11.そんなのは嫌だ

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 窓から朝陽の淡い光が差し、空はわずかばかり夜の気配を残している。

 レイとリリィはいつもよりも早く起床し、身仕度をしていた。

 というのも昨夜襲撃があったので、二人はサンシーナのことが心配になり、早めに起きて、様子を見に行こうとしていたのだ。


 二人が居間に入ると朝食の準備は既に整っていた。

 席に座ろうとすると、バルトーレが居間に姿を見せ、その後ろからサンシーナが緊張した表情で居間に姿を現した。


「サン!どうしたの?!何かあったの?」

「はぁ良かったぁ、二人とも無事だったのね?

 ごめんね、朝早くに。

 二人のことが心配で、居ても立っても居られなくなっちゃって、様子を見に来たのよ!」

「まぁ!ありがとう、サン!私達も早起きしてサンのところに行こうって話をしてたの。

 それで、サンの方は昨日は何ともなかったの?」

「うん、二人のおかげよ。ありがとう。

 それにしても二人とも貴族だったの?

 私、こんな立派なお屋敷見るの初めてで、ちょっとびっくりしちゃったわ!」

「ん?木族?何を言ってんだサン。

 俺達は人族だぞ!まったく!トレントと人間を間違えるなんて、大丈夫かサン?」

「レイに言われたくないわよ!あんた昨日、雪だるまと人間を間違えてたじゃないの!

 私が言ってるのは貴族よ、貴族!」

「ふふふ、お兄様。昨日マリ姉に教えてもらったじゃないですか。

 そっちの貴族のことですよ!」

「ん…………あぁ、そっちか。

 いや俺達は貴族じゃないぞ!

 それに、この屋敷はハル兄の屋敷だから、俺達の屋敷じゃないんだ」

「――レイ様、お話中のところ失礼します。

 せっかくサン様がいらっしゃって下さいましたので、サン様の御もてなしにテーブルに朝食をご用意しておりました。

 この後は、ゆっくりと朝食をとりながらお話をするのはいかがでしょうか?」

「あぁ、そうだな。腹減ったし、朝食にしよう!」


 バルトーレの誘いに遠慮していたサンシーナだったが、二人が半ば強引に席へと連れていくとサンシーナは諦め、三人で朝食を取ることになった。

 二人は昨日屋敷であったことをサンに伝えると、サンは驚きと心配の混じるような表情を浮かべる。

 そこへ黒と赤のシンプルなドレスを纏ったマリーが居間に入ってきて「皆おはよう、あらお客さん?」と言うと、サンシーナが驚きの表情を浮かべながら立ち上がり口を開く。


「お、お邪魔しております。朝早くにすいません。

 あ、あの、私、ぼ、冒険者をしているサンシーナと申します」

「あら、貴女が二人の言っていたサンなのね。

 マリー・アントワよ、宜しくね!

 まぁ、座って座って。

 せっかくの料理が冷めちゃうわ。皆で食事にしましょう!」


 マリーとバルトーレを交え五人で朝食を食べながら、昨日の襲撃の件、首謀者、冒険者ギルドの件などをサンシーナに話をした。

 サンシーナは二人を見つめながら、心配そうな表情を浮かべている。

 その様子を見ていたマリーが優しく微笑みながら「二人が心配?」とサンシーナに声をかけると「いえ、あの……ハイ」とサンシーナは顔を少し赤らめ、小さく頷く。


 サンシーナの反応にマリーは目尻を下げ「大丈夫よ、この子達は特殊だから」と言うとサンシーナは「特殊、ですか?」と考え込む。

 その様子を見たマリーはレイとリリィに見向き「二人共、組織のことまだ話してないの?」と尋ねると、二人はこくりと頷く。


「別に内緒にすることでもないのに……

 サンも今回の件で私達が巻き込んだようなものだから、話しておく必要があるわね。

 あのねサン……

 私達は『オルズ』のメンバーなの。

 だから敵が領主や冒険者ギルドでも、対抗する手段も、殲滅する戦力も持っているから安心して。

 それに二人に関しては、小さい頃から色んな人達に戦う術を手解きされているから、相当な手練れで無い限り、負けることはないと思うわよ。

 こう見えても二人の実力は、オルズでもトップクラスなんだから!」

「えっ?!ちょっと二人共!あのオルズマニアのメンバーだったの?

 凄いじゃない!って何で、何言ってるかわからないっていう顔してんのよ?

