12.友達になってくれませんか?
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ノーズアンミーヤは海面から陸地へと幾つもの水路が伸びており、そしてその水路に直角に交わるように大通りなどの道路がある。
その為、街には水路をまたぐ橋が多い。
水路では多くのゴンドラが行き交っている。
ゴンドラで街並みを見て回るのもノーズアンミーヤの観光名物の一つであった。
橋の上からゴンドラに乗る船頭に手を振る二人。
サンシーナの案内で、二人は商業地区の店などで寄り道をしながら、ベアーハウスのマスターに教えてもらった場所へと歩み進めていた。
海に面した陸地は大きくは三つに分けられ、大きな川の近くにある港地区、それを挟むように砂浜がある居住区、多くの商店がある商業地区がある。
三人が向かっているのは商業地区にある海岸だ。
「ねぇ見て、風車が見えて来たでしょ?お目当ての場所はもうすぐよ。
ちなみにあの風車もオルズマニアが作った物よ。
ねぇ知ってた?!二人共」
「あぁ、あれはロイおじさんが研究している『風になんか負けないんだからね!』だな」
「何?その名前……レイは自分の事は覚えてないのに、人の研究はちゃんと覚えているのね。
そういえば、あの風車って何のためにあるの?」
「ふふっ、あの風車はですね……
薄毛に悩むロイおじさんは風が吹くのが大嫌いなんです。理由は、時間をかけて整えた髪が風で飛ばされ……いや、風でぐちゃぐちゃにされるから大嫌いだと言ってました。
それでロイおじさんは思いついたらしいです。大嫌いな風を逆に利用してやる、と。
ハル兄様に相談して研究開発されたのがあの風車で、風の力を魔術道具に蓄えて使うことが出来るのです」
「今は短い時間しか使えないが、将来的にはその力で、馬無しで荷車を動かしたり、風がなくても船を動かすことが出来るってハル兄が言ってたぞ!」
「理由はともかく、そんな凄い物だったのね。
でも馬無しで荷車を動かすなんて凄いわね。夢のような話だわ!」
話をしながら歩いていると海岸に着いた。
商業地区の海岸は陸地が岩の床のようになっており、海面から陸地までは一メートル程高さがある。
すでに観光客が何人かいて、皆覗き込むようにして海辺を見ていた。
僅かに緑の色が混じる海は透明度が高く、透き通るような海。
二人はサンシーナに促され、海岸に行き海を覗く。
海の中には岩で出来た家や壁そして道路があり、深さのせいか、または波がある為か、ぼんやりとしか見えないが、海中に沈められた街並みは二人にとって神秘的な光景だった。
「サン!家があるぞ?街みたいなのが見える」
「サン、凄いです!街がすっぽり海の中に埋まっていますわ!」
「ほら、二人共!あんまり身を乗り出すと海に落ちちゃうわよ!」
「誰か住んでいるのか?あぁ、街みたいだから住んでいるのは当たり前か。
よし、潜って会いに行くかリリィ!」
「はい、お兄様。きっと魚人族の方達が住んでいるのですわ!行ってみましょう!」
「へ?!ちょっ、ちょっと待って二人共!
潜っても誰も住んで居ないわよ!
ここはね、言い伝えでは五百年位前の住居だと言われているの。
海岸沿いの海の中は調べて、ある程度はわかるけど奥の方にも街が続いているみたいで、まだ謎が解明されていない遺跡なのよ。
まぁ、海の中じゃ調べようが無いけどね」
サンシーナから遺跡と聞いた二人は目を輝かせ、再び海を覗き込む。
サンシーナは楽しそうに感想を言い合う二人を見つめて微笑みを浮かべる。
二人は子供のように、あちこちと移動しながら海を覗いては感想を言い合う。
「ねぇサン。ここの遺跡、三人で調べてみない?
奥の方はまだ誰も調べていないんでしょ?
だったら私達三人で探検しながら調べるの。すっごい面白そうでしょ?!」
「えっ?!だって海の中なのよ?
確かに海の中を探検とか、面白そうだけど息が続かないし、深くて潜れないわよ?
前に調査隊を出したけど、皆息が続かなくて海底まで行けなかったみたいだし、海の中は真っ暗で何も分からなかったって言ってたわよ!」
「うふふ、大丈夫よサン!
私達、こう見えても研究員なのよ!
そういう魔術道具がなかったら、私達が作れば良いんじゃない?」
「あぁ、そうだな。
と、なると水中で息が出来る魔術道具と水中で光を照らす物、それにゴーレムも欲しいな。
後でハル兄に相談しないとな!」
「そういえば、あなた達は研究員だったわね。
忘れてたわ……
でも、それが出来たら凄いじゃない!
誰も知らない遺跡を探検なんて、久しぶりに冒険者としての血が騒ぐわ!」
「ね?!でしょー?
