転生パターン05 榎戸飛一の場合。
不確かな真理の執行者 1
……。
知らない天井だ。
なーんて、テンプレは省略しちゃってもいいよな?
俺は、榎戸飛一。ひーち。
転生者だ。
お察しのとおり、交通事故に遭ったと思ったらいつのまにやら白い世界にいて、よく分からない人種の女に、みょうちきりんな話をぶちかまされた。今は、その女に、これまたわけの分からない穴に落っことされそうになったところだ。
「まったく、ちょっとは俺の話も聞けよな」
「それで面倒なことになった経験があるもので、ここ数人は即落ちさせています」
「つってもよぉ、なんか大事なこと忘れてねぇか?」
女の手を掴んで、なんとか穴から這いずり出た。
白く細い手が、汚らわしいとばかりに俺の手を引き剥がす。
失礼すぎる奴だが、まぁそれはいいや。
それより、
「女神さん、あんたは大切なもんを忘れてるっ!!」
「はて、なんでしょう」
「チートだよ!チート!テンプレweb勇者ご用達の最重要タスク!どんなポンコツ異世界ものだって、神様の部屋から出る前にチートアイテムとかもらえたりすんのがお約束だろうが!こんなへっぽこ現代人ひとりで何ができるってんだよぉ!」
チートは超大事。
お約束も守らない女神なんて許されないぜ。
女神は眉間にしわを寄せた。
「……あなた、タダで力をもらえるとか思ってる口ですか?」
「あいや、そのですね、できればいただきたいと……」
「チートスキルが欲しいのなら異世界レベルもその分だけ上がりますが?」
異世界レベル?
聞いたことがないけどあれか、難易度的なやつか。
高いほど強スキルが手に入るんならそれも悪くない。
「かまわんぜ!その代わり、神も殺せるようなスーパーチートをくれよな!!」
「あの、私も一応は神なんですが」
「オッケー。神殺しはちょっと調子のりすぎたわ」
はぁ、とため息を吐いて、女神は検索がどうのと呟き始める。
ギリシャ彫刻みたいな顔をしかめたのちに、女神は言った。
「ヒットです。しかし、えーと、ひーちさん。あなたの前世の魂レベルからすると、与えられるチートはミジンコなみになるのですけど構いませんでしょうか」
「えぇ……俺の魂レベル低すぎ……」
ミジンコなみは流石にひどすぎだろ。
俺って、悪人じゃないのだけが取り柄の平凡男子だったんですけど?
と、唸っていると、女神が口の端をゆがめた。
「冗談です。魂にそんな階位はありませんよ」
「アラ女神ちゃんたらお茶目ね」
「やっぱりミジンコでいいですか?」
「だめだめだめー!凄いチートじゃないとだめ!!」
俺はなんとかそう言うと、女神の手を握りしめる。
冷たい体温だ。脈も感じられない。
陶器とまではいかないが、死人くらいはある。
これが、神の肉体か。
思ったより……
「あの、いつまで握ってるんでしょうか」
「あ、悪い。ちょっとテンション上がってて」
思ったよりも柔らかい。
少なくとも人間と同じく、繊細ではあるようだ。
だが、臓器や脳みそはないかもしれない。
下手するとただの人形って可能性もある。
まぁすくなくとも、容姿は人形なみに可愛いしな。
大人びてはいるが大学生くらいの歳みたいだし、
日本の街中にいたらすぐにスカウトされるレベルだな。
「私の肉体について思いを巡らせるとは,やはりド変態ですか」
「でででっでえええ!?心のなか読めるんかい!!」
「読めますよ。表層思考なんて基本は垂れ流しですからね」
俺は心臓を抑えながら大げさに飛び上がった……、
「って、のも伝わってるわけ?」
「イエス。あなたは特に心を読みやすいです」
なるほど。つまりわざわざ口を動かさなくても適当に考えてりゃコミュニケーションができるってことか。ものぐさでコミュ障の俺からすりゃ最高の状況だ。
「ですがあなたの思考は少しうるさすぎますね」
「頭にチャックはつけられないから、心の耳を塞いでくれ」
ええと、それで?
俺に与えられるチートってどんなのがあるわけ?
