15.ゴーレムを作ろう

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 三人が友達になった翌日。


 レイとリリィは商業区にある犬の石像前で、サンシーナと待ち合わせをしていた。


 商業区ということもあり、街行く人々は大きな買い物袋を手に持ちながら、楽しげに歩いている。

 通り沿い構える店舗からは客達の声、そして店員達の呼び込みの声が重なり、職人通りとは違った賑わいを見せていた。


 二人は石像を背にしてサンシーナを待つ。


 それ程待つこともなくサンシーナが駆け寄って来て「おはようレイ、リリィ。ごめん少し遅れちゃった」と言うとリリィは「おはようサン!」と応えると日傘を下ろし、レイに見向いて「お兄様、そう上手くはいきませんでしたね?」と残念そうな顔をする。


「サン、定番の台詞でもう一度頼む!」

「へっ?!何のことよ?意味がわからないわ!」

「ほらあるだろ?

 待ち合わせで、女の子が駆け寄って来て『ごめ〜ん、待った?』って頰を染めて言うと男が『イヤ、俺も今、来たところさ』って言うやつ。

 あれをやってみたいのだ!」

「そんな定番の台詞なんてないわよ!

 それに私の役、すっごい恥ずかしいじゃない?何で頰を染めなきゃいけないのよ!私、絶対イヤだからね!」

「はあ、分かってないなぁサンは……」

「分かってないですわね……」

「何で二人して残念な子を見るような目で見るのよ?もう、そんなことより早く行こう!」


 二人はサンシーナの案内で商店を目指す。

 海中探索に必要な品を購入し、これからゴーレムと魔術道具を作る予定なのだ。


 リリィが鼻歌を歌いながら歩み進めると、立ち並ぶ店の中で他の店よりも大きな店構えの商店の前でサンシーナが立ち止まり「ここよ、入りましょう!」と店の中に入っていく。


 店に入ると右手側から武器、防具、魔術道具、薬品、素材・薬草、生活用品、食料品と何でも揃っており、その品数に圧倒されてしまう。

 サンシーナが店の奥に進んでいくと、テーブルと椅子が五組あり、商談スペースになっていた。

 既に二組のテーブルが使われており、客と店員達が何やら話をしている。


 サンシーナを見かけて一人の女性が歩み寄り、話しかけてきた。


「あらあらシーナちゃん!いらっしゃい。

 今日はお願いしてた品の件?」

「いえ、違うんです。

 今日は友達と買い物に来ました」

「まぁまぁ。ようこそ…………

 あらあら、お二人さんじゃないの!!

 まさかまた会えるなんて……

 まあ!なんてことでしょう?

 とっても嬉しいですわ!」

「ん?その変なしゃべり方、こないだ会ったな。

 名前は確か……ノーズアンミーヤだったか?」

「流石お兄様です!そうです、私も思い出しました。確かノーズお姉さんです!」

「違うわよ二人共!それ町の名前でしょ?

 どうすれば、その名前に辿りつくのよ!

 イライザお姉さんよ!

 って、イライザ姉さん。二人の事知ってたの?」

「まぁまぁ、シーナちゃん。女の子が大きな声を上げてはメッですよ!ふふふっ。

 お二人にはベアハウスでお会いしたの。

 その時はナイフとフォークで喧嘩してたから、気になっちゃってね……

 それでね何度か名前を教えたんだけど、お二人とも全然覚えてくれないの。

 ふふふっ、でも凄く楽しかったわ〜!」


 イライザが言う通り、二人は三日前にイライザに会っていた。

 二人が初めて街に来て、初めて入った酒場ベアーハウスで、二人が色々とやらかして、周りの大人達は皆で見守っていこうと結束した夜。

 二人の前には沢山の大人達が集まり、自分の名前と店や仕事場を伝え、何か困ったことがあったらいつでも来てくれ、と大人達は二人に声をかけていた。

 その中にイライザもいたのだ。

 しかし数が多いのもあってか、二人は名前を覚えていなかったのである。


 ニコニコと微笑みながら再会を喜ぶイライザ。

 目尻が下がり、穏やかな表情。

 話し口調や動作を見ると、おっとりとした性格であることが窺える。

 そして何より母性を感じる大きな胸。

 レイは先程から落ち着きがなく、三人の目を盗んではチラチラとイライザの胸をみていた。


「ふふふっ、本当にまたお会いしたくて、街を歩く時は注意して歩いてたんだけど、中々会えなくてね。

 そしたら……

 ほら、美人と強面だから目立つでしょ?

