20.本日の主役

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 いよいよ作戦を実行するというので、テント前にオルズメンバーが集まる。

 総勢百人以上はいるだろう。

 だが目を見張るのは、本日の主役であるゴーレム達の姿である。


 レイの鷹型ゴーレムを始め、ネズミ型ゴーレム、大蜘蛛型ゴーレム、ハニービー型ゴーレム。

 総勢二百体以上のゴーレムが立ち並ぶ。

 きちんと整列し、種別ごとに並ぶその様は見ていて圧倒される。


 集まったメンバーを前に、マリーが壇上に立って作戦の概要を説明する。

 作戦は単純だった。

 はじめにゴーレム達が突入し、屋敷内の人達を制圧。その後、運搬班、回収班、治療班が屋敷に入って後処理をする。


 今回の件はドリーグ以外の人達には関係ない話なので、ゴーレム達が睡眠薬で眠らせた後に安全な場所にその人達を運ぶ予定だ。


 マリーの説明が終わると、各班所定の場所に移動を始める。


 レイ、リリィ、サンシーナの三人は屋敷右手側へと移動し、そして三人で塀の上に腰掛けてゴーレム達の活躍を見守る。


 ドリーグ邸は二階建ての大きな屋敷で、屋敷中央の突き出ているエントランス部分には、まるで塔のようにそびえ立つ八本の長い柱。贅を尽くした豪華な建物だ。


 建物部分は一段高くなっており、階段を下りていくと芝生と多くの植栽が植えられた庭園。

 そして庭園の奥、屋敷から少し離れた左側には兵士達が利用している別棟がある。


 広大な敷地内を兵士達は三〜五人組で見回りをしており、周囲を警戒していた。


 レイ達が見守る中、先陣を切るのはシェトワを含む鷹型ゴーレム達。


 五体一組で編隊を組み、バサリバサリと大きな羽を揺らしV字に並んで上空を飛行。

 各隊、見回りしている兵士達に狙いを定めると羽ばたきをやめ、兵士達へ向かって真っ直ぐに滑空。


「?!おい、何だアレは!魔物か?」

「いや、鳥みたいだな」

「――コッチに来るぞ!剣を抜け!」


 兵士達は低空飛行で、横並びに向かって来るものに気づいて声を上げる。

 風を切るような速さで向かって来るそのものに、兵士達は腰を引けながらも剣を抜き、構える。


 瞬く間に距離を縮めるゴーレム達。


 対する見回りの兵士達が、タイミングを計り剣を振り下ろす。

 ゴーレム達は身体を九十度回転させ、剣を躱し兵士達の間をすり抜け、再び上空に上がる。

 上空で「ピピィ」という鳴き声。

 シェトワである。

 シェトワの合図と共に、滞空していた仲間達は再度降下飛行を行い、兵士達に向かう。

 しかし今度は三体と二体に分かれ編隊を組んでいる。


 二方向から襲いかかるゴーレム達を前に、兵士達は背中を向き合わせ体制を整えるが、その表情には焦りがあった。


 一気に距離を詰められ、タイミングを計る兵士達。


 そして再び振るう剣が躱され、今度は三体のゴーレムが、足元に瓶のような物を落としていった。

 その瓶の中から白い煙が立ち昇り、あっという間に兵士達を囲うように広がっていく。

 一人の兵士が声を荒げ「不味い!この煙を――」と言い切る前に、その兵士は意識が混濁していきフラフラと上体を揺らし、膝を地につけバタリと昏睡する。


「おっ!シェトワ達がやったぞ!」

「格好良かったですね!お手柄てすシェトワ」

「えっ?!どこどこ?良く分かるわね二人共。

 全然見た目変わんないのに……でも、凄いわねこの子達。確かにこれは格好良いわ!」


 シェトワの活躍に大喜びするレイとリリィ。

 サンシーナは二人に、シェトワの場所を教えてもらい目を凝らして見ていた。


 その後も鷹型ゴーレム達の活躍が続き、見回りの兵士達が全て昏睡する。

 丁度その時であった。

 兵士達が利用している屋敷の別棟から、外の様子がおかしいと感じた三人の兵士達が姿を見せる。


「なぁ、ちょっと変じゃないか?」

「あぁ、何か見回りが誰も――うわっ!おいハニービーだ!直ぐに中にいる奴等を呼んでこい!」

「お、おう!」


 兵士の一人がその場から離れて、別棟へと辿り着くと勢いよく扉を開き、別棟の中へと戻る。

 その上空では待機していたゴーレム達が兵士の後を追って、難なく別棟へと侵入していくのであった。


 そして残された二人の兵士の前には綺麗に縦に並び、羽音を響かせながら二人の兵士を囲むように移動するゴーレム達の姿。


 じわじわと距離を詰められていく二人。


 その二人の間合いにゴーレム達が入ると、素早く剣を振るう。何度も、何度も。

 だが一向に当たる気配がない。

 ハニービー型ゴーレムは空中での自由度が高く、縦、横、斜めへと素早く移動が可能なゴーレムである。一介の剣士が振るう剣などに当たるはずがなかった。


 兵士達と交戦するゴーレムのうち、二体が兵士の足元に瓶のような物を落とす。

 一人は煙に飲まれ、一人は口元を押さえながらその場を退却しようと走り出す。

「クソッ、何なんだコイツら?」と男が眉間に皺を寄せ言葉を吐きつけ、別棟に向かって走る。

 だが、いつの間にか男の前にゴーレム達が回り込んでいた。


 目の前に突如現れたゴーレムに、男は驚きのあまり「うぉ!」と声を漏らし、足を止め、後ずさる。


 その足を止めた僅かな隙。