じゃあサンも一緒に、三人で探検隊結成なのです!
ふふっ、楽しみ〜!」
興奮気味のリリィはサンシーナとレイの手を取ってブンブンと振り回す。
そしてレイは思い出したように「こういう時はアレじゃないか?」と言い出し、サンシーナにバンザイのやり方を教え、三人で海に向かってハルフォードに教えてもらったバンザイサンショウをした。
満足した表情のレイとリリィに対してサンシーナは訳が分からないという表情を浮かべる。
それから三人はお昼過ぎということもあり、お腹空いていたので海沿いを歩いて港地区を目指した。
ノーズアンミーヤの街は一日で見て回るには広く、午前中に商業地区を軽く見ただけでも相応の時間がかかっていた。
そんな事もあって三人は港地区に入ると、早めに昼食を食べて、港地区を見て回った。
船着場に海鮮市場、造船所と海の街ならではの場景に二人は興奮しながら見て回る。
時折、屋台で売っている魚介類の串焼きや名産品を購入し食べながら観光していたら、あっという間に時間が過ぎていき、街並みは夕陽に包まれ、青い海は茜色に染まっていた。
夕陽を眺めながら三人は海辺で並んで座りながら、今日見て来たことを話していた。
そんな中、リリィは何かを言い出したいが言えずにいて緊張した表情を浮かべていた。
それを見たサンシーナは「どうしたの?リリィ」と声を掛けるとリリィは「あのね、サン。聞いて欲しいの」と応える。
「あのね、サン。私、初めてだからどうすればいいのか分からなくて……
自分勝手な話なんだけどね、私サンと一緒にお話をしたり、冗談を言ったり、今日みたいに色々見て回ったりするのが、凄く楽しかったの。
私達、小さい頃から周りには研究員の人達しかいなくて、それが当たり前だと思ってた……
だけど初めて来た街でサンに会って、すっごい楽しくて、初めて自分からサンと仲良くなりたいと思うようになって……
でも、今まで友達とかいなかったから、どうすればサンに友達になって貰えるのか分からなくて……
それで……その……サン……
私達と友達になってくれませんか?」
「もう、リリィったら……
私、リリィもレイもとっくに友達のつもりよ。
それに今は『探検隊』の仲間でもあるでしょう?!」
「そうなの?そうだったんだ……
ゔぅ〜ザン〜!ありがとう〜、ありがとう!
今まで生きてた中で、今日が一番嬉しいのです!
それにね、怖かったの……
嫌だって言われたらどうしようと思って……
ゔぅ〜ザン〜ありがとう〜!」
「もう!そんな事言う訳ないでしょ!
それよりリリィ、もう泣かないの。
ほら、もう綺麗な顔が台無しじゃないのよ!
涙拭くから、顔上げてリリィ……」
サンシーナが優しくリリィの頭を撫でて、それからハンカチで涙を拭いてあげた。
それから三人は友達になったお祝いをしよう、という話になり、レイとリリィは「行きつけの店がある」と言うと「じゃあ、そこにしましょう!」とサンシーナが応えた。
そのサンシーナの顔には、一回行ったくらいでは行きつけの店とは言わないのよ!と書いてあった。
三人はベアーハウスの店に着き、リリィが勢いよく扉を開くと店内は既に多くの客達で賑わっていた。
リリィが店に入ると「ニンジンの嬢ちゃん!」と声を掛けられるがリリィには聞こえてないようで、楽しげにスキップを踏みながらカウンターを目指す。
そしてカウンターに座ると、パチりと指をならし「マスター、いつもの」と言うと、マスターはにこやかに「あいよ!いつものね!」と笑顔で応え、後から席に座るレイも同じように続けた。
そして二人と一緒について来たサンシーナを見て「お?サン、知り合いだったのか?」とマスターが尋ねると、リリィは「マスター違います!私達、友達なのです!」と満面の笑みを浮かべて返した。
その言葉にマスターは口角を上げたのだった。
サンシーナも二人と同じ物を頼み、それぞれグラスを持ち乾杯をする時であった。
二人はニヤリと笑みを浮かべ口を開く。
「「君の瞳に乾杯!」」
「…………」
「ちょっとお兄様!ひどいですわ!
私の言いたかった台詞なのに、被せてくるなんて!」
「ん?俺だってハル兄から聞いた時から、言いたかった台詞なんだぞ!いいじゃないか」
「もう、二人共。喧嘩しないの!
それよりも早く注文しましょう?
お腹空いてるんでしょ?」
夜はまだまだこれからである。
三人の話にマスターと客達は耳を傾け、客達の笑い声が重なる。
いつの間にか三人の周りにはちょっとした人集りができ、皆から友達が出来た二人に、お祝いの言葉が飛び交う。
ベアーハウスは今日も温かな雰囲気に包まれていた。
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