 昨日ね商業区で見かけたって話を聞いて、すぐに探してみたのよ。でも探してもどこにもいなかったから、がっかりしてたところだったの。

 でも今日、またお会い出来て本当に嬉しいわ!」

「ふふっ、言われてるぞリリィ。

 強面だってさ!ぷぷぷっ」

「強面はあんたの方よレイ!

 そのくらい自覚しなさいよね!」

「私達もまたお会い出来て嬉しいです!

 まぁまぁお姉さん!」

「ちょっとリリィ!その呼び方辞めなさい!

 まぁまぁなお姉さん、って言ってる感じがするから。イライザお姉さんよ!イライザさん」

「あらあら、まぁまぁ。

 シーナちゃんはいつにも増して忙しそうね?

 そうそう!今日はどんな物を探していたの?お姉さんが、張り切ってお手伝いするわ!」


 そう言うイライザは力こぶポーズをするが、その細腕には力こぶは出ていない。

 そんな張り切るイライザに、三人はありがとうとペコリと頭を下げる。


 リリィは鞄から一枚の紙を取り出して、その紙をイライザに見せた。

 紙に書いてあるのは今日購入予定の素材。

 数が多いので三人で手分けして探すことにし、それぞれ買い物かごを持ち素材を入れていく。


 着実に買い物かごに素材を入れていくレイ、リリィ、サンシーナに対して、イライザはのんびりとしながらも目当ての素材を入れていた。


 だがイライザが動く度に、綺麗に陳列された商品がバタバタと倒れていく。

 イライザが「あったわ!」と動けば買い物かごが他の商品に当たりバタンと倒れ「あらあら、倒しちゃたわね」と振り向けば、違う商品が腕に触れて倒れていく……

 イライザの周囲はまるで盗難にでもあったかのような惨状になっていた。


 そんなことをしながら、ようやく全ての購入を予定していた素材が揃う。


 三人で集めた素材をテーブルに並べて確認していると、イライザが奥から飲み物を持って来た。


「まぁまぁ。こんなに沢山の素材、何に使うの?」

「これで二人がゴーレムと魔術道具を作るんだよ、イライザ姉さん。

 私達、それで海中遺跡を探索するんだ!」

「あらまあ!凄いじゃない!

 でも海の中でしょ?大丈夫なの?」

「あぁ、問題ない!海中で息をする魔術道具はハル兄が手配してくれる予定だ。

 海中でも問題なく探索出来ると言ってた。

 後は海の中で使うゴーレムと魔術道具だけだ」

「えっ?!海中で息をする魔術道具の方、大丈夫そうなんだ?!

 やっぱり凄いんだね、ハル兄様って人」

「まぁまぁ!凄いですわね〜、海の中で息が出来るなんて!素晴らしいですわ」


 それから四人でしばらく話をしていた。


 海中遺跡の探索が実現可能になりそうだったこともあって、三人は目を輝かせながら海中探索の話をイライザにする。

 イライザは優しい眼差しで見つめながら、三人の話を聞いていた。


 そろそろお昼時なので、昼食を済ませ早く製作に取り掛かろう、という話になるとイライザは寂しそうな表情で三人を見ていた。


 そんなイライザと別れて、三人は商業区で昼食を済ませ、屋敷へと向かう。


 ◇◇◇


 屋敷につくとバルトーレが待っており、バルトーレが用意した作業部屋へ案内される。

 元々は応接室だったのだが、二人の為にバルトーレが部屋を改装し、二人が今まで使っていたような作業部屋と遜色ない仕上がりになっていた。


 四つの作業机に、別室には溶鉱炉、鍛治部屋までもが備えてある。

 そして壁一面の戸棚には、三人が用意した以外の素材が綺麗に並べてあり、製作環境として万全の体制であった。


 三人は手分けして作業を開始する。

 リリィはゴーレムの内部回路。

 レイとサンシーナはゴーレムの外装部品を今日は担当する。

 サンシーナはレイに教えて貰いながらテキパキと作業を進めながら話を始めた。


「この部屋って、昨日までは応接室だったわよね?

