第3話 希望にはなれませんが


「あ? なんだテメェは?」


  よくもまぁこんな酷いことをできるもんだ。また、ここでも一人死んでる。そしてもし、俺がここに来るのが少しでも遅かったらルージュまで……。


「一応念のため聞くがこれやったのお前か?」


「どう見だって俺だろが。猿が見たってわかるぜ?」


……何かが欠損してる。人を殺しても顔色一つ変えない。どころか笑ってやがるよ冷たい目で。


「重ねて一応。心は痛まなかったのか?」


「痛まねぇよ。つか、バカですか? 見ろよこの右手。テメェの頭ブッ飛ばせる魔法があるぜ? いつでも発動できーー」


ドゴォ!


  俺はこいつを殴り飛ばした。理由は単純。こいつがあまりにも理解できないから。そして、俺は単純にこいつが許せなかったから。


  殴った方向に10メートルほど吹っ飛んでいった。今日は体が軽いし、いつもよりスムーズに体が動く。身体強化は使えないはずなのに、かかってるみたいだ。


「ぐは! 中々いい拳持ってんじゃんかよ」(こいつ、俺の動体視力で捉えられなかった。なんてスピードのパンチだ。防御張らなきゃ、落ちてたぞ)


  頑丈なやつだ。なら、とことんやってやる!


「ゲス野郎……俺はたとえ、お前に殺されても必ずお前を逃がさない。絶対お前に償わせてやるぞ」


「へっ、いかにもやられ役のセリフだな。臭せぇ臭せぇ」


「言ってろ。中級魔法<烈火弾>」


  無数の火の玉を放出する魔法。今日は魔力の調子がいいせいか、いつもならソフトボールサイズだが、今日は大玉サイズだ。


「へぇ、中級魔法にしては良い威力だ。魔力が良くこもってるな。だが、所詮それだけだ。工夫もクソもねぇ素人の攻撃だ。<対魔壁>」


やつの前に、大きな魔力の壁ができ俺の攻撃は全て消された。

まずいな、俺の用いる最強の魔法はあれなのに。


「ん? おいおい、もうネタ切れか? 固有魔法はねぇのかよ? つかまんねぇ、ショーにはしたくねぇんだ。もうちっと、足掻いてくれよ」


 よし、いいぞこいつは俺を舐めてる。それが、最大の狙いだ。俺の目的は、こいつを倒すことじゃない……


「これならどうだ! 中級魔法<テレポーテーション>×45>


「は?」


「ちょ!? ライヤーー」


シュン!


転移魔法で、この場にいる全員を安全な場所にテレポート。これが、俺の狙いだ。


「は? は? は? はぁぁ!!! 何やってくれちゃってんだテメェは!」


怒ってんのんか? はっ! いい気味だ。だが、もうこいつは終わりだ。人質がいない今、どうあがいてもこいつは、勇者や王族、魔導師長に殺される。


「へっ、お前は終わりだ」


「あぁ、テメェの命もな。<デス・レイガン>」


黒い光線が、俺の頭にめがけて発射。当たれば死ーーーーぬーーあーーれ?ーー視界がーー







ーー???





ん? この黒い空間は? どこだ? なんだこれは? いや、それよりあいつは? あいつはどこ行った?


『そこな小僧。誰を探している?』


あいつだよ。あの大量殺人鬼のイカれ野郎。


『そいつをどうしたい? その先に何を望む』


そりゃ、ぶっ倒してやりてぇ。その先はルージュが無事ならそれでいい。


『ほう? では、勝てる力があればいいのか?』


そりゃ、まぁ。ん? てか、お前誰だよ?


『その愚問答えてやろう。俺は、遥か太古より封印されし魔王。魔王サタニフォルだ』


魔王?


『そう、魔王だ。時に小僧、力がいるのだろう? ならば俺と契約しろ』


契約? どんな?


『俺と契約し、この体に俺を住まわせろ』


 ん? お前魔王なんだろ? 人間の体なんて借りる意味はあるのか?


『大いにある。俺は長い長い封印により、全盛期の力の0.0001割も出せないようになった。ここまで、弱ると肉体を生成することも維持することもできん。よって、俺は生きる肉体に入り込む以外では現世に滞在できない」


へぇ、大変だなぁ。具体的にはどんな感じになるんだ?


『俺とお前の魂を結びつける。そうする事によりこの体は二人で1つの共有体になる。言っておくが俺だけが特な訳ではないぞ? 俺はお前に力を貸す。その時にお前の周りには危害は加えない。で、お前は俺に体を貸す。winwinだろ?』


 どーもきな臭いな。その契約じゃお互いにリスクが無さすぎる。


『意外と鋭いな。そう、お前が俺と交代して、力を使うたびに、この俺自身の魔力や力が全盛へ戻っていく。つまり、力を使うたび俺は全盛期に戻っていくということだ』


  そして、完全に力が戻ると、古代の最低最悪の魔王が復活。もちろん元に戻れば俺はポイ捨て。そして、お前は世界を滅ぼす。だろ? バカかよ。誰が、契約なんてするか。


『だが、しなければ妹は死ぬぞ?』


  あの状態で俺が死んでも勇者や誰かしらが奴を倒してくれるだろ。


『無理だな。やつの固有魔法、俺の魔眼で見てたが中々の代物だったぞ。<魔法召喚>つまりどんな魔法も呼び出せる便利な代物。後からしか動けん奴らなどいくらでも撒ける。その上、お前の妹や他の生徒を狙っての犯行を考えると、また狙われるかもな』


  つまり、ここで殺さなきゃならない。そして、妹か世界を選べ。そういうことかよ。


『どうする?』


  決まってる。契約する。


『即答か。いいな。嫌いじゃない。妹のために世界を犠牲にするか。傲慢かつ愚かな男よ』


  いいさ。ただ妹は俺にとって世界よりも大切だ。守るって約束したんだよ。あのジジイと。


『ふむ、では早速始めるとしよう』ニッ


待て、最後に1つ。お前は、なんで俺を選んだ。



『勘違いするな単なる偶然だ。が、お前は少し珍しい。今まで、あの部屋にたどり着いたものには、もれなく全員乗り移ったのだが、全員俺の存在に耐え切れず死んだ。が、お前は……まぁ、詳しいことは今わからん』


  そうか、長い付き合いにはしたくないが、よろしく頼むぜ魔王とやら。



『生意気だな小僧。イマイチ好かんが、ここにて契約成立とする』


♢♦︎♢


ドーン!!!!



 大きな地鳴りと共に俺は姿を現わせる。


「なんだ? 俺の魔法が消えた? 死の呪いだぞどうやった!?」


「ふん、あの程度の魔法を消すなぞ僅かに残った程度の力でも十分すぎる」


  この小僧。確かに並よりは強いな。この小僧が敵わんわけだ。


「なんだ? お前? 何者だ。気配がさっきまでとまるで違う。魔力量の跳ね上がり方も半端じゃねぇ! テメェ別人だろ! 誰だ!」


「俺か? よく聞け、下郎よ。俺の名は魔王サタニフォル」ニッ













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