23.勇敢な戦士

 23


 レイ達はジュリアを連れて、ドリーグ邸のエントランスへ向かうと、そこには各班長に指示を出すマリーとバルトーレの姿が見えた。

 慌ただしく動くオルズのメンバー達。

 屋敷で働く人達が見当たらないところを見ると、既に安全な場所に運んだようだ。


「あら、あなた達。その様子だと大丈夫だったみたいね。みんなお疲れさま!」

「マリ姉の方は魔術道具の回収は出来たの?」

「もちろん無事回収したわよ。

 後はドリーグの尋問やら美術品の売却やら、色々とあるけど、今日のところはこれで任務終了ね!」

「そう、良かったぁ。あっ、そうそうマリ姉。

 この子が地下の牢屋にいたジュリア。

 なんと、ハル兄様と同じ転移者なんだよ!」

「まあ、可愛い子ね!私はマリー・アントワ。

 宜しくね、ジュリア!」

「ん。ジュリアです。助けてくれて、ありがとう。

 よろしく、お願いします、です!」


 マリーが優しく微笑んで挨拶をすると、ジュリアは緊張しているのか、カチコチになってたどたどしく挨拶をする。

 そんなジュリアを見て、マリーはジュリアの前で屈んで目線をジュリアの目線まで落とし、ジュリアの頭を撫でながら、


「ねぇ、ジュリア。心配しなくても、大丈夫よ?

 ここにいる人たちに悪い人はいないわ!

 それとジュリア……今までよく一人で頑張りましたね?疲れたでしょ?今日は私達の拠点で、ゆっくり休みましょう!」


 と言い、温かな眼差しでジュリアを見つめる。

 その言葉にジュリアは安心したのか、表情を和らげ、目の端には大きな涙を溜めていた。


 そしてマリーはジュリアを抱きしめて「ジュリア辛いことがあったら、泣いた方がいいわ」と優しく声をかけると、ジュリアは目をゴシゴシと拭い「ん。ジュリア、もう泣かないって決めた。だから泣かないの!」と力強く応える。


「ジュリアは強い子なのね!この歳でそんな事言えるなんて感心しちゃうわ!」

「あぁ、ジュリアは強いぞ!

 なんせ頭突きで壁を粉々にするくらいだからな!」

「そういう意味で言ったんじゃないわよ!

 あれはレイにも責任があるでしょ?大事なことは忘れない!いい?分かった?」

「あ、あぁ。り、了解した」

「うふふ。また何か、しでかしたみたいねレイ?

 詳しく聞かせてくれる?」


 マリーが笑顔てレイに尋ねるが、その目は笑っていなかった。


 レイとサンシーナは、マリーに先ほど牢屋であった状況と、ジュリアから聞いた話をすると、それを聞いたマリーは呆気に取られている。

 それもそのはず。

 ジュリアが壁を粉々にしたのも驚く話ではあるが、ジュリアが一番上から落ちたと言うガラー二渓谷は、世界でも稀に見るほど高く険しい崖なのだ。

 物理衝撃に強いドラゴンでさえも、あの崖の上から落ちれば命を落としかねない場所。

 そんな場所から落ちて、頑丈だからで済ませているジュリアにマリーはただただ驚き、そして呆れていた。


「ねぇ、ジュリア。いくら頑丈だからって言っても、これから先、何があるか分からないわ!

