第1話 村人ですがなにか?
よぉ、俺の名前はライヤ・ソウル。見た目は地味な村人A。中身は多才なナイスガイだ。自己紹介の通り、俺は村のみんなからの信用は熱く、親しみを込めて器用貧乏や便利屋(笑)と親しまれている。
あ、そうそう突然だが、みんな魔法って知ってるか? この世界では誰でも使えるとっても便利な力の事だ。魔力を媒体として扱う魔法は、この世界の物事の中心にあると言ってもいい。中でも、固有魔法という、個人が特有で生まれながらに所持する自分だけの魔法があり、これがどれだけ強いかで人生の勝敗は決するほど。これが使用できるようになるのは、個人差はあるが大体15歳辺りからだと言われている。
俺の魔法? あー、俺は固有魔法ないし、使える通常魔法は下級魔法とか中級くらい。
でも、ほら俺は商売上手だし。
とにかく、俺は魔法をとっても器用に生きれるって事だ。
「お兄ちゃんいってきます!」
そして、言い忘れていたが俺には妹がいる。姓はソウル、名はルージュだ。血は繋がってないが俺たちは生まれた時から一緒だったらしい。まぁ、血が繋がってないのもよく理解できる。ルージュは、俺と違い魔法の才能に長けていて、魔力にも愛されてる。その上、有名な魔法学校中等部にも余裕の合格……ま、まぁ比べると劣等感は出るが妬ましくはないぞ。自慢の妹だからな。
「おう、いってらっしゃい。寄り道せずまっすぐ行けよー」
「お兄ちゃんも、あんまり働きすぎて無理しないでね……何個も仕事掛け持ちしてるでしょ?」
俺の心配をしてくれるのは嬉しいが……あまり気を使われるのも心地が良くない。こいつには何も心配せず健やかに育ってほしい。
「……無理なんてしてないさ。家にずっといても暇だから働いてるだけ。俺の暇つぶしだよ。ほら、俺の事なんて気にしないで早く行けよ。遅刻するぞ」
「……うん!わかった。行ってきます」
はぁ、まだなーんか言いたげだったよなぁ……。機嫌悪くさせちまったよな多分。あいつがこうゆうの気にするのはわかるけど、こればっかりは分かってもらうしかねぇわな。気持ちは嬉しいけど。
「そんじゃ、俺も仕事……行くか」
♢♦︎♢
「おせぇよ馬鹿野郎! 遅刻だ」
「いや、間に合ってるよむしろ5分早い」
この朝から酒臭いオッサンは俺の仕事を提供してくれる……まぁ、上司? みたいな人だ。ひとえに言うと、仕事を見つけてくる……あー、うーんと、仕事見つけ屋? みたいな感じだ。
「口答えすんじゃねぇよ……ヒック! それよりほら、仕事だ。今日のはちょっと遠出だが、早く終われば1日で帰ってこれるぜ」
「げっ! 隣町かよぉ。あそこ街の中心都市だろ? しかも、掃除の依頼でなんでこんな不気味な城なんだよ」
「何いってやがる、掃除するだけで15金貨も貰えるんだ。優良物件じゃねェか。ま、ここで仕事して、行方不明になってるやつが多々いるらしいが……」
「ん? なんか言ったか?」
こいつ、今とんでもない事口走らなかったか?
「何も言ってねぇさ。それより早くいけ。転移魔法装置で隣町にセットしておいてやったからよ?」
嫌な予感が俺の頭に浮かんだが、15金貨と聞けば俺も多少の危険は惜しむ。こいつに恐らくは、2金貨ほどは取られるだろうがそれでも万々歳だ。隣町? 古城? どんなとこでもこなしてやるさ。
「しゃあねぇ、じゃちょっくら行ってくるわ」
♢♦︎♢
転移魔法ですぐに隣町までついた……が、やはりここはでかいなぁ。辺りを見回すと、大きな建物や教会、俺の妹の行っている中等部の魔法学校もある。
「げ、やっぱ広いなこの街は。ずいぶんと人間が溢れかえっちゃって……あーやだやだ」
つべこべ文句言いつつも、俺はスタコラと目的の城へ向かった。
◆◇◆
ーー城は一応見つけたが……他の建物と比べて明らかにクソボロく汚い。だが、大きさは他のに比べても一際大きい。やりがいはあるが少し時間がかかるなこれは。てかうん、騙されてるな。1日で終わる案件じゃないぞこれ。
「たく、こんな物騒でボロい城とっとと潰せばいいのにな。なんたって、掃除するまで大事にとってんだ?」
文句を言いつつも古城へと入り、少し奥へ進むと、赤く少し魔力の残影が残った扉があった。不思議と体が吸い寄せられる感じがした。だが、それは決して心地の良いものではない。
「なんだ、この扉?」
気づけば手が扉に向かっていた。意識はほとんどなく、無意識にあけていたのかもしれない。扉の前に立ち、ついに俺は扉を開いた。刹那、魔物……いや、かの魔族でさえも抗えないほどの強い吸引力がドアの向こう側に発生していた。勿論、人間である俺など抗う術もなく、扉の奥へ奥へと流されていった。
「うわぁぁ!!!!」
吸い込まれた先には、大きな柱が周りに突き刺すように立っており、周りの壁や床は、全て真っ白な魔石で出来上がったなんとも形容し難い空間が広がっていた。
地面には、レッドカーペットが敷いてあり、その先には大きな玉座のようなものがそこに立っている。年季は入ってるがとても立派だ。
「椅子? いや、玉座か? 昔、魔王でも座ってたのか?」
少し、興味が湧く。いや、玉座だよ? あったら座りたくもなる。
「誰もいないよな? ちょっとだけ座ってみたり」
もちろん座った。その刹那、頭に見たことも無いビジョン? 記憶? が頭に大量に流れ込む。なんだ! 封印? 勇者? 憎い? 痛い! 頭が!