「ありませんが??」
おっと。
「え、やっぱり俺の魂ってミジンコ級だったの」
「ノー。そうではなく、チートに形はないということです」
「ちょっと難しいな。よくわかんない」
「テンプレはありますが、基本的に私は、あらゆる力を授けられます」
あらゆる力……。
つまり、なんでも、ってことか?
え、それってヤバすぎね?
「もちろん制限はありますよ。強すぎる力にはそれなりの代償が伴います」
「でも代償さえあれば、事実上、無制限に力を得られると……」
「まぁそういう理解でも構いませんよ」
すっげー!女神すげー!!
となると問題は、どれくらいの代償がついてくるのか、だ。
なんでも斬れるソードスキル(ただし使うと死ぬ)みたいな感じだろうか。
「気になりますか」
「はいそりゃもちろん」
「では実演してみましょう」
女神はそう言うと、僕の頭に手を置いた。
「テストですので、お好きな力をお望みください」
「……えーと、じゃあ、神羅万象すべてのものにデコピンを当てられる力。相手がどんなに強い神様でも必中。ただし、ダメージはゼロ固定みたいな感じで」
「なんですかそれ」
女神は呆れた顔を見せるが、その右手はすでに光り輝いていた。
どうやら、ダメージゼロというのが代償として認められたらしい。
「イエス。事象介入能力が著しく低いスキルだと判断。たとえあなたの人差し指が神を捉えようとも、効果が皆無ならその効力はほとんどゼロだと見なされました」
ほう。
いいのか?
もしかしたらデコピンが好きな超ドМの神様だっているかもしれないぜ?
「そんなニッチな性癖の神格は知りません」
「へぇー。じゃあ女神さんは……俺のデコピン、どう?」
「チッ」
彼女は整った顔を一瞬で歪ませた。軽蔑の色がばっとあらわれて、俺は一瞬ではるか彼方まで吹き飛ばされる。やべぇ怒らせたか。と思いながら俺は、そっと人差し指に力を込めて、女神の額を意識しながら、弾いた。
その瞬間、俺の視界は歪む。
眼前にはなぜか、女神の美しい顔がある。
ぺちん。
小気味いい音とともにデコピンがヒットした。
「や、やっほー、女神さん」
「あの、あなた、なんのつもりですか」
吹き飛ばされたはずの俺の身体は、どういうわけだか、女神の真正面にあり、もちろん人差し指はシミひとつない彼女のデコにクリーンヒットしている。そこまで意識していなかったが、どうやらこの力は瞬間移動能力にもなるようだ。
「い、いやほら、契約の確認的な?ほんとうに神様にも効くような力になってるのか確かめてみた的な感じっつか、もしかして痛かったりしちゃった?」
「ノー。ただ単に屈辱的なだけですとも」
うわぁこれすごく怒ってるよ。
銀髪がなんかパチパチ鳴ってるもん。
雷?神罰?そういうアレなのか?
「勘違いしないでください。苛ついて勇者を殺したりはしません」
「それは安心したぜ……」
「ですが、楽な世界に行けるとは思わないことですね」
「うそうそうそうそ!ごめんごめん!!だってテストしなきゃでさ!?」
女神は俺の手を軽く払いのけると、頭に再び手を置いた。
そうすることで俺の身体から、なにかが抜けていく。
「はぁ。まぁいいでしょう。ひとまず『デコピンの力』は消しておきます。本番でも同じものを望むのは可能ですが、瞬間移動にも使うことができるなーんて副次効果もあったわけですし?今度は先ほどのような代償では与えられません」
「おいおい、代償の判断基準って女神さんの認識ひとつなのかよ」
「十分でしょう。わたしはあなた方よりは高位の存在なわけですし」
ナチュラルマウントだ。
俺みたいな三流営業マン相手なら仕方ないっちゃそうかもしれんがよ。
その心の声を読んだのか、女神は意地悪く微笑む。
「さて、では本番です」
「おっけー!そいつを待っていたぜ……!」
「ご自由にお望みください」
さぁてどんな力にするか。
馬鹿にされようとも、最強無敵絶対バリアみたいなチートとか、無限復活みたいなやつとか、極大魔力とか全属性キラーとか不可侵領域とか、想像を具現化する力とか、そういうクッソ中二病で夢があるやつがいいな。できるのかな。
「……」
おっと、女神さん無言を貫いちゃうやつね。
そのアルカイックスマイル怖いからやめて欲しいっす。
「てか、代償って俺が候補に挙げた段階で教えてくれるんだよね?無茶苦茶な能力を試しに言ってみたら、滅茶苦茶な代償もそのままに即決定とかないよね?」
そう訊くと、女神の口角がぐぐぐっと持ち上がっていく。
うわなんだこれ。怖い怖い怖い。
まるで悪魔がたましいを奪うときみたいな顔だ。
「あの……答えてくれません?」
「はぁー。ご懸念の必要はありません」
「つまり?」
「はぁーー。問題はないということです」
いや、そこ明言しないの詐欺師の手口なんですが!
