第3話 模索と戦闘

「えっ」


「昨日の夜は家にいたみてえだが、村のどこにもいねえんだ!今ケイトが村の周りを探してる。森にはいなかったか?」


ギーブは今まで見たことのない必死の形相だった。


「あ…ああ、俺が入ったところまでは、人も魔物も見つからなかった。もっと奥にいるかもしれない。2人で探そう。


じゃあ俺が左に行くからギーブは右へ。そこから回るようにして奥地の中央で落ち合おう。お互いに1時間経って会わなかったら一回森の外で待つ。それでいいな?」

「ああ!」


村にいなかったならまず森の中にいることは間違いないだろう。シャルルの選定の聖魔法は確かに魔法の中でも強力な属性だが、主に回復や状態治療に向いている。


しかもシャルルは武器なんて使えない。聖属性の攻撃魔法は存在するがシャルルは苦手のはずだ。近接戦闘なんてできっこない。


「なのにどうして、1人で言っちゃったんだ…」


森の奥地は未知の場所。危険がない保証はない。


パーティの命は自分の命


ギーブが毎日のように言っている言葉だ。おそらく彼は命をかけてでもメンバーを守るだろう。

この短い付き合いでもそれぐらいは分かる。

だから、俺もメンバーになるなら、守らなくては。


しかし、進めども進めども人も魔物もまったく姿が見えない。代わりに、一本の狼煙を見つけた。


「シャルルかな。よかった、迷ったのかもな。」


狼煙が見える方へ近づくとそこは広く開けた場所だった。

ところがそこにシャルルの姿は見つけられず、中央で人型の魔物が三匹焼いている獣肉を囲って座っていた。


初めて見たが、いわゆるゴブリンというやつだろう。

二匹は背丈は俺より低いがそれぞれ棍棒と鉄剣を持っている。

もう一匹は背丈は人間の成人男性よりも高く、杖を持っている。魔法使いのような姿だ。


シャルルじゃ…ないのか……いや、あれは!


三匹のゴブリンの後ろに隠れてよく見えないが、金色の髪が見え隠れしている。シーラス村に金髪なんて1人しかいない!シャルルだ!


「魔物に捕まってるのか…」


ギーブを呼びに…いや、戻って来るまでにシャルルが襲われないとも限らない。今、倒すしかないのか。


でもあのゴブリン達(特にデカイ奴)はスライムなんかのとは格が違うのは見れば分かる。しかも三匹。できるのか?半年前までただの中学生だった俺に…


そう考えながらももう答えは出ていたのだろう。俺の体は勝手に動いて小石を俺から見て左手の奥の茂みに向かって投げた。


カサカサッとなる音に反応した三匹は、親玉らしき一匹が別の一匹に声をかけて茂みに様子を見に行かせる。


そこに横の死角から距離を詰めて木刀で喉をひと突き---


「グェアァァッ!」


するとゴブリンは断末魔の叫びと共に倒れ、手に持った剣を落とす。


奇襲は成功だ。とりあえず一匹。しかし、異変に気づいた棍棒持ちのゴブリンもこちらに様子を見に来ている。俺はさっき倒したゴブリンの剣を拾って茂みの中に潜み、近づくゴブリンの足に突き刺す。


「ギャアアアアアア!!」


ゴブリンは悲鳴をあげ、棍棒を振り回すがその衝撃でバランスを倒し、転ぶ。

もはや隠れる理由もない。

そこですかさず剣でゴブリンの頭をかち割る。


よし、うまくやった --- はずだった


敵の数を減らそうと焦り過ぎたんだ。でなければ気づかないはずがない

前方で親玉ゴブリンがこちらに向けている黒く、禍々しい光の灯った杖に-----


ああ、終わった。魔法をよく知らなくてもあの光量からひと1人を吹き飛ばすには十分な威力があるのははっきりと分かる。

もう回避も何も、間に合わない。

元の世界に帰れないまま、この世界で何も達成できないまま、死んでしまうのか。


そして、俺の視界は黒く染まった-----






死ぬのって意外と痛くないんだな。もっと辛いものだと思ってたけど…






ゆっくりと瞼を開ける。そこには、驚きの顔を見せる親玉ゴブリンがいた。


「生き…てる…のか、俺。」


生きている以前に無傷も無傷、服すらも破れていない。自分が一番驚いている。だが、そんなことどうでもよかった。生きている、それだけで十分だ。

俺は鉄剣を拾い、親玉ゴブリンへと駆ける。


ゴブリンもすぐに体勢を戻し、さっきとは違う魔法を発動させている。

黒く小さな光を5個ほど宙に浮かべ、こちらに放ってきた。


でも避けられないスピードじゃない。サイドステップで回避し、一旦距離を取ってから再びゴブリンへ駆け寄る。


そこで気づいた。ゴブリンが不敵な笑みを浮かべている。

まるで、「してやったぜ」とでも言わんばかりに…

すぐさま後ろを振り向く。


「しまっ」

た!とも言い切る前に黒い光は5発とも

“着弾”した。そう、着弾したはずだ。


光の球は俺に触れるか触れないかの所で全て霧散し、見えなくなった。

勿論ダメージはない。ゴブリンの怒り狂った様子からあいつの技のせいってわけではないんだろう。さっきもそうだったのか?


もう2度くらっているんだ。イチかバチか試してみようじゃないか。


俺は次弾を撃ってくるゴブリンの前で構えも何も取らず立ち尽くした。


放たれた光弾は先と同じように霧散して消える。


これで確信した。

俺には魔法が効かないんだ。



思い当たる節が全くないわけではなかった。

以前、森で軽いケガをしたとき、シャルルの聖魔法で治療してもらったのだが、他の2人と比べて明らかに治りが悪かった。そのときはただのシャルルのマナ切れかと思ったが、そういうことなのだろう。


もう魔法は恐れなくていい。そのまま全速力で距離を詰め、ゴブリンの杖を持つ右腕を肘から切り落とした。


「ゴゥアァァアァ!」


さすがは親玉だけあって腕を落とされても力の衰えを見せず、魔法攻撃は無駄だと気づいたのか松明の予備に立てかけてあった棍棒を左手にもちこちらに向かってくる。


俺も一定の間合いを保ちながらタイミングを図る。フェイントを入れ、相手が半歩下がりかけたとき、棍棒を払い落とし、さらに刺突を心臓に---と言いたいところだが、身長の差からそのデカイ腹にぶち込んだ。


「ウゥ!」


さすがのゴブリンも怯んだ。相当なダメージのはずだ。この剣をこのまま下に押し切れば腹を開いて俺の勝ちだった。


しかしそれはできなかった。そのときおれは地に倒れていたのだから。


そう、ゴブリンに横っ腹を殴られたのだ。

“右手”で、殴られたのだ。


痛い痛い痛い血が出ている。骨も折れているかもしれない。まさかこんな凄い再生魔法が使えるなんて。


でも、これで終わりじゃない。


俺は腰に差したままの木刀を抜き取り、渾身の力でゴブリンの腹に刺さった“鉄剣の柄”目掛けて、上から下に振り下ろした。


ゴブリンの腹が開かれて、血が盛大に吹き出すと、ゴブリンは倒れた。


「勝った…」


気を抜いて休みたいところだが、再生されても困るので、心臓をひと突きして絶命を確認する。


すると心臓辺りの位置に何か光るものを見つけた。


「なんだ、これ…」

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