第2話 クズ


 ーー時を遡ること5時間前。


「今朝の態度……ライヤ怒ったかな」


 でも、私の気持ちもわかって欲しい。いつも、自分を大切にしないあの姿勢は少し見てて怖い節がある。


「どうしたの、ルージュ。お兄さんと喧嘩でもしたの?」


 アイ・シリア。昔から家が近くてよく遊んだ幼馴染。悩みの相談を聞いたり聞いてもらったりの良き友人だ。


「アイ……別に喧嘩ってほどでもないんだ。ちょっと、思う所があるだけっていうか……」


「思う所? そんなのあるの? あのお兄さん! 料理はできるし、家事もできる。何より、あんたをものすごく大切にしてる。とってもいいお兄さんじゃない!」


 たしかに、ライヤは周りから見れば完璧と言わざるおえない。なんでもできるし多才だし、私よりもよっぽど有能だ。


「だからこそなのかな? 私がそんな兄に甘えてばかり。だから、ライヤは自分を犠牲にするところがある。自分より他人の為にばかりに力を入れてしまってる。そんな姿が、なんだか痛々しいというか……辛そうに見えるの……」


「そういうもんなの? 私はお兄ちゃんいないしよく分からないけど、別にいいと思うわよ? 妹がお兄ちゃんに甘えるのなんて何も悪いことじゃないわ」


 いや、私は甘えすぎだ。私は、洗濯も出来ないし、料理もできない。

 全部ライヤがやってくれる。ライヤは毎日、仕事をして疲れてるのに、嫌な顔1つしないで笑顔でなんでもしてくれる。なのに私は、何にも返せない駄目な妹だ。



 私なんかより、ライヤの方がすごいんだ。私なんて、ちょっと魔力の多いくらいだ。ライヤの方がずっとずっとすごいのに……


「はーい、授業を始めるぞ」


 考え込んでると、授業が開始されていた。重いな私は。


 ーー5時間目 実技。


 魔法実技。これは、通常魔法のみで的をどれだけ破壊できるか魔法の精密さ、威力、熟練度を図る時間。



「よーし、じゃあ手始めにルージュ・ソウル。お前からだ。みんなにお手本程度に、見せてやれ」



「はい」


 はぁ、お手本……ね。


「火よ舞え。上級魔法<焼炎拡散舞い>(しょうえんかくさんまい)」


 体育館に、大津波のように大きい炎が出現し、的に当たるというよりは飲み込む形で的を捉える。


 的は、炭になり跡形もなく消え去る。

 防御の付与はかけてあっても上級魔法には耐えれない。


「えっと、こんな感じでどうでしょうか?」


「うむ……上出来だ。流石、ルージュ・ソウル。お前なら高等部に行っても抜きん出て優秀だろう。二年生にだって引けを取らんかもな! 魔力の少ない兄とは大違いだ。がっははは!」


 何が、がっはははだ! ライヤのことなんて何一つとして知らないくせに。


「失礼します」


「ああ、よし次」


 ーー30分後


「よし、全員終わったな」


「おいおい嫌だなセンセェ! 俺がまだっすよォ〜」


 あれ? 見たことない顔……クラスの人の顔は全て把握してるはずなんだけど。


「む? おかしいな? 君名前は?」


「俺? 名前はァ、教えねぇよ。<ショックバインド>」


 ドーン!!!!