 その隙を狙い、男の背後にいたゴーレムが、器用に注射器を足で持ち、男の首筋にブスリとひと刺し。

 そして後ろ足で注射器を押すと、中の液体は針を通して男へ注入されていく。

 間をおかず、男は意識を手放すのであった。


 その頃、兵士達がいる別棟ではあちこちでドタバタと騒ぐ音、兵士達の叫び声が聞こえてくる。

 その音と声は、それほど時間が掛からずに静まり、まるで深夜のように静かな屋敷へと変わるのであった。


 屋敷の外にいる人達の制圧が完了し、ここからは屋敷内の制圧に移る。


 ここからは俺達の出番だ、とばかりにネズミ型ゴーレムと大蜘蛛型ゴーレムが屋敷の出入り口に整列している。

 ゴーレムなのに、心なしか精悍な顔付きに見えてしまう。


 ネズミ型ゴーレムはマリーの子供達である。

 体長十五センチほどの大きさで、背中には体長と同じ位の大きな筒のような物を背負っている。

 皆、首元に赤いスカーフを巻いており、愛くるしい姿だ。見た目はぬいぐるみに近いものがある。


 そして大蜘蛛はバルトーレのゴーレムだ。

 体長三十センチほどで、全身真っ黒な容姿。

 よく目を凝らして見ると、皆、首元に蝶ネクタイを締めておりとても凛々しい。


 大蜘蛛型ゴーレムの上に、ネズミ型ゴーレムが乗って屋敷内へと次々に侵入していく。


 ――屋敷一階にある厨房。


 厨房では、夕食の後片付けをしている最中だった。

 皿洗いをする者、調理器具を洗い流す者や、使用人達の夕食を作っている調理員達が、まだ厨房で仕事に励んでいた。


 そんな中誰かがゴーレムに気づいて声を上げる。


「おい。今ネズミがいたぞ!捕まえろ」

「あっ!そっちいったぞ?」

「これ本当にネズミか?めちゃくちゃ飛び跳ねてったぞ、今」


 ドタバタと追いかけ回し、探して回る調理員達。

 せっかく片付けた調理器具や、調味料がそこら中に散らばり、ぐちゃぐちゃになっていく。

 ゴーレム達は数日前から諜報で来ている屋敷というのもあり、あちこちと走り回り、ピョンピョンと飛び回る。


 しばらくして、一人の調理員が隅にゴーレムを追いやっていた。


 男はニヤリと笑みを浮かべ「さぁ、観念しろ!このネズミめっ!」と言いながらじわりと近づいていく。

 するとゴーレムが「チュウ!」と鳴き声を上げ、背中に背負った筒のような物を男に向けた。


 その筒のようなものを肩に乗せ、筒の穴を男に向けて狙いを定めるゴーレム。

 それから前足で小さなボタンをポチッと押す。

 するとポンッという音と共に、小さな煙玉が筒から飛び出て来て男の顔に命中。

 男は直ぐに意識を手放すのであった。


 急に倒れこむ男を見て、他の調理員達が慌てて彼の元に駆けつける。

「おい、どうした?」「しっかりしろ!」とそれぞれ声を掛けて身体を揺らす。

 その時であった。

 ポンッ!ポンッ!ポンッ!という音と同時に駆けつけた男達の顔に煙玉が顔を包み込む。

 バタリ、バタリと眠りにつく男達。

 その男達の前では、筒のような物を持ったゴーレム達が、小さな前足でハイタッチをする姿があった。


 ――屋敷一階にあるメイド達の作業室。


 メイド達はそれぞれの仕事に精を出していた。

 洗濯をする者、裁縫をする者もいれば、机に向かって屋敷内の在庫管理をチェックしている者もいる。


 その中でパタパタと小さな足音が聞こえる。


 一人のメイドがその足音に気づいて、目を向けるとそこには小さなネズミ。


「キャー?!ネズミよ、ネズミがいるわ!」


 そのメイドが慌てふためき、部屋から逃げ出そうと振り返ると……

 目の前には天井から糸でぶら下がる大蜘蛛の姿。

 その背中にはネズミを乗せている。それを見たメイドはみるみるうちに顔を青くし、バタリと倒れこむ。

 その様子を目の当たりにしたメイド達。

 同じく顔を青くし、バタリ、バタリ、バタリ。

 その様子を見てネズミ型ゴーレム達が顔を見合わせ「チュウ?」と一体のゴーレムが首を傾げて鳴き声を上げると、他のゴーレムはフルフルと首を横に揺らす。


 その姿は何かしたの?と聞いている様に見える。


 天井からぶら下がってる大蜘蛛型ゴーレムは、前足を上に上げてお手上げのポーズ。

 とりあえずは、何もせずにメイド達は眠ってしまったようだ。

 念のためゴーレム達は煙玉をメイド達に吹き付けて、作業室を後にする。


 活躍の場であるはずの作業室で、何もせずとも仕事を終えたゴーレム達の姿は、ガッカリしたように見える。


 ◇◇◇


 ゴーレム達の活躍もあって、ドリーグの部屋と地下室以外は、すべての人達を眠らせる事が出来た。


 敷地内には運搬班、回収班、治療班が続々と入ってきている。

 怪我をしている人には治療班が治療を施し、その後運搬班が安全な場所へと運び出す。

 回収班は屋敷内に集められた、数々の美術品の回収をしている。

 収集家であるドリーグが集めた美術品。

 どの品も高価なものばかりだ。

 この美術品達は、後にドリーグの好意によって売却され、その売却金で孤児院をノーズアンミーヤに建設する予定である。


 回収班が美術品の回収を始めた頃。

 マリーとバルトーレはドリーグの部屋へ、レイ、リリィ、サンシーナの三人は地下室へとそれぞれ向かっていた。

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