 ちょっとレイ!あんた、そこで首傾げないの!」

「ん?何だ?そのオルズマニアって?」

「えっ?!そこからなの?何、リリィも知らないの?あなた達、メンバーなんでしょ?」

「うふふ、ごめんねサン。この子達、ほんの少しだけ世の中のことに疎いのよ。

 いい二人共、オルズはね、研究員達が開発した物を商品化して色んな国に売っているの。

 薬品や魔術道具、衣服や船、数え切れない商品を売っているわ。

 そのオルズが開発し商品化したものをオルズマニアという名前で統一しているのよ。

 ハルフォード様はブランドって言っていたわ!」


 ハルフォードは徹底したブランド戦略をとり、今や市場では圧倒的に優位な立場を確立し、知らない者はいないと言われるほどだった。


 だがレイとリリィはつい二日前、初めて他の街に来たばかりで、オルズが開発した商品がそんな状況になっていたのを知らなかった。

 正確には周りの研究員達が何回か二人に教えているが、二人は毎回のように聞き流し、教えた内容を二人に確認すると、ハル兄(様)は凄い!という結論になる為、研究員達が匙を投げ二人に教えることを諦めた格好になる。


 レイはマリーの言葉に口角を上げ「やっぱりハル兄は凄いって事だな」と言うと「何か聞いた事があるような気がするけど、でも流石ハル兄様です!」と胸を張る。


 そんな二人をマリーとサンシーナは呆れ顔で見つめ、バルトーレは穏やかな笑顔で二人を見ていた。


「まぁ、時間はたっぷりあるから二人はその辺も勉強しないと駄目ね!

 あのね二人共。

 一応二人の開発した商品もオルズマニアとして売っているのよ!基本的なこと位は覚えておいてね?」

「えっ?!そうなんですか?

 マリーさん、二人は何か研究しているんですか?」

「うふふ。サンが今腰に下げている魔術道具はレイが開発した魔術道具よ。

 二人共、オルズの研究開発に携わっているわ。

 レイは魔術関連、リリィは主に大型の魔術道具、オルズのゴーレムの基礎構築はリリィの考えが元になっているのよ!」

「うぅ。この魔術道具、私のお気に入りだけどレイが開発したと言われると、凄くショックだわ!」

「んー。言われてみれば、見たことある、気がしないでもなくはないな!」

「どっちなのよ!っていうか自分の作った物くらい覚えておきなさいよ!」


 話がオルズの話題になってから、サンシーナの驚きは増えるばかりであった。

 この後もしばらくサンシーナの驚く声とレイとリリィに訂正を入れる声が続いた。


 だが時間が経つにつれて、サンシーナは頰を赤らめながら、マリーを見ることが多くなっていった。


 そしてサンシーナは恥ずかしそうに俯き、チラチラとマリーを見て「マリーさん、マリーさんはあの『殲滅の赤き魔女』ですよね?」と言うとマリーは口元に手を当て「うふふ、そんな呼ばれ方もあったわね」と笑いながら応える。


 マリーはその返答に顔を真っ赤にし「あの私、ずっと憧れていて。お会いできて嬉しいです!」と言うとマリーが「私も嬉しいわ『次の女帝』」と笑うと、レイとリリィが羨ましそうにマリーとサンシーナを見ていた。


「ねぇ、マリ姉。いつの間に二つ名持ってたの?

 ズルい!私も二つ名欲しいのに!

 それにサンも二つ名持っているなんて、私も何とか女帝とか魔女とか言われてみたい!」

「うふふ。あれね、前に冒険者の真似事したらそんな風に呼ばれるようになったのよ。

 リリィも冒険者の真似事したら、何か二つ名が付くんじゃないかしら?」

「そうなんだ。でも冒険者って何をするの?」

「冒険者はね、依頼を受けて魔物を倒したり、薬草を採ったりと色々あるわ」

「それだと今とあんまり変わんないね。

 ふーん、冒険者かぁ……」

「興味あるなら、私も冒険者だから色々教えるわ。

 でも確か二人ともトムおじさんとか街の人に何とか兄ちゃん、とか何とか嬢ちゃんって呼ばれてたじゃない?あれって何だったの?」

「あぁ、それか。あれは……

『ニンジンの兄ちゃん』『ピーマンの嬢ちゃん』って酒場で呼ばれてたんだ……」

「うふふ」「ぷっ」「ぐふっ」


 レイの答えにマリー、サンシーナそしてバルトーレは声に出して笑い出す。

 レイとリリィは恥ずかしそうに視線を外し、苦々しい表情である。


「ちょっと三人共!何で笑ってるのです?

 くっ、邪悪な緑の苦王のやつめ……

 いつかこの世から種子ごと殲滅してやります!」

「あぁ、食卓からあの忌々しい橙色の悪魔と緑の苦王が消える日は近い!

 俺達の本気を思い知るがいい!」

「ちょっと何でそんな大袈裟になるのよ?

 物騒なことは辞めなさい!農家の人達も困っちゃうでしょ!」


 サンシーナに宥められ、何とか落ち着きを取り戻したレイとリリィ。


 五人とも既に食事を済ませており、今は食後の紅茶を飲んでいた。

 マリーとバルトーレは昨日の後処理を終えてから冒険者ギルドに行くといい、レイとリリィはついて行きたいと言うと、マリーは大人の話し合いがあるからと断わり、マリーに折角だから三人で観光も兼ねて遊んで来なさいと勧められ、三人は街に遊びに行くことになった。


 ガンツの方が心配ではあるが、タロを置いて来ているので大丈夫だろう、という話になり三人は屋敷を出て街へと向かう。

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