 人間なんてね、本当に脆い生き物なの。

 その時は大丈夫でもね、積み重ねていけばジュリアの身体に害が出る可能性もあるのよ。

 だからね、あんまり無茶なことはしちゃ駄目よ?」

「ん。分かった!気をつける!」

「まぁ、いい子ねジュリアは。皆も気をつけてね!」


 みんなコクリコクリと頷き、マリーに応える。


 それから一旦拠点に帰ろうという話になり、ジュリアはマリーと手を繋いで、エントランスの扉を開けようとした時、リリィが扉の前で立ち塞がり「ちょっと待って!」と言う。

 そしてリリィとレイが「ジュリアに見せたいものがある!」と言い、みんなにエントランスで待っててと言い残して、二人で外に駆け出して行った。


 その場に残された四人はキョトンと佇む。

 しかしレイとリリィが楽しそうに何かを企んでいる様子を見て、悪いことではなさそうだと思いながら、暫し待つ。


 しばらくすると、レイが扉を開け「待たせて悪い、ようやく準備出来た!」と言いエントランスの正面入口まで来て欲しいと案内される。

 エントランスの正面入口に六人で並ぶ。

 正面入口に立つと目の前には大きな庭園、そして右手側の奥には兵士達の別棟が見える。


 レイが別棟の方角を向いて指笛吹く。

 すると奥の方から「チュウ!」という鳴き声が聞こえ、すぐさまザッ、ザッ、ザッ、ザッと軽快な足音が聞こえてきた。


 暗闇の中から出て来たのは、ゴーレム達の行進。


 先頭を切って歩くのはネズミ型ゴーレム達。

 横一列に十体が綺麗に並び、そしてその後ろにはビシッと隊列を整えて歩行している。

 全員の足並みが、前後に振るう手が、綺麗に揃った美しい行進である。

 胸を張って歩く様は、勇敢な戦士そのものだ。

 ネズミ型ゴーレムが後ろに十列ほど続き、その後ろには大蜘蛛型ゴーレムが三十体、そしてハニービー型ゴーレムが五十体ほど続いて行進をしている。

 そして上空にはシェトワ含む鷹型ゴーレムが三十体、編隊を組んで並んで飛行している。

 まさに圧巻の一言である。


 その行進を見たジュリアは大きく口を開き、喜色の表情で「ふぉぉぉぉお!カックイイ〜〜!」と言いながら手足をバタバタさせ、時には飛び跳ねたりして、興奮状態である。


 その隣でリリィは、自身が企てた事などすっかり忘れて、ジュリアと一緒になって「カッコイイ!」と言ってはしゃいでいる。

 レイとの打合せでは、この後リリィがゴーレム達の性能や特技などを説明する予定になっていた。

 レイがリリィの肩を叩き「リリィ!説明、説明!」と催促すると、リリィは「あっ、忘れてました!」と無邪気な笑顔を浮かべてレイに応える。


 リリィは腰を落とし、ジュリアにゴーレム達の説明をしながらゴーレム達の行進を見守っていた。


 ゴーレム達はエントランス前に辿り着くと、全体一斉にぴたっと行進をやめ、くるりと正面に向き直り、一糸乱れずに敬礼のポーズ。

 ジュリアがパチパチと拍手を送ると、敬礼を戻しぺこりと一礼。そしてゴーレム達はジュリアに向けて、一斉に手を振るのであった。


 ジュリアはそれを見て、もう我慢出来ないとばかりに、満面の笑みを浮かべながらゴーレム達に駆け寄っていく。

 ゴーレム達と握手したり、頭を撫でたり、ペタペタと触ったりと、楽しそうにしているジュリアを見ながら、マリーとバルトーレは微笑んでいる。


 ひと通りゴーレム達と戯れたジュリアは、満足そうにしていた。

 それからゴーレム達にお礼を言うと、ゴーレム達はそれぞれの持ち場に戻っていく。


「ん。リリィ、リリィ!

 あのゴーレムさん達は、リリィが作ったの?」

「ううん、ジュリア。あのゴーレム達はね、マリ姉とバル、そしてお兄様が作ったゴーレムよ!

 そうだジュリア!私のゴーレム見る?

 私のゴーレム達はね、とっても可愛いんだから!」

「ちょっと待ってリリィ!

 まさかあのゴーレム達をここに呼ぶつもり?

 ほら、今は夜だし、ジュリアも大変な目にあったばかりだから、別の日にした方がいいと思うわよ?

 それにジュリアはまだ小さいから、あーちゃんとかしーちゃんを見たら、トラウマになっちゃうかもしれないし……ね?」

「えー、今日は駄目なのです?まぁ、サンがそういうのなら、仕方ないのです……」


 少し残念そうにするリリィ。

 ここ最近マリーやバルトーレ、そしてレイのゴーレム達がサンシーナに賞賛されたり、今回の任務に呼ばれたりしていたのが単純に羨ましかった。

 そこでサンシーナに、私のゴーレム達も可愛いから見て欲しい、と言って見せたのがあーちゃんとしーちゃんである。


 それを見たサンシーナは絶句した。

 冒険者である彼女は様々な魔物を見てきており、恐怖心への耐性はついてるはずだったのだが、ゴーレム達のあまりの異様な姿に絶句せざるを得なかった。

 それはまるで深い闇の中を覗くようなものだったのだ。


 故にサンシーナは、ジュリアにリリィのゴーレム達を見せようとすることを、必死になって阻止する。

 ジュリアは現在、安息が必要な時だ。

 あーちゃんやしーちゃんを見たら、ジュリアは安息どころじゃない話になってしまう。

 だからサンシーナは是が非でも、それを阻止しなければならなかった。


 とりあえずリリィが納得してくれたみたいで安心するサンシーナ。

 そのやり取りを見ていたマリーが「ありがとう、サン」と言って優しく微笑む。


 そして今度こそ拠点へと歩み出すのであった。

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