「まったくうるさい勇者ですね。分かりました。あなたが挙げた候補に関しては、その代償を先んじて教えてあげましょう。それを元に選んでください」
「おーおー……やっぱり即決定のやつだったんじゃん……」
「はい、どうぞ聞かせてください?」
やっぱりこういう契約とかは怖ぇ。
てか、この人が女神っていう保証もよく考えたらねぇ。
悪魔って契約の穴を突くとか言うじゃん?
そこらへんどうなのよ?
「……」
「え、マジの大マジっすか?」
「女神ですよわたしは。契約の穴を突く女神です」
「うわー!正直!正直すぎてもうチートとかいらんくなってきました!」
「うふふふ。ではナシでいきましょう?」
いきません。
そんなことしたらどうなるかは大体見えてるからな。
「そうですか?あなた方には素晴らしい知識があるのでは?」
「あのなぁ、現代知識チートなんて夢物語だぜ。そりゃネジの発明とかフィラメントがどうとか、半導体とか知ってりゃそれなりに図面は書けるかもしれんよ?」
だが、役に立つのはそこまでだ。
「基礎が発展してない世界でそんなオーバーテクノロジーの図面書いても誰も作れないの!材料はその辺に転がってるわけじゃないんだから、資源を集めて、実用レベルの精度に高めて、しかも世界を変えるレベルにまで量産化……ってそんなことできるわけあるか!中世くらいに発展した異世界で、ぽっと出の素人がモノを造り出すとか絶対に無理!製造業舐めんな!アイデアだけじゃ何も作れんわ!!」
とある事情から、俺はこれについてかーなーり苛立ってしまう。
「賢明です。しかし異世界が中世ベースというのは偏見では?」
「現代文明なみの技術水準ならそれこそド素人のアイデアとかいらんでしょ!」
早口で唾を飛ばしながらまくし立てた俺に、女神がため息を吐く。
「おアツいようでなにより」
「なぁに。ここに来る前にちっとばかし、無茶な創作物ばっか読んでたもんでな」
「そうですか。でも興味ありませんのでさっさと話を進めますね?」
ひでぇ。
「さて。ナシが選択肢から消えました。次はあなたのチート候補を聞く番です」
「おっけぃ。ならまずは『空想の具現化』なんてどうだ」
「あまりにも抽象的すぎますが……検索にはヒット。『想像した事象を自由自在に現実化させることができる』。ふむ。いかにも人間が思いつきそうな力です」
「どうだ?できるのか?」
「制限と代償が必要ですね」
制限と代償。
制約と誓約みたいな感じか?
