俺には魔法が効かないようなので異世界攻略します

こっこ

第1章 9区脱出編

第1話 序章と歓迎

見渡す限りの草原に、ぽつぽつ見える小動物。遠目に見える集落らしきもの以外に人工物のようなものは何一つ見つからなかった。


そこに1人いた少年は、ただ立ち尽くしていた。今の今まで父親の仕事場にいたはずが、世界観も何もかけ離れた場所に一人放り出されたのだから。


「どこだ、ここ…」

声にもならない声でポツリと呟くが当然返ってくる返事もない。


しかし少年はいつまでもそうやって呆けているわけではなかった。

神谷かみやアスカは聡明だった。


若干13歳にして、その場でただ慌てたり、現実逃避をしても意味がないことは分かっていた。

ゆえにアスカは思考する。


「明らかに日本じゃないよな。来る直前のことも思い出せないし、すぐに帰れそうにもない。とりあえずあの集落で人を探そう。」

「いや、言葉は通じるのかな。まあ、行ってみるしかないか。」


歩を進め、集落から500m程の所まで来ると数人の子供がいることに気づいた。

おそらく、アスカと同年代くらいだろう。

あちらもアスカに気づくと、タタタと駆けてくる。


「誰だ、オマエ。どこの村から来たんだ?」

3人のうちの1人の、少年が尋ねる。


「馬も使わずに1人で他の村からこれるわけないでしょ。きっと〝下げ〟られたのよ。でしょ?」

続けて少女が聞いてくる。


「いや、何が何だか分かんないんだけど、とりあえず言葉が通じるってことはここは日本ってことでいいのかな?」


頼むそうであってくれ。というアスカの願いはすぐに跳ね除けられる。

「何言ってんだ?ここはシーラス村に決まってんじゃねえか。何だニホンって?

聞いたことねえぞ。」


「あ、あの、強制転移の影響で記憶がこんがらがっちゃってるんじゃないのかな。」


今まで少女の後ろで隠れていたもう1人の金髪の少女も口を開いた。が、すぐにまた隠れる。

「確かにたまにそういうこともあるって聞くわね。」


(理解が追いつかない。まずは集落に行かせてもらって話を聞かないと。いい流れだから乗らせてもらおう。)


「ああ、父さんのところにいたんだけどそこから記憶が曖昧で。その、シーラス…村?に今晩だけでもお邪魔させてもらえないかな?」


すると、やけに嬉しそうな顔をする3人。


「困っている人ぁ見過ごせねえ!」

「弱きを助け、村を守る!」

「わ…わ悪いやつには負けないぞっ!」


「ギーブ!」

「ケイト!」

「シャルル!」


「「「5人パーティ

シーラス防衛団!!」」」


もう一度言おう〝3人〟の子供たちがそう言った。

アスカは呆然としているが、当の3人はというと誇らしげな顔をしている。

変にツッコまない方がいいようだ。


「んで、オマエの名前はなんて言うんだ?」


「俺はアスカ。ギーブ…でいいんだよな?よろしく。」


するとギーブは満面の笑みでアスカの背中をバンバンと叩く。

「アスカか、女みてえな名前だな。これから一緒にパーティやるんだ。仲良くしよーぜ。行くとこないなら俺ん家一人暮らしだからそこに住めばいいからよ。」


「「「えっ!?」」」


(なんか勝手にあの偽5人組に入れられてないか?)


「ちょっとギーブその子パーティに入れるの?」

「あたりめえだろケイト。せっかくの男メンバーだ。これ逃したらいつ5人揃うかわかったもんじゃねえ。アスカは悪いやつには見えねえし、シャルルもいいと思うだろ?」


「う…うん、私は別に大丈夫、だよ。」


「まあ、いいわ。とりあえずおじいちゃんのとこまで行きましょ。」


嵐のような自己紹介等の流れに若干置いてかれ気味になりながらも、アスカはケイトの祖父であるシーラス村の村長の下まで行くことになった。


シーラス村は入ってみると、家が40〜50軒ほど並ぶ小さな集落だった。

中でも一番大きな家に入ると中には広間があり、中央奥に褐色の良い白髪の老人があぐらをかいていた。

「おう、悪ガキども。どうしたんじゃ。

おや、知らん子がおるのう。」


「おじいちゃん、この子アスカって言ってね、多分上から〝下り〟てきたんだけど記憶がちょっとないみたいなの。

親ともはぐれちゃったみたいだから、この村に住まわせてあげて。」


(また上とか下とかか、一体何の話なんだろ。とりあえず、挨拶はしないとな。)


