第7話 迷宮と白烏

図書庫での時間は有意義なものだった。


まず魔物図鑑というものを読んで分かったんだが、俺が倒した親玉ゴブリンは正式には

ゴブリン・キングのメイジというらしい。


魔物には種族ごとにキングと呼ばれる種族を統括するボスが世界に“1匹”だけいるらしい。

キングが死んだら、それまでの2番手がキングになるらしいが。


あいつはゴブリンのキングということだ。

ちなみにもう2匹はゴブリン・ナイトとただのゴブリン


ゴブキン(ゴブリンキング)は相当ヤバイやつだったらしい。

特にメイジ(魔法使い)であったらその魔法の威力から上位の区でも、討伐隊を組んで狩るレベルの魔物だそうだ。


俺にとってはメイジであってくれて助かったんだが。


他にも、地理や魔法についても知識を詰め込んでおいた。

無知は怖いからな。


そうそう、スライムゼリーは錬成魔法によって色々なポーションが作れるそうだ。いつか作れるかな。


資格についても情報を集めようと思ったが、これは人に聞いた方が早そうだ。


図書庫を出て、町並みを歩いて行くと、何やら八百屋辺りが騒がしいが、まあ気にしない。


町の中央広場を東側に抜けようとすると、30代ぐらいのおじさんに声をかけられた。


「よお、坊主。そっちへ行くのはやめといた方がいいぜ。余所もんだろ?服からすると…シーラス村か。」


そんなにお上りさんに見えるのかな。

俺も服屋に行けばよかった。


「はい、そうなんですけど、こっちに何かあるんですか?」


「そっちは貧民街だぜ。金目のもんなんか持ってったらすぐたかられるか剥ぎ取られちまう。

この村のことよく知らねえなら忠告しといてやろう。それさえ守れば安全に暮らせるんだ。

いいか、この村では『迷宮と白烏には近づくな』」


「迷宮と白烏?」

なんのことだろうか。


「ああ、そうだ。迷宮ってのは昔から貧民街の奥にある、石造りの遺跡でな。中には魔物がわんさかいるらしい。

どっかにお宝があるっていう噂がたってからは、何人も挑戦したらしいが、なんでもその宝を守ってる魔物がそれはそれは恐ろしいらしくてな。大抵は中で死ぬか、ビビってすぐ逃げ出してくるかのどっちかよ。」


間違いない。当たりだ。その迷宮の魔物が1つ目の鍵の魔石を持っているだろう。


こんなすぐ見つかるなんて、ナイスだおじさん。


「なるほど、それは怖いですね。それで、白烏とは?」


「ああ、貧民街のガキ供を引き連れて度々

町の食いもんとかを奪ってくクソガキのことだよ。そんでよ、こいつのケンカが強えのなんの。とっ捕まえようとした衛士10人をまとめてのしちまったのよ。

まあ、そういうこった。貧民街にいってもろくなこたあねえよ。」


ロンドの村は治安がいいって聞いてたけど、それは貧困者を1地区にまとめて完全に町と別離していたからだったのか。


まあなんにしても、迷宮についてもっと詳しく調べた方がいいな。あとで貧民街に行ってみるか。

「いろいろありがとう、おじさん。気をつけるよ。」


「おうよ。ロンド村を楽しめよ。」


親切なおじさんだったな。


さて、もうすぐ集合時間だし俺も少し店を見がてら戻るか。

そうだ、忘れないうちに町らしい服を買っておこう。

俺はお上りさんじゃないからな。


鍛冶屋を見つけたので入ることにした。

ケイトも魔物を相手にするなら木刀では少し心許ないからな。


「らっしゃい。なんの御用で?」

体躯のガッチリとしたいかついお兄さんだ。


「片手剣を作ってほしいんですけど。」


するとお兄さんはバツが悪そうに頰をかく。


「ああ、悪いが、今この町は金属不足でな。十日後に央都から送られてくるまで無理なんだわ。短剣ぐらいなら作れるんだがよ。

商売もできやしねーまったく。」


「そうですか、じゃあもしまた来ることがあったらお願いします。」


金属不足か…ツイてないな10日もここにいるかも分からないしな。

既製品は…うわっ高っ

武器に銀貨20枚出すとかバカだろ。


まあ、おいおい考えよう。



ん?

店を出て道なりに沿って進んで行くと、服とも呼べないほどぼろぼろな服を着た2人の子供が道の真ん中で膝をついていた。


どちらも8歳ぐらいだろうか。

片方はぐったりとしている。意識はあるのだろうか。


「お願いします!イアンを助けてください。毒を持った魔物にやられて…このままじゃ、このままじゃイアンが…

お願いします!おねがい…」


貧民街の子か…って毒ってただごとじゃないよな。なんで誰も助けずに素通りしてくんだよ。

あっ確か俺毒消ポーション持ってたよな。あれで効くのか分かんないけど、ないよりマシだろ。


すぐに駆け寄って子供にポーションを飲ませる。すると、青ざめた顔がうっすら赤みを取り戻してきた。

苦しそうな表情も徐々に和らいでいく。


「ありがとうございます!ありがとう、ありがとう…」


「まだしばらくは安静にしてないといけないから、今日は俺と一緒の宿に泊まってけばいいよ。部屋代は俺が払うから。」


貧民街の子なら迷宮の話とかも聞けるかもしれないし、こんなとこにケガ人をほっとけないしな。


「で、でも…」

「じゃ、いこっか。」


返事を聞く前に寝ている方の子供をおんぶして宿へ向かう。


宿に戻るとケイトとシャルルが待っていた。

ギーブはまだみたいだ。


俺の背中の子供を見て、ケイトがため息をつく。

「アスカ“も”つれてきちゃったわけ?」


も?

首を傾げると彼女らの後ろから汚い格好をした子供が2人顔を出した。



やれやれ、お人好しな奴らめ。


ギーブが嫌がる子供を1人ひきずりながら遅れてやってきたのは、それから10分後のことである。

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