16.ようこそ

 16


 レイ、リリィ、サンシーナの三人がゴーレムと魔術道具を作り始めて六日が経過した。


 サンシーナは冒険者としての仕事があり、午前中来れない日が二日あったが毎日屋敷に来て製作を手伝っていた。


 今日も三人は朝からゴーレム制作をしており、現在は居間で昼食を食べていたところだ。


 ちょうど食べ終わる頃に、マリーが居間に姿を現し「ちょっと話すことがあるから、そのまま聞いて」と言って、いつもの席に座る。


「ドリーグの件でようやく動けるようになったわ。

 でも、その前に、サンに話すことがあるの」

「えっ?!私にですか?」

「そう、貴女によサン……

 率直に言うとサンをうちにスカウトしたいの。

 つまりオルズのメンバーとして、サンに入って貰いたいと言うことよ!」

「えっ?!ええええええええええええええー?!」


 マリーの口から聞かさせた言葉。

 その言葉はサンシーナの予想してないものだった。


 世界中で誰もが知ってる組織に、入って貰いたいと言われたサンシーナ。

 彼女は驚きのあまり、奇声じみた驚愕の叫びを上げてしまう。


 マリーはその様子を見て微笑みを浮かべ、話を続ける。


「勿論今のまま冒険者をしながら、オルズの仕事をするのも可能よ。そういう人もオルズには沢山いるわ。

 ノーズアンミーヤの冒険者ギルドでもトップクラスの実力者、そんな有能な人材をオルズとしては放って置くことは出来なくてね!それでこうしてサンに声をかけているの!

 既にハルフォード様の許可も貰ってるわ。ねぇ、どうかしら。サン?」

「わ、私がオルズマニアの一員ですか?

 でも私、闘う位しか能がないんですよ?」

「うふふ、その能力を買っているのよ?

 オルズはね、あらゆるものを研究しているわ。

 それに必要な薬草や素材なんかは、ほとんどオルズの研究員たちが採取、回収してるの。

 昔はよく冒険者ギルドに頼んでたけどね。

 そういえばレイとリリィも小さい頃から森に出て、そういう任務をしているわね。

 まぁ、サンにとっては今までとあまり変わらないかもしれないけど、冒険者ギルドを仲介しないでの仕事と言えば分かりやすいかしら?

