第2話 選定と資格
目が覚めるとそこには知らない天井があった。見渡すとここは簡素な木造で「日◯むかし話」に出て来そうな家だった。
「ああ、そうか。異世界…なんだよな、ここ。」
まあ、もう割り切っている。手立てが見つかるまではここで生きていこう。
と、家の中にギーブを探すが見当たらない。
家の外に出ると大きな木の塊を振り回すギーブを見つけた。
ブンッブンッと風を切る音が聞こえる。
「おお、アスカ。よく眠れたか?」
「あ、ああおかげさまでな」
泊めてもらっておいてお前のイビキで寝れなかったと文句は言えない。
「ところで、何してんだ?ハンマー?だよな、それ。」
ギーブが持っていたのは木製の木槌。
使いこまれているのがよく分かる。
しかもあんな風に振るには相当の力が必要だろう。
するとギーブはよくぞ聞いてくれましたとばかりにニカッと笑う。
「ああ、特訓だぜ特訓。俺の選定はハンマーだかんな。もっと使いこなせるまで鍛えてんだ。」
選定、とは何だろうか。この世界にはまだまだ知るべきことがたくさんありそうだ。
ということを考えていると、
「オマエ、まさか選定のことも知らねえのか?
どおなってんだよ。」
聞くに、どうやらこの世界の人間にはカラダの臓器としてマナと呼ばれる魔法の素?のようなものを媒介する魔臓(マーガン)と呼ばれる器官があるらしい。
体内のマナの流れによって何をするのに適しているのかが分かるらしく、準成人(10歳)になると各区の中央都市から神官が訪れ、選定された者のマナの流れはその最も自分に適したものに特化するように作り替えられるらしい。
選定結果は一生に一度のもので変更はできず、その結果は大きく分けて「魔法系・武器系・肉体系」の3つで、それぞれ多岐に渡って属性などが別れているそうだ。
といっても8区以上の区ではそのほとんどが魔法系で、その利便性から社会では魔法系が重視され、9区以下で多く見られる武器系などは騎士団などを除いて軽んじられているようである。
「ちなみに、ケイトは片手剣で、シャルルなんて魔法系の聖属性だぜ、すげえだろ?」
9区で魔法系が出るのはとても珍しいらしい。
俺はこの世界の住人じゃないから当然マーガンも体にないし、既に12歳で選定もなしにこの世界でやっていけるんだろうか。
とても不安だ。
朝食後、ギーブが家に他の2人を呼んできた。
「これより、シーラス防衛団会議を始める!」
ギーブが宣言すると、他の2人はパチパチと拍手をしている。
「アスカが新しく入ったから、今日はこれからの目標を再確認しようぜ。」
「最終目標は国選パーティになって大活躍することね!」
ケイトは今日もこの話題に目を輝かせている。
俺もちょっと興味が出てきた。国の中枢に関われば何か元の世界に戻る手立てを見つけられるかもしれない。
「で…でも9区以下の人は国選パーティになれないよね…。」
シャルルが聞き捨てならないことを言う。
え、ダメじゃん。
「えってことはここは9区だからギーブたちは国選パーティになれないってこと?」
「ま、まあそうだが絶対そうって訳じゃあねえんだ。上に上がれば!」
「そ、そうよ!資格さえ取れれば私たちだって!」
ギーブとケイトは駄々をこねるようにムキになって反論する。
どうにも、区を昇格する手段は、あるらしい。各区における昇格資格を得たパーティは上への居住権なども得られるそうだ。
「で…でも、資格が何か分からないから9区からは今までだれも上へ行ったことがないんでしょ?」
「バカね〜シャルル。それを私たちが最初に見つけるから面白いんじゃない。」
「ってことで当分は、資格が何か見つけることと、各自特訓だな。」
「結局今までとやってること変わんないじゃん。」
ギーブとケイトも元気を取り戻したようだ。
うん、先は長そうだな。俺はどうしよう。魔法はまず使えないだろうし、みんなみたいに何か武器を持った方がいいのかな。
そのうち魔物とかにも遭遇するかもしれないし。
「アスカは私の予備の剣を使うといいわ。
私と同じで木刀だけどね。」
丈夫そうな木で作られた木刀だ。護身用には心強いな。まあめったなことにはならないと思うけど、知らない世界だしな。
こうして、俺にとっての初めてのパーティ会議は終わった。
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村に入って半年ぐらいが経っただろうか。
ギーブ達とのウサギなどの狩りや木刀を扱うぐらいしかする事がなかったが、特に変わったこともなく、平和だった。シーラス防衛隊の3人ともよく話すようになったと思う。
そんな頃、俺はギーブたちに面白いことを聞いた。
俺が最初にこの世界にきたときは見えなかった集落の向こう側にある森の存在だ。
この森にはなんと魔物がいるのだ。魔物は上位の区ほど強く9区のものはスライムやネズミ型の魔物などとても弱い物が多い。
もちろん強い魔物がいないわけではなく危険だからと村では子供だけでの森への出入りを禁止されていていたが、メンバーが4人になって歳も14になったということで、村長になんとか許しを得てみんなで挑戦してみようということになった。
もちろん最初は警戒していたが、村の人も強い魔物は見た事がないと言っていたので今ではもう慣れたものだ。
しかも一部の魔物は倒すとたまにアイテムを落とすらしく、森の入り口付近に大量に溜まっていたスライムから取れたゼリーのようなものは、これでもかというほど大量にギーブの家に置いてある。
いつか何かに使えるかもしれないしな。
「よし、今日もがんばるか。上の区に上がるなら強くならないと身を守れないしな。3人もすぐ来るだろう。」
といっても、ここ最近で森の入り口付近の魔物はほとんど倒してしまったからか、簡単には見つからない。
空気中にある瘴気というマナのようなものが溜まると魔物が生まれるらしいので、時間をおけばそのうちまた生まれるだろう。
仕方ないのでまだ言った事がない奥地へ行こうかと思ったが、それならみんなを待ってからの方がいいだろう。危険だし。
森の入り口まで戻ると、肩で息をするギーブが叫ぶ。
「シャルルが!シャルルがいねえんだ!」
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