 昨日の朝、私二人が居間に来るまでの間、バルトーレさんに案内されて、確かこの部屋に入ったんだけど……」

「あぁ、ここは昨日までは応接室だった部屋だ。

 バルは優秀だからな。

 この位のことは片手間にできるぞ!」

「本当凄いわね。バルトーレさん。

 もう全然違う部屋になっているじゃない!

 そういえば、今から作るゴーレムってどういうゴーレム作るの?」

「ふふふっ、なんと亀型ゴーレムです!

 ハル兄様に相談したら、海の中に行くにはやっぱり亀でしょう!と言ってましたので。

 それでお兄様とサンには、亀さんの外装を作って貰ってます!」

「あぁ、リリィが外装を作ると、この世のものとは思えない恐ろしい容姿のものが出来てしまうからな。

 リリィが作る外装は、見た目は悪魔とかよりも全然恐いぞ?」

「そうなんだ……

 まぁ、何か詳しくは聞かない方が良さそうね」

「ちょっとお兄様!そんな事ありませんよ?

 あーちゃんも、しーちゃんも凄く可愛いじゃないですか!」


 楽しそうに会話しながら作る三人。

 あーだ、こーだと言いながら作業をしていると、あっという間に時間は過ぎていく。


 休憩するには頃良い時間に、バルトーレがティーワゴンを押し、部屋に入って来て「オヤツの時間です」と言って、空いている作業机の上に準備を始める。


 三人は手を止め、席に座るとバルトーレが話を始めた。


「ささやかですが、私から皆様へお友達になられたお祝いで、皆様の好物をご用意させて頂きました。

 サンシーナ様の好物アップルパイ、レイ様の好物コーラ、リリィ様の好物プリンで御座います」

「うわぁ!凄いわね!

 有難う御座います。バルトーレさん!」

「あぁ、ありがとうバル。嬉しいよ!」

「バル、ありがとう!あっ、これバルのお手製ですわ!」

「えっ?!これバルトーレさんが作ったの?

 バルトーレさんどんだけ有能なの?」

「いえ、こちらは誰でも簡単に出来る物ばかりです。お口に合えばいいのですが、どうぞご賞味ください」

「このプリンとコーラって初めて見るわ。

 ではお言葉に甘えて、頂きます……

 ……美味しい!!何?このプリンって?口の中で、するってとろけていく!

 それにこのコーラ?何かシュワシュワしてて凄いサッパリして美味しい!!」

「お口に合ったようで、なによりです。

 それでサンシーナ様。

 昨日はレイ様もリリィ様もお帰りが遅かったので、マリー様も私達もお祝いしておりません。

 宜しければ、今日のご夕食はお祝いも兼ねてこちらで用意させて頂けませんでしょうか?

 サンシーナ様がいらっしゃれば、マリー様もメイド達も喜ぶと思いますので」

「えっ?でもいいんですか?」

「勿論よサン!皆で一緒にお祝いしましょう!」


 リリィが満面の笑みを浮かべサンシーナを誘う。

 結局サンシーナは、屋敷で夕食を食べることになった。


 バルトーレの用意したオヤツを皆綺麗に平らげ、再び作業に熱を入れる三人。

 会話しながら作業をしていた先程とは異なり、夢中になって製作に没頭していた。


 夜になるまで作業は続き、バルトーレが夕食の準備が出来たと呼びに来るまでの間、三人は手を休めることなく作業を続けていた。


 居間に入るとマリーが待っており、三人が席に着き五人で食卓を囲む。

 用意してある料理はどれも贅沢な物ばかりで、手間がかかっており、美味しそうな匂いが漂っていた。


 マリーとバルトーレから二人にお祝いの言葉がかけられ、サンシーナには感謝の言葉が贈られた。

 和やかな雰囲気の中で食事が始まり、屋敷の中で五人の笑い声が絶えなかった。

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