 勿論、その報酬はギルドなんかより、ずっと良いわよ!」


 身体中を小刻みに揺らしているサンシーナに、マリーは真剣な表情でサンシーナに話しかけた。


 そしてそんなサンシーナを期待と不安が混じるような瞳で見つめるレイとリリィ。

 二人はグッと手に力を込めて、サンシーナの返答を祈るように待っていた。


「あの……マリーさん。

 お誘い頂いて有難う御座います。

 私、自分でも、びっくりする位、混乱してて、上手く言葉が出なくて、でも凄く嬉しくて……

 私、マリーさんのお誘い、お受けします。

 こんな私ですが、精一杯頑張りますので、これからも、宜しく、お願いします!」

「有難う、サン。こちらこそ宜しくね!」


 リリィはサンシーナの言葉を聞いて、嬉しさのあまりサンシーナに抱きついていた。

「サン、良かったぁ」とサンシーナの背中から抱きつくリリィに「ちょっとリリィ、力入れすぎ!」と困った表情を示すが、直ぐに嬉しそうに笑みを浮かべた。


 落ち着いてきたサンシーナは立ち上がり、改めて「宜しくお願いします」と頭を下げると、皆がサンシーナに歩み寄って握手を交わした。


 マリーの話しはまだ途中だったので、みんな再び席に着き、マリーの話に耳を傾ける。


「今回はサンもいることだし……

 オルズについても、私から少し説明するわね。

 二人もちゃんと聞いててね。

 私達オルズは『アマヤ・ルエム』の民、世界中に散らばる五つの遺跡を守る一族なの。

 でも十二年前、遺跡の最奥まで侵入されて、多くの一族が命を落としたわ。

 今までのやり方が通用しなくなったのね。

 それでハルフォード様が今までのやり方ではなく、独自のやり方をしようと立ち上げたのがオルズよ。

 結界、魔術道具、武器、防具、ゴーレムと次々に開発、研究を重ね、実績を積み上げていったわ。

 当時のオルズはそれでもアマヤ・ルエムで受け入れてもらえなかったわね……」

「昔は十人しかいなかったですものね!」

「あぁ、俺達もまだ子供だった」


 約十二年前にハルフォードが立ち上げた組織。

 それがオルズである。

 遺跡を防衛する為に、あらゆる方面の研究・開発を主とし、立ち上げられた組織である。

 オルズは研究の成果として、世界初となる魔術道具や、国宝級とまで言われた武具をハルフォードを筆頭に数多く作り出していった。


 それでも当時のアマヤ・ルエムでは、ハルフォードを受け入れてはいなかった。


 元々、ハルフォードはアマヤ・ルエムでは部外者であり、受け入れてくれたのは本当にごく僅かであったのだ。


「うふふ、そうね。その時は……

 レイがまだ八歳、リリィは五歳だったものね。

 今ではオルズマニアとして、開発した魔術道具や商品を売っているけど、当時はたった十人しかいない、本当に小さな組織だったわ。

 オルズ本来の目的……

 オルズの一番の使命は五つの遺跡の保護。

 それは今でも変わらないわ。

 そして今回の件……

 ドリーグはイーストルーツの結界を魔術道具を使って、第一の防衛線である結界を突破してきたの。

 今回の任務はその魔術道具の回収よ。

 ちなみにレイとリリィに調査をお願いしたのは、結界を解除していた奴等の防具ね。

 そのドリーグが持つ魔術道具の所在を監視してたんだけど、ようやく見つけたわ!」

「マリ姉、協力者の方は見つかったの?」

「あぁ、兵を借りる予定の奴か?」


 マリーはハルフォードの指示で、ドリーグの監視を徹底し、結界を解除した魔術道具の所在を調べていた。


 そして昨日ドリーグが自室の金庫から魔術道具を取り出し、魔石の充填している現場を諜報に向かっているゴーレム達が見ていたのだ。


 マリーはこれを見て、すぐにハルフォードに連絡をとり、色々と相談をしていた。


 そしてドリーグを監視して分かったことなのだが、今回の件はどうやら魔術道具の回収だけで済む話ではないのだ。


「そうね、その協力者なんだけど……

 それがまだ掴めていないのよね。

 まぁ、ドリーグを捕まえれば聞き出せるし、協力者が下手に動いたら、怪我するようには仕向けているから当分は大丈夫よ。

 ふふっ、こっちも色々と仕込んでいるから、協力者は動きたくても動けないはずよ。

 それでドリーグだけなら私とバルトーレが行くからいいんだけど、一つ問題があってね。

 屋敷の地下に監禁されている子がいるのよ……

 その監禁されている子の保護を、あなた達にお願いしたいんだけど、頼めるかしら?」

「あぁ、勿論。任せてくれマリ姉!」

「大丈夫だよ、マリ姉。

 でもその子、何でドリーグに監禁されてるの?」

「まだね、はっきりとは言えないけど……

 今回の件に関係してそうなの……

 ここからは推測の話だけどね、ドリーグの魔術道具は目と血液が入ったようなものだったわ。

 ハルフォード様が言うには、恐らく勇者もしくは転移者の目と血液ではないか?と言ってたわね。

 遺跡の性質として、理から外れた者を招き入れることがあるの。その理から外れているのが……

 勇者と他の世界から来た転移者。

 これは転移してきたハルフォード様にも言えることだけど、幾ら結界を張ってもハルフォード様はすんなりと遺跡に入れてしまえるの。

 まぁ、要はドリーグの持っているあの魔術道具は、遺跡の力を利用した魔術道具ってところね。

 それで監禁されている子も勇者か転移者の血筋なのではないか、ってそういう話になっているわ。

 多分、ドリーグが魔術道具の予備とし確保しているのね……」


 マリーがハルナビを通して見た、ドリーグの魔術道具は間違いなく目と血液だった。


 目は神経が繋がった状態で、球体の容器に薄紫色の液体浸され、その容器を囲うかのように管に入った血液が循環しており、とても悍ましい魔術道具だったのだ。


 まるで生きているかのような魔術道具。


 その内容を聞いたハルフォードは自身の経験から、遺跡が結界に影響を及ぼしているのだと考え、あの魔術道具はその力を利用したものであると推測したのであった。


「そんな酷いこと……」

「あぁ、まったくだな」

「人間を何だと思ってるのよ!」

「そうね、欲望に駆られた人間は、得てしてこういう下らない奴も多いわ。

 まともな人間ばかりじゃないのよ。

 それでサン、急な話で悪いんだけど……

 あなたは二人のお目付役として、今回の作戦に参加してくれないかしら?

 この子達だけで行かせたら、監禁されている子に会った時、変な勘違いして話が拗れてしまうのが心配で……」

「勿論、大丈夫ですよマリーさん。

 私、話を聞いて参加する気でいましたから!」

「うふふ、良かったわ。サンがいてくれて。

 この子達のこと宜しくね!」


 マリーは安堵の表情を浮かべサンシーナに微笑んで、ドリーグの話を終えた。


 それからマリーは、サンシーナにオルズの証明証や護身用の魔術道具、ハルナビなど最新の開発商品を渡す。渡された魔術道具を一つ一つ手に取り、驚くサンシーナにレイとリリィが寄り添って使い方などを説明する。


 仲良く三人であーだこーだ言いながら、盛り上がる三人を見て、マリーとバルトーレは嬉しそうに見つめていた。

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