11. 容姿
無意識に躊躇した。人気者で自分の思ったことをちゃんと言えて、それでいて凜とした雰囲気を身に纏っていて。
でも、それとこれとはもう関係がないこと。私がそんな司波くんに話しかけちゃいけないなんてそういう次元の話じゃなくて、ただ落とし物を持ち主に返すだけなのに。私ってそんなこともできないの?
ああ、こんなことで葛藤するなんて世界で私だけなんじゃないかと思うくらい、私は私の人間性を疑ってしまう。道徳的なことができない私は、私がどんどん嫌いになっていく。だからこそ、ちゃんと彼の名前を呼んで、落とし物を返さないと。
「し、司波くんっ」
「おー爽詩!」
裏返った自分の声を聞いて、鍵をぎゅっと強く握ってしまった。ふつふつと膨大な恥ずかしさが湧き上がってくる。それなのに、私の勇気はいとも簡単に男性の明るい声に消されてしまった。
「洸真、あれ、何それ?」
「何って、次移動教室だから教科書、爽詩の分も持ってきてやったんだよ。感謝しろよ」
月城瀬那会長の弟、洸真くんは司波くんよりも身長が高くて、180センチはあると思う。
灰色のすっきりとした短めの髪で、ピアスの穴の数やその存在を示すかのような威圧感、荒い口調から、怖い人にしか見えなくて私はこの人も少し苦手。
そんな彼の声で私の声は消されたが、あろうことか、司波くんと話していた洸真くんの視線がなんとくなく、自然に、こちらへと向いて目が合ってしまった。
「あ?何見てんだよ」
びくりと体を震わせて。反射的に口元を両手で覆ったが「ひぃっ」なんてお化けでも見たかのような情けない声が漏れてしまった。
でも、それだけ洸真くんは怖かった。眉間に皺を寄せて、心底不愉快だという低い声。
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