5. 痛憤
はじめは皆、篠原さんと友達になりたがっていた。彼らに近づくために。けれど司波くん達は篠原さんのことを本当に大事にしているらしく、そういう女子たちを嫌った。そうして彼女をそういう女達から守った。
だから篠原さんは私と別世界の人なんだ。私が息をしている世界にはいない人。もっとすごいところにいる。あんな人たちに愛されて高校生活を送れるなんて、本当に凄いことだもん。
——そう、具体的に言うなら、こういうこと。
「おお、どうした生徒会長」
「先生、帰りのショートホームルームは終わりました?」
担任の先生が教室から出ようとした時だった。教室の扉の前には生徒会長——月城瀬那くんが立っていた。
「終わったけど、うちのクラスに何か用でもあるのか?」
ああ、嫌な予感しかしない。今すぐにでも席から立ち上がって勢いよく教室から飛び出してしまいたい。でもそんなことできるわけがない。生徒会長の身に纏うあの雰囲気。
「ええ、まあ。先生、今週は美化週間じゃないですか。教室をもっと綺麗にしてもらおうと声がけをしたいと思いまして。あ、もちろんこのクラスだけじゃないですよ」
完璧すぎるその笑顔にぞっとする。笑っているのに笑っていない。目が、とかじゃなくて、生徒会長自身が。怒ってる。薄い膜で真っ黒な憎悪のようなものが覆われているだけのような。
「おい、月城、」
「先生、いいですか?」
先生も私と同じようなものを感じたのか、怪訝な顔をして生徒会長の肩に触れようとしたがそれを会長はするりとかわして教卓を指差し、「いいですよね?」と有無を言わせなかった。
「先生、生徒達だけの方が話しやすいので。ね?」
ちらりと私たちの方を見た先生に生徒会長はそう言って先生の背中を押し、教室から出るよう促している。先生も生徒会長を信用しているのだろう。彼に限って変なことはしないだろうと、頷いた。
先生の直感は合っていると私は思う。でも日頃の優秀さのお陰で生徒会長を信用してしまうんだ。きっと生徒会長はこれから私達を潰す。
篠原さんに「言った方がいいよ」と言ったのは私だ。
けれど、こんな展開は予想していなかった。精々、いじめていた張本人たちが何かを言われるだけだとそう思っていた。でも、クラス全員がいる帰り際に現れた。それは、きっと意味があるに違いない。
帰りたい。この教室に姫はたった一人だけ。お姫様を守れるのは王子様だけ。
「帰る前に少しだけいいかな。時間はとらせない」
会長は教卓の前に立ち、そのまま黒板に軽く寄りかかった。伏し目になって、前髪が少し目にかかる。黒髪はさらさらとしていて綺麗だし、脚は長いし、腕を組むその姿は様になる。
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