2. 格差



きっと私は元から周りと馴染むのが不得意な人間なんだ、と悟った。だから波風を立てないように息を潜めて3年間を過ごそうと決意した。今はまだ2年のはじめだからあと2年間も学校生活がある。


 ゴミ捨て場にゴミ袋を投げ捨てるとボスンと音がした。

 正直、もう、疲れた。


 友達と楽しそうに話している人達や恋人達とすれ違うたびにとても羨ましくなって、惨めな気持ちが込み上げてくる。


 なんで、どうして、私だけ。私だけ、人との関係がうまくいかないの?私、何か悪いことした?


 ああ、私が地味だから?でもさ、隣のクラスの地味めで大人しそうな子には友達がいた。あ、そっか。こうやって卑屈に考えちゃう私だからきっと友達ができないんだ。しょうがない。


「あれ?波川さんじゃーん。今日も掃除当番?やっぱいじめられてんの?」


 階段を上っている途中で隣のクラスの中心的で調子の良い男子グループとすれ違ってしまった。何か言われるかもと警戒していたけど、案の定、言われてしまった。

 にやりと笑う男子達を視界に入れたくなくて、俯いて小さくなって、空気になれと呪文のように心の中で唱えながら足早に彼らから離れる。


 耳にこびりついて離れない、声。「波川さんて本当に暗いよな」、「ああいう人って生きてて楽しいんかね」、「おい、今度ゲームしようぜ。波川さんと恋愛するゲーム」。


 思わず、下唇を強く噛んでしまった。

 私だって、好きでこんな私になっているんじゃない。どうして隣のクラスの連中にまであんなことを言われて傷つけられなきゃいけないの?


「……あっ」


 俯いたまま教室に入ると、小さな声が聞こえてきた。もう誰もいないと思っていたから驚いて顔を上げる。


「波川さん、まだいたんだね」


「……あ、うん。ゴミ捨てをしてて」


「そっか」


 肩くらいの長さの黒髪を緩く巻いていて、ふんわりとした雰囲気が可愛らしい篠原しのはら かえでちゃん。


 顔で言えば中村さんの方が整っていて綺麗なモデル並みの顔立ちをしているけれど、篠原さんはなんていうか愛嬌がある。特に笑った顔がすごく可愛いと、一部の男子から評判のある女の子。


 篠原さんは自分の机を雑巾で一生懸命に拭いていた。


 窓の外には夕日が真っ赤な姿を現わして教室をあたたかい色に染めているのに、篠原さんの表情は沈んでいた。


 篠原さんの机には大きな字や小さな字で心無いことが書かれている。雑巾で何度も何度も擦っていた。


 私は直接的ないじめは受けていない。せいぜい陰口や当番を代わったり、少し面倒な役回りをやらされるだけ。本当に酷いのは篠原さんの方だ。


 篠原さんはクラスの女子にいじめられている。持ち物を隠されたり、ああやって机や教科書に悪口を書かれたり、大きな声で悪口を言われていることもある。

 私は篠原さんに比べれば全然マシな方だった。


「えっ、波川さん大丈夫だよ。クラスの誰かに見られたら波川さんも何かされちゃうかもしれない」


 私も雑巾を持って篠原さんの机を拭き始める。彼女の言葉に首を振って、擦った。


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