17.星空を見上げ
17
サンシーナがマリーにスカウトされ、オルズのメンバーになったその日の夜。
屋敷の者達が寝静まった頃。
居間には灯りも付けずに一人、外を眺めるリリィの姿が見える。
リリィは窓際に椅子を持っていき、薄暗い部屋の中で椅子に座って、ぼんやりと夜空を見上げていた。
穏やかな表情を浮かべて、語りかけるような眼差しで空を見つめるリリィ。
しばらく経ってから、居間の扉がゆっくりと開らかれマリーが姿を見せる。
マリーが「あら、リリィ。起きてたの?」と優しく声をかけると、リリィはマリーへと見向き「うん、ちょっとだけやる事があって」と応えて、再び空を見つめる。
マリーはリリィに歩み寄り、リリィの見つめる空を見上げ「綺麗な星空ね」と呟くとリリィは「うん、とても綺麗」と応えた。
夜の空気が静かさを引き立たせ、いつも賑やかな居間に二人の声が部屋の隅々まで響いていく。
「あのね、マリ姉。小さい頃ハル兄様がね……
お父様とお母様は星になって、リリィを見守っているんだって教えてくれたの」
「そう、ハルフォード様がそんな事を……
リリィはそれで星を見ていたの?」
「うん、ハル兄様が私を慰める為に、そのお話をしたのは分かってるんだけど、私ね……信じてるんだ。
だから、お父様とお母様に、色々とご報告してたところだったの。
こっちに来て、マリ姉とバルが来てくれて嬉しかった事、屋敷での生活や町の中で起きた事、そして初めて友達が出来た事……
それで今はその友達と一緒に海中探索のゴーレムを作っている事とかね!」
両親への報告。
リリィの両親は十二年前、リリィが五歳の時に亡くなっている。
遺跡の防衛をしている時、襲撃によって両親は命を落とした。
その時にハルフォードがレイとリリィを引き取り、二人の面倒を見るようになったのだ。
「うふふ、あの小さかったリリィに、初めて友達が出来たんですもの。
きっとお二人も喜んでいると思うわよ!」
「そうかな?喜んでくれるといいんだけど。
でもね、初めてのことだから、不安な気持ちにもなる時があるの。
ほら、私とお兄様はたまに変な勘違いするし、サンに嫌われないかな?とか……
こういう時はどうすればいいのかな?って、分からないことが多くて……」
リリィは視線を落とし、目に不安の色を滲ませる。
リリィは幼少の頃より、オルズの顔馴染みの人達としか接してこなかった。
皆、リリィと歳の離れた大人達である。
初めて出来た友達。
サンシーナと楽しい時間を過ごしている。
しかしサンシーナと友達になって、今までそれほど気にしてこなかった事を気にする様になったり、どうすれば良いか分からないことが多くて、リリィは不安な気持ちを持つようになっていた。
「ふふっ。たまに、なのね?勘違いは……
あなた達の勘違い位で、サンは二人を嫌いになったりなんかしないから安心しなさい!
それにね、リリィ。
分からないことが多いのは当然だと思うわよ、だって二人は友達になったばかりでしょ?」
「そうなんだけど……
でも、やっぱり不安だよ!ねぇマリ姉、こういう時はどうすれば良いの?」
初めてのことに戸惑うリリィ。
サンシーナともっと仲良くなりたい。
嫌われない様にしなければ、と意気込むが……
でも嫌われない為にはどうすれば良いのか分からない。何をすれば嫌われるのだろう。
どうすればサンシーナともっと仲良くなれるのだろう、とそんなことばかり考えるのが多くなり、分からない事だらけで不安になっていた。
マリーは優しく諭すように話しかける。
「ねぇ、リリィ。私だって初めて会う人や、友達になったばかりの時は不安になるものよ。
だってその人の事、知らないんですもの。
だからねリリィ。
それはリリィがまだ、サンのことをよく知らないから、不安になっているのかもしれないわね?」
「マリ姉も不安になる事があるんだ……」
「ふふふっ、意外に思うでしょ?
リリィはサンが何をすれば喜ぶのか、嫌われない為にはどうすれば良いのか、それが分からなくて不安なんじゃない?」
「そう!それだよマリ姉、なんで分かったの?」
正に自分の考えていたことを言い当てられて、リリィは興奮してマリーに詰め寄っていた。
そんなリリィを見てマリーは笑みを浮かべ、落ち着きなさいとばかりに、ポンポンと肩を叩いて、話を続けた。
「リリィの事をよく知ってるからね。
今までリリィと色んな話をして、リリィの沢山の表情や反応を見てきているのよ?
それ位分かるようになるわ。
リリィ、サンと良い関係を築きたいなら、サンの事をよく見て、そして沢山お話をしなさい。
そうしていけば、サンの性格や考え方。
何が嬉しい事なのか、嫌なことなのか分かるようになっていって、サンとの距離をグッと縮められると思うわよ!」
「そうなの、マリ姉?!」
「まずは沢山お話をすること!
口に出して言葉にしなければ、相手に伝わらないし、話をしなければ、サンが何を考えているのかも分からないでしょ?」
「そういえば、ハル兄様も同じ様な事言ってた。
会話することが大事だって……」
マリーが言うことは、幼少の頃からの顔見知りの大人達とばかり接してきたリリィが、これまで考えたことがなかったものだった。
今までは周りの大人たちが、レイとリリィをまるで自分の子供を見守るように接してくれていた。
悪いことをすればその場で注意し、何故駄目なのかを教えてくれる。
そのような環境で育ってきたリリィが、初めて出来た友達。
物心ついた時から、見知っている大人たちとは違い、マリーに言われた通り、リリィはサンシーナのことをよく知らない。
リリィが今まで当たり前ように接してきた大人たちとは、良い関係が築かれているが、それは大人たちがリリィを導いてきた故に、築かれたともいえる。
サンシーナと仲良くなりたければ、リリィがその関係を自ら築いていく必要がある。
リリィはそれが初めてのことであり、考えたこともなかったのだ。
だからマリーの話は余計に新鮮に感じた。
リリィは不安の原因、解決への道筋を教えてもらい表情が和らいでいく。
マリーは真剣な眼差しでリリィを見据え、話を続ける。
「それとね一番大切なのは……
相手のことを想う気持ち。
すごく単純なことだけど、これさえ忘れなければ、何とかなるものよ!」
「大切なのは相手を想う気持ちか……
でもマリ姉。そんな単純な事だけでいいの?」
「そうよ!リリィは難しく考え過ぎよ!
リリィはアマヤ・ルエムで沢山の人達と、良い関係を築いていたじゃない?
それと同じことよ!
だから単純に考えなさい。
サンを大切に想う気持ちがあれば、リリィなら大丈夫だから!」
「そっか、そうだったんだ……ありがとうマリ姉!
あっ!?なんか、スッキリした感じがする!」
リリィはそう応えると、晴れやかな顔をして空を見上げた。
マリーはリリィの頭を優しく撫でながら、大丈夫だからと声をかける。
二人が見上げる空には、今にも降って来そうな輝く星で埋め尽くされ、まさに圧巻の星空だった。
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