 魔法が放たれた。それも、通常魔法ではない。衝撃波のような見えない固有魔法が先生に直撃。……そして、先生は肉塊へと姿を変えた。


 衝撃波は止まらず、防御付与、防音付与のかかった壁をたやすく突破し破壊した。

 その光景に、私や他の生徒も理解が追いつかなかった。


「え……?」


「き、きゃぁ!!!」

「なんだよこれ!」

「助けて!」

「嫌だ!」


 いろんな声が聞こえる。助けを呼ぶ声、ただただ怖くて叫ぶ声等色々な声が。正直、私も叫びたかったが声が出なかった。


「お、おれは逃げる!!!!」


 そう言い、一人の男子が体育館から逃げだそうとした。


「おいおい、逃げ出すこたァねェだろ? 喚くくらいなら見過ごしてやるが、それは見過ごせねェな。<貫衝波>」


 一本の、光の矢が逃げ出した男の子の心臓を貫通した。が、威力が止まらず、吹き飛ばされ続け向こう側の階段まで吹き飛ばされていいった。


「はーい、お前らもそろそろ黙れェ? でないと、あーなるぞ? おっと、俺と戦おうなんて思うな。少しでも魔力を感知したら……賢いお前達ならわかるよな?」


 その目は、まさしく殺人鬼の目だった。私はその目つきに耐えられず、震え怯えた。


「よし、いい目だ。はははっ! しかし、笑えるよな? 奪った制服を着て学校に入ってもバレねェし、ここにくる途中、中の先公ども殺したって気づかないんだぜ? 無能を集めた奴しかいねえってのがバレバレ」


 吹き飛ばした、先生の血がべっとり付いている顔をこちらに向けながら高笑いをしている。ここにいる全生徒が、恐怖と絶望に飲まれていた。


「……下が騒がしいな。お前らの親かァ? 爆発が心配で見に来たらしいぜ」


 それを聞き、一人の生徒が謎の男に話しかける。


「あ、あの両親は心配性で多分来てます。だから、そのこ、殺したりはしないでください……お願いします」


「……うんうん。分かる分かる! 親は大切だよなァ? 殺して欲しくはねぇよな。わかるわかるよ」


 そう言い、謎の男は話を振った男子の肩に手を乗せた。


「だがよォ、俺としても計画果たすために下にいる連中は……邪魔なわけ。って事でェ……殺すわ。<デスハート>」


 デスハートそう唱え、謎の男は空を握りつぶす動作をした。途端、下にある保護者達の声は消えた。


「な、何をしたんだ? 何……したんだよ……」


「あー? 名前で察しろよ。下にいる連中の心臓を潰したんだよ。結果、死んだ」ニタァ


 嘘でしょ? 殺したの? 信じられない……なんて外道。人間の……人としての何かが欠落している。


「母ちゃん! うわぁぁ!!!」


 話を振った生徒が、怒りをあらわにし謎の男に殴りかかった。まずい、きっとまた殺さーー


 ぶしゃ!!!


 嫌な音をたて、人の形も留めない状態になった生徒の肉塊がそこにあった。



 私は、内から恐怖が消え、敵意のみが心から込み上がった。それを、アイは読み取ったのか小声で私に話しかける。


「ダメ……いくらあなたでも、あの化け物は……無理。やめてお願い……あなたは死なないで」


 この時のアイは泣いていた。だから私はこう言えたんだろう。


「私が少しでも、時間を稼ぐ。だから、逃げて」ニッ


「そんな! ダ「君! そうそこの君よ! 人殺し! よく……よくこんな事が出来るね」


「へぇ、威勢がいいのがいるな。ちょうどいい、逆らったらどうなるかの見せしめだ。<対魔式貫通レーザー> 」


 謎の男の、右手に大きなエネルギーの塊が溜まっていく。


「へっ! この攻撃は魔法で防げないぜ?」


「や、やるなら、やりなよ!」


 ごめんね。お兄ちゃん。結局私は、何も恩返しができなかった。私がいなくなったら、今度は自分のために生きてね。


「さーて、魔力充電完了」


 これでいいの……これで。お兄ちゃん、泣いてくれるかな? アイは泣くだろうな。はぁ、お兄ちゃん……




やっぱり……やっぱり死にたくないや……ごめん助けてお兄ちゃん!



 ドン! ドアを突き破る音が聞こえた。



「あ?」


「ルージュ!!!!」


 なんで……なんで! こんな所に来たら殺されてしまうのに! なのになんで……なんで私は心の底から安心してしまってるの? やっぱり……ダメなんだな私は。



「お兄ちゃん……ごめん助けて」


「ああ……任しとけ」


「あ? なんだテメェは?」













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