第5話 決意と魔臓

なんでも一番近い場所はシーラス村からも一番近い村だったからいいものの、あとの2つがかけ離れているようだ。


ここ9区の世界を大きな正方形だと考えると右下の角、中心、左上角の3箇所である。ちなみにシーラス村は右下の角あたりに位置する。


大地はひと続きではなく、丈夫な魔法の壁のような世界の端が存在するらしい。この世界の地理も時間があるときに勉強しておかないとな。


とにかく、全て行くには、この9区を斜めに横断するしかないか。

現地での滞在や、馬を休ませたりする必要から、様々な要因で変動しうるが、往復で馬車で大体1年はかかるらしい。もっと上の区ではより早い移動手段もあるらしいが。


「どうする?行くか?」とは3人に聞かなかった。いや、聞けなかった。


なぜなら3人はそろって「どうやって行く?」という顔をしていたのだから。


その後ギーブの家に集まって、今後のことを話した。なんでも、目的地の1つであるロンド村へは定期的に村から買い出しに行っているとのことだ。


次の買い出しは都合のいいことに2日後である。


それまでになんとか村長に年単位の旅を許可してもらわなければならない。


その後、俺たちはルータス村長の下を訪れた。シャルルが危険を冒したばかりなのにどの面を下げて、旅をさせてくれ、と言えるのだろうか。しかし3人の意思は固い。無論、俺も曲げるつもりはない。


いつものように胡座をかいてヒゲをいじる村長にギーブが切り出す。


「じっちゃん、俺たち、村を…出ようと思うんだ…」


俺たちが生唾を飲む音が室内に響く。

それ以外は何もない沈黙。

「………」


とても長く感じる時間。一体、どんな叱責を受けるのだろうか。




「…よかろう。」


えっ、予想もしていなかった言葉に驚きを隠せなかったのは俺だけじゃないだろう。


「お前たちの顔を見れば分かる。何を言ってもその決意は変わらんじゃろう。」


村長は寂しそうな、しかし満足そうな顔をしていた。


「ただし、条件がある…

必ず、上へ行くんだぞ。お前たちにはこの村は、この世界は狭すぎる。」


そして、徐に後ろの棚から鉄製のハンマーを取り出した。


「ギーブよ。これはお前の死んだ親父のものじゃ。お前が村を出て行くと言ったときに渡せと言われておった。

幸いにお前の選定もハンマーじゃからな、うまく使えるじゃろう。」


「親父が…わかったよ、じっちゃん、わかった…」


その後、村長は俺を含めて1人ずつに言葉を送ったが、驚いたのは孫であるケイトに送った言葉が「頑張ってこい」の一言だけだったことだ。

それだけでも伝わる家族の繋がりがあるのだろう。



こうして、説得は成功した。


俺たちは、来たる出発の日に備えて各自準備をすることになった。


俺も確認したいことがたくさんあったからな。


まず持ちの入り口付近に行って誰もいないか確認する。大騒ぎになったら大変だ。

そしてポーチから親玉ゴブリンの亡骸を取り出した。

もう一度他に何か持ってないか調べたかったからだ。腐ってないか心配だったが、ポーチの中では時間の経過がないのかな?

まあ、そのうち調べよう。


ふとゴブリンの腹に目をやると赤く光る結晶のようなものが腹のなかで見え隠れしている。血管も繋がっているしなんらかの体内器官だろうか。


気になって取り出してみると、硬いピンポン玉ぐらいの大きさの結晶だった。


他の臓器は人間と大差ないから、おそらくこれが魔法を使うこの世界の人が持つ魔臓マーガンというものなのだろう。


ただの思いつきだった-----


魔石に似ているなあと思い、ゴブリンの魔石と魔臓を同じ手に取っただけだった。


すると接触した魔臓は輝きをまし、逆に魔石は光を失っていく。何が起きているのか分からないまま事が終わり、手には赤い魔臓と黒くなった魔石があった。


【魔法: 闇属性 / 回復魔法

固有魔法(闇): 操縦闇弾ダークオーダー

固有魔法: 自然治癒】


こんなイメージが頭の中に流れ込んできた。

根拠はないが、自分にはこれらの魔法が使える、そういう確信があった。


あのときに似ている。不思議なポーチの中に

手を突っ込んで、何が入っているのか鮮明にイメージできたときに。


試しに、固有魔法っていうのを使って見ることにした。光の球をイメージすると宙に光が集まり、木に放った。


木はメキメキと音を立てながら倒れた。

つくづく自分には効かなくてよかったと思った。


試してみたが、何かに着弾するまでは何度でも方向や速度を変えられることが分かった。

とても強力な魔法だ。


どうもあのゴブリンが使っていた魔法がこの魔臓を介して俺にも使えるようだ。


後でギーブに何も言わずに魔臓を渡してみても、何も感じないと言っていたのでおそらく魔臓がない異世界人である俺だからこそ、できることなのだろう。




こうして俺ことアスカは

魔法が効かない魔法使いになった

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