「アスカと言います。少しの間だけでも、お願いします。」


「ふむ、儂は村長のルータスじゃ。なに、断るはずがなかろう。お主のような礼儀正しい子供なら大歓迎じゃ。うちの村には悪ガキしかおらんからの。」

皺の多い顔をさらにシワっとさせてルータスは優しく微笑む。


「そりゃないぜ、じっちゃん。あっそうだ

アスカなら俺ん家に住むから何も問題ないぜ。」


「そうか、ギーブ、お主も念願の男友達ができて嬉しかろうて。

して、アスカよ。来たばかりで勝手が悪かろう。何でも聞いてくれ。」


アスカはやっと数々の疑問を解消できると心の中でガッツポーズをする。


「はい、ありがとうございます。では…」


アスカは現在地や年月日などに留まらず、世界の形や生活についてなどあまりにも基本的な事までルータスを質問攻めにするので、他の全員は不思議そうな顔をしていた。


ルータスの話をまとめると、この世界は上から順に1区〜10区までの階層構造をとっており、上位の区ほど社会的身分は高く、資格がないと区間を自由に行き来は出来ないということだ。

【1区➡︎王族、近衛騎士団、国家魔法師団など

2区〜4区➡︎豪族、大商人、大教会司祭など

5、6区➡︎中小権力者、豪農など

7、8区➡︎平民

9区➡︎貧民 ←シーラス村

10区➡︎蔑称:「墓場の民ダスト」】



そして犯罪などを犯したものは刑の大小に応じて下位区まで降格される。

その際、家族は連帯責任となる。アスカはその一例とみられたようである。


(やっぱり日本じゃないのか。いやもっと根本的に違う世界、異世界…かな。これは本格的に当分は帰れないと思った方が良いかもな。)


「あっそういえばギーブたちがやたら言うパーティってなんのことですか?」


「ホントに何も知らんようじゃの。ほれ、ケイト、教えてあげなさい。」


頼まれたケイトは得意げにその赤髪をなびかせて説明を始めた。


「分かったわ。

この社会ではね、15歳になって成人したら農民から商人、貴族、王族までほとんどぜーんぶの職業が5人〜10人のパーティを組んで協力していくものなの。

中でも特別なのは“国選パーティ”よ。

国から直接認められたパーティで、住民や役所からの依頼をこなすの。魔物を倒したりもするのよ。

どう?かっこいいでしょ!?」


ケイトは目を輝かせてそうアスカに尋ねる。ギーブとシャルルも同じ目をしていた。

国選パーティは子供が夢見る憧れの職業であることが見てとれる。


「そんな仕組みが…でもそんな大事な仲間に会ったばっかの俺なんかが入って大丈夫なのか?」

アスカの問いにギーブが割り込んで答える。


「この村は見てのとおり、小せえだろ?同い年ぐらいの子供っていったら俺ら3人ぐらいなんだ。ちっちぇ子ならもっといるがじいちゃんばあちゃんばっかでな。

でアスカが村に入るなら大歓迎ってわけよ。っつーわけで、今日からアスカもシーラス防衛団の一員だ!光栄に思えよ!」


(まあまだ分からないことはあるけど、聞きたいことは聞けたし、住まわせてもらえるんならよかった。)

「いろいろありがとう、ギーブ。

村長さんにケイトとシャルルもこれからよろしくお願いします。」


「こちらこそな。

もうすぐ日が暮れるからの。軽く村を見たら休んだ方がよかろう。お前ら、村を案内してやれ。」


「「「おうよ!(分かったわ!)(はい!)」」」


その後、一通り村を案内され、アスカはギーブの家に泊まった。

たくさんの情報を一度に詰め込まれたアスカはすぐに眠りにおちた。


もっとも、ギーブのイビキで3度ほど起こされたことはアスカしか知らない…

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