「それは分かりませんが、制限とは効果領域の話。代償とは代償現象のことです。前者は、その力がどこまで効果を及ぼすかを定め、後者は、その力を用いることでどんなデメリットが生じるかを定めます。これで存在影響力を調節します」
はひ。なんかわけの分からん造語が出てきたな。
効果領域って絶対領域の友だちみたいなやつか。
代償現象はあれだろ、チビがチビを馬鹿にしたらお互いにダメージを食らう。
……みたいな。
「違います」
「あ、すんません」
「『空想の具現化』を例にしましょう。この力の場合、代償を設けなければ『ただし一年に一度だけ、生命体ではない物体の具現化で、なおかつ大きさは拳大、転生後世界に存在する物体であり、単純物理法則で記述可能なモノを……』」
「あ、もういい、めんどくさい」
これは長くなりそうだ。
女神の棒読み説明にもいまいちやる気が感じられなかった。
しかし、意外にも女神は、この話を続けた。
「また、制限を取っ払いたい場合は代償を設けます。例えば、生命体を具現化できない制限をなくしたいときは『ただし同族の命を生贄とする』などとします。もちろん同様の代償設定は、制限事項を『ただし一度しか使えない』などにすることでも可能です。まぁこのあたりはフレキシブルなので、深く考えないことですね」
なんにせよ、『空想の具現化』は厳しそうってことだ。
相当に重たい代償をつけないと実用レベルのものは難しいだろう。
なんとなく、女神の匙加減ひとつっていう気もしなくはないが。
「よし、分かった。じゃあ次のチートを言っていいか?」
「どうぞどうぞ。巻いていきましょう」
「『どんな相手も支配できる能力』」
「いかにも子どもが考えそうな力ですね。これまた抽象的ですが、ヒットはしました。『知性を持つ対象の肉体および精神を思うがままに操作する』ですか……」
「子どもみたいなアイデアで悪かったな」
「私からすれば人間などみな子どものようなものですよ」
だそうだ。
となるとその年齢はいかばかりか……。
俺はちらりと女神の首元を見てみるが、年齢が見て取れるような皺はない。それどころかこの世のものとは思えない美しいうなじが目に入って、俺は心のなかで悶絶した。ぐふ。これが女神、人智を越えた美しさを持つというわけか。
ちなみに首には何もつけられていない。装飾品のようなものは全身のどこにも見当たらなかった。無防備っちゃ無防備にも見える。
女神が顔をしかめながら口を開く。
「さて変態さん。能力ですが、これまた制限と代償が厳しいものになりますね」
「変態はともかく、やっぱりそうか。神に効かそうとすれば、何が必要だ?」
「ダメージゼロのデコピンとは話が違います。事実上は不可能ですね。できるとすれば、『ただし0.0000001秒だけ』とか『自分が神の場合』とか……」
それはそれでロマンがあるけど、流石に実用性はなさそうだ。
俺はいさぎよく諦めることにした。
「おっけー無理だな。なら『相手にウソを吐かせない能力』はどうだ?」
女神は訝し気に眉根を寄せた。
「そんな能力要りますか?」
「いやぁ俺ってバカだからさ、たぶん異世界行ってもすーぐに人に騙されると思うんだよね。王様も現地神様も詐欺師も勇者も、正直、信じられないわけよ」
「そうですか。ではそれで組んでみますか」
女神はうーんと唸ったのち、輝きはじめた己の右手をじっくりと覗き込んだ。
「できました……が、制限がすこしだけ必要ですね」
「もっと厳しくていいぜぃ。どんな奴にでも効くようにしたいし」
「はぁ。ではその場合の制限を。えーと、『ただし相手とのギャンブルに勝利すること』なんかどうですか。代償は『勝負に負けた場合、能力が跳ね返る』とか」
「バッ!!やめろやめろ!そんなどっかにありそうな設定はいらん!!」
そういうギャンブルだのどうのこうのは面倒くさい。なにが面倒くさいって、宿屋の場所とか聞くのにもいちいちギャンブルしなきゃいけないわけで、そんなことをしていたら冒険は永遠に終わらない。とてもじゃないが、やってられんわ。
「そうは言われましてもパッとは思いつきませんね」
女神は小首をかしげて、片眉をあげた。
俺は仕方なく、いくつかの案を出してみることにした。
「オーソドックスに行こうぜ。制限は『人一人から引き出せる真実は5つだけ』・『相手の体に触れないと発動できない』・『知り得た情報を他人に向かって話すことはできない』の3つ。代償は『発動時に、対象のみならず自分自身も敵対行動が不能になること』・『発動するたびに寿命が5年減ること』。5年で足りなけりゃ10年でもいい。できるかどうかだけでいいから、試してみてくれ!」
女神の眼がすーっと細まる。
怖ぇ。もしかして俺、なんかまずいこと言っちゃった?
