その舞台裏、世界の隅っこ
葉月 望未
1 脇役Mを主人公に
1. 主人公
私はよく、思う。
私の人生はちゃんとあるけれど、決して何かの主人公にはなれない人間なのだ、と。
どこにでもよくいる人間は脇役にしかなれない。多分、きっと。
「
放課後、帰ろうとした途端、これだ。
帰りのショートホームルームの時から中村さんは私をちらちらと見てきていた。嫌な予感がして、すぐに帰ろうとしたのに動きが早いことやら。
「うん、わかった」
私は肩に掛けていたスクールバックを机の上に置いて、へらりと笑う。
中村さん——ツインテールの可愛らしい女の子はにっこりと笑って、けれどその中に申し訳ないという絶妙な表情をつくりだしながら「ありがとね!」と甘くて高い声を出した。
そして、短いスカートを微かに揺らして、中村さんは友達のところまで小走りをして「代わってもらえたよ」と私の前で笑ったよりも何倍も可愛らしい笑顔を浮かべてそう言っていた。
どうせ波川さんは暇なんだし、いいんだよ。桃子の方が忙しいんだし、それにああいう子は掃除とか好きでしょ、どうせ。
——なあんて、中村さんと仲がいい友達の声も聞こえてきた。
ふうと息を吐き出して、酷い言い様だなと思った。今月で何回目の「掃除代わって」だろう。中村さんだけじゃない。他の子も私に頼んでくる。断れればいいんだけど、断ればもっと酷いことを言われたりされたりしそうで怖い。だから、私はへらへらと笑って頷いている。全ては自分の身を守るため。
最初こそ他のクラスメイトは「ちゃんと嫌って言った方がいいよ」と私に言っていたけれど、中村さんたちに何かを言うなんて選択肢は私の中で存在していなかった。
その子たちにはお礼を言って、「でも好きでやっていることだから」なんて言って濁した。その子たちも中村さんたちには強く出れない。クラスの権力差があるのを、その子たちも重々承知していたから。
やがてはその子たちも私のことを悪く言うようになってしまった。
「波川さんて中村さんたちに気に入られたいだけだよね」、「ていうか見た目地味じゃない?」——これだって私が上手く立ちまわれないせい。しょうがない。
「じゃあ、あとよろしくね」
「うん」
頷いた私の手にはゴミ袋が二つ。一つくらい持ってくれてもいいのにな、と思いつつ他の掃除当番の子たちを見送る。
あーあ。高校生ってもっと楽しいことがいっぱいあると思っていたのにな。
「よいしょ」
一人の教室でわざと声を出し、ゴミ袋を持ち上げる。ゴミ捨て場まで持っていかないと。中学生はやっぱり友達関係が酷くて辛くて、これは中学生の精神的な面の成長途中だから仕方のないことだとずっと思ってきた。
だから尚更、高校という中学よりも自由が広がる場所への憧れが強く、楽しい学校生活が待っていると信じて疑わなかった。
けれど、何も変わらなかった。
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