけ?なんかあったの?」
ケイトは妙に鋭い。
まあ、何も分かってはいないと思うが。
「別に…」
「普通だ。あのバカよりは話が通じるだけだ。」
「だぁーれがバカだ!このチビ!」
「チビじゃねえ!」
「アハハ」
シャルルも笑っている。そう、こんないい関係を壊さないためにも、タイミングは大切だと思う。
さて、
「ん?何やってんだぁ、アスカ?」
ん?俺か?これから実験をするところだ。
「ザザとの戦いでな、気になることがあったんだ。明らかに肉体以上の力が出ていたパンチ。実はこの腕輪をしてたからなんじゃないかって。」
「腕輪っていやあ、あの迷宮にあったやつか?」
「ああ、試してみる価値はある。」
そう、何故そう思ったかというと、腕輪の内側には、よくみると色がついた石がはめ込んである。まるで魔石だ。
だから、なんらかの魔法が働いているんじゃないのか。
ザザが右腕に嵌めていた腕輪を嵌め、ポーチの中から、入れておいた手頃な岩を取り出し、拳をぶちこむ、と岩は発砲スチロールのように呆気なく崩れた。
「「「「おおー」」」」
「やっぱり…」
自然と笑みがこぼれる。
いわゆる魔道具というやつだ。9区では滅多に手に入らない。まさにお宝というわけか。
次に、もう一方の腕輪を確認する。
これは確か、闇弾が効かなかったんだよな。
俺は闇弾を宙に浮かべてギーブに振り返る。
「ギーブ、これ嵌めた腕を前に突き出してくれ。」
「おいおい何する気だよ、おっかねえな。」
「大丈夫。手加減する。」
そして闇弾をギーブの腕にゆっくりと近づける。そして、触れる瞬間、霧散した。
「まじかよ。」
「「すごい。」」
「………」
整理すると、内側に青い石が入った腕輪を嵌めると、その腕の力が大幅に増幅し、赤い石が入った腕輪を嵌めると、その腕付近の魔法を無効化させる。まあ、こっちは俺の劣化版みたいな感じか。
力の腕輪と退魔の腕輪と呼ぶことにして前者をギーブに、後者をシャルルにつけておいてもらった。
だいぶ戦力が上がったと思う。
その後、ギーブが腕輪で岩を砕くのをクロウに自慢したり、ケイトとシャルルが赤剣と腕輪を自慢し合っているうちに、
俺たちは9区最大の都市、央都ノブレスに到着した。
そこはシーラス村のような集落ではなく、ロンド村のような町でもない、都市だった。
各々も感想を述べているようだが、まずは例のように街並みを進み、宿屋と思われるのを見つけたのでそこに向かうと、
「お兄さん、お兄さん!旅の人?疲れたでしょ?御飯食べてって!一食サービスするよ!」
後ろから腕に抱きつかれた。同年齢ぐらいの女の子だ。
女の武器が挟み撃ちで、今俺の右腕に攻撃を仕掛けている。シャルルよりあるんじゃないか。
まあ、落ち着こう。
確かにもう昼時だが、まずは宿を…
日本人はタダやサービスという言葉に弱い。魔法には強いのに。
ギーブも飯という言葉に反応していたし。
「あ、ああ。お願いするよ。」
「はーい!5名様ご案なーい。猫のうたた寝亭へようこそー。」
入るとそこは街の宿というよりは広い民家というイメージの強い店だった。
シーラス村での暮らしが長い俺にとってはこういう空間の方が落ち着くかもしれない。
「いらっしゃい。5名様だね。御飯にするかい?それとも、一度部屋に行くかい?」
「へ?」
間の抜けた声を出してしまった。
「はぁー。リサ。あんたまたお客さんだまして連れてきたのかい。迷惑になるからやめなさいって言ったじゃない。」
「ち、違うよお母さん。だましてないよ。
一食サービスするって言っただけだもん。」
「それは一泊につき一食サービスっていう決まりじゃないかい。ここが宿だって言ったのかい?」
「そ、それは…でも、このお兄さん向かいのボッタクリ宿に入ろうとしてたから、つい…。」
「確かにお向かいさんは旅の人には吹っかけるからねえ。でもそれとこれとは別よ。
ごめんねえ、ウチの娘が。泊まってくれなくても約束通り一食サービスするから安心してね。」
「お母さんの料理は世界一美味しいからね!」
確かにおいしかった。
家庭の味という感じだった。
向かいの宿はボッタクリだったようだ。危ない危ない。女の武器に感謝だ。
さらにここも宿だったようだ。
決まりだな。
「では、3人部屋と2人部屋をとりあえず5日分、お願いします。」
「気を使わなくていいんだよ?」
「いえ、この宿の雰囲気が気に入ったし、料理も美味しかったので。
これからしばらくよろしくお願いします。」
他の4人もこの宿のことは気に入ったらしい。
リサという子が俺に抱きついていたときにシャルルの視線が妙に刺さってきたように感じたが、まあ気のせいだろう。
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