「あの……『触れないと』ってそれもしかして触れたい願望ですか?」
「あ、まぁそういうこともあるっちゃあるかもしれない」
「勇者ヒーチはやはり度し難いですね」
正直に答えてみたらやっぱり軽蔑された。
「で、どうなんだ。いけそうなのか?」
「まぁあなたの言葉通りに作ってみました。できなくはないですね。ただし、代償は攻撃不能や寿命5年じゃ無理です。もっと面白いものじゃないと駄目です」
「それ本気で言ってんですか……?」
「えぇ。『能力発動時にスキル名を口にすること』と『自分もウソが吐けなくなること』を提案します。それを受け入れるならわたしはオッケーですよ」
絶対にこいつ、俺を玩具としか思ってねぇな。
でもまぁ条件はそう悪くない。
もしも寿命20年とか言われたら本気で産廃能力になるところだった。
よし、この条件で受け入れるとしよう。
「分かった、不安要素はあるけど、それでやってみるかな!」
「こんな意味不明な能力の勇者は初めてですよ」
「そうか?真実って知りたくないか?」
「どうでしょうね。真実なんて人の数だけあると言うじゃないですか」
そう言いながら、女神は俺の頭にまたしても手を置く。
ぴかぴかーっとアホみたいに光が点滅して、
うむ。俺の身体に、たしかに何かが入ったようだ。
実験相手はいないが、まぁたぶんちゃんと機能するんだろう。
ぐへへ。これで召喚してきた奴の思惑をぜんぶ暴いてやるぜぇ。
まずは王様か、それとも美少女召喚士か……。
いやぁ、チート能力って夢が広がるなぁ!!
「女神さん、これ能力名は?」
「『
なんだそれダセェ。
俺はおもわず笑い出しそうになるが、なんとか堪える。
「分かった。それを言えば発動するんだよな」
「イエス。大声で唱えてください」
くぷぷと笑いながら女神が言う。
なんだやっぱり馬鹿にしてんだろ。
てかこの能力そんな中二なもんじゃねぇだろ。
もっとこう、中二的な力も欲しいな。
それこそ魔力が無限にある的な。
「なぁ。能力の併用ってできたりするのか?」
「可能不可能でいえば可能ですが、存在量が重くなりすぎる懸念があります」
「ならちょっと試してみてもいい?」
「はぁ。面倒ですがいいですよ」
指パッチンを構えていた女神は、本当にだるそうに手を降ろす。
まったく、めんどくさがりながらもやってくれるとか最高の女神さんだぜ。
俺はにこりと微笑むが、女神は見たくないとばかりに目を閉じた。
まったく、ツンデレ女神さんだぜ。
「黙ってくださらないと最低最悪の能力を入れますよ」
「すんません。お試しなんで、さっきのデコピンのをお願いしまっす」
「私に当てたら殺しますよ」
「またまたー。そんなことしないって」
「はぁ。先ほども言いましたが、デコピンの瞬間移動能力は強力ですから、代償として使用制限を設けます。『クールタイムに2日が必要』。どうですか?」
どうですかと言われても2日じゃ実験もできないでしょーが。
いやほんと、ただ試してみるだけですからね?
こんな力が使えると思う?間違いなく役に立たないからな?
心の声が通じたのか、それとも面倒だったのか、女神は頭を振った。
「まぁそれもそうですね。あなたも大して役に立たなさそうですし」
「分かってくれて嬉しいよ。さぁちょっとやってみてくれ」
「ちょっとしたお遊びだと思うことにしますよ」
微妙な侮辱をかましながら、女神は気だるげに俺の頭に手を置いた。
光り輝き、神の力が身体に入ってく……ってなんだこりゃ!
重い!身体がめちゃくちゃ重い!
そして苦しい。満腹のときに呑むビールくらい苦しい。
「ヤベェっす、これは動けん……」
「そうでしょう。それが存在量過多の状態です」
「確かに無理みが強い……」
「イエス。では能力を外しますね」
「頼む」
そう言って、女神が手を伸ばす。
ここだ。
その瞬間、
俺は人差し指を弾いた。
そして、同時に呟く。
「……『
俺の人差し指は女神の額を捉えており、それは確かに、触れている。
能力の発動条件を満たしている。
「はい?」
「能力は、発動した」
女神の顔がみるみるうちに凍り付いていく。
やっぱり怖ぇ。こいつ絶対に善良な神じゃねぇ。
ここまで来れたのは奇跡かもしれん。
つか油断するとマジで死ぬなこれ。
能力の反動で動けない俺と、そして女神。
この膠着状態は、きっとそう長くは続かない。
俺は、早口で言った。
「この状況は理解できるか?」
「イエス。とても不愉快です」
「おけ。じゃあ女神さんにひとつめの質問だ」
俺は右手人差し指を伸ばしたままで不敵に笑う。
このときを、ずっと待っていた。
俺は言った。
「三年前に死んだ弟、堂島翔一の消息について答えろ」
その名前を口にした瞬間。
女神の口が、耳まで裂けるように吊り上がった。
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