「な、なんだ! ぐわぁ!!」
『う……器、……こせ! 目覚め……? 俺は、……魔』
体に何か入ってくる感触があった。物質ではなく、何か精神的な心に何か入り込むような。その度に体に激痛が流れ込む。
「がっ! んだよぉ……なんだよこれぇ!」
そして、俺は激痛に耐えられず気を失った……。
♢♦︎♢
どれくらい時間が経ったのだろう。わからない。が、とりあえず意識が戻ったらしい。
そして何故、寝ていたのかも思い出せない。なんだか、嫌な夢を見ていた気がするが。酷い頭痛も残っているし。
「あれ? てかなんで俺家にいるんだ?」
おかしい、誰かが運んでくれたのか? いや、あんな廃墟誰も来ない筈だ。
ふつうに考えておかしい。薄気味悪いゴミ屋敷に、わざわざ入るやつなんていないだろう。
『誰の家が廃墟だ』
「誰だ? 誰かいるのか? 」
シーン
おかしい。たしかに声がしたんだが。気のせいか?
「って、掃除だ! 城の掃除! まだ全然やってないぞ!」
まずい! どうしよう! とりあえずあの酒飲み野郎の所に行かないと!
♢♦︎♢
とにかく怒られることを前提に事情を話し、もう一回送ってもらうことにした。はぁ、話すと怒るだろうな。
「おーい、飲んだくれ〜いるか?」
「その呼び方やめろ。仕事ご苦労さん。ほら、報酬。依頼人褒めてたぜ。結構、綺麗になったって。ただまぁ、ずいぶんと態度が悪い奴だとも言ってたな」
何を言ってるんだ? 俺は寝てただけで掃除なんてしてないぞ?
「え? いや、俺やってないぞ?」
「ん?どういう事だ」
とりあえず、俺は俺の記憶の限りをこのオッサンことサイ・ラガンに全て伝えた。
「はぁ? 寝てただけ? いやいやでも、城は綺麗になってる。周りの人達が見違えるほどにな。オメェがやってるのを見たらしいしよ。内装どころか外装も綺麗なってるらしい。自慢顔のお前がいつ報酬取りに来るか待ってたぐらいただぜ?」
そんなばかな! 俺は確かに気を失ってたはずだ……。なんで、気を失ったかは覚えてねぇが。
「まぁ、細い事はともかく報酬は受け取れ。俺はこの後忙しいんだ。とっとと帰ってくれ」
なんだか、歯がゆいがまぁいい。楽して金が入った。そう考えよう。ポジティブに考えればいいんだ何事も。
「オーケー。帰るよ。あんたも酒の飲み過ぎには注意しろよ、そろそろ人の顔が3つに見えてくる頃だろ」
「んだと! 夢遊病のテメェに言われたくねぇ!」
怒ってるな。酒飲みのくせにプライドが高いからな。このおっさんもいつまで独り身なのか……髭面で不潔感はあるが、それさえなけりゃまだ可能性もあるだろうに。例えるなら、クリームの腐ったケーキ。
「まぁ、怒らないで、また仕事頼むよ」
「ふん! まぁ、気をつけて帰れよ」
♢♦︎♢
うーん、予想以上に時間が余った。体も特に異常はないし。むしろ、身体が軽い。魂でも抜けたかのように。魔力もいつもより有り余ってるな。今日、調子いいのか?
て、それよりどうしよう。帰ってもする事ないし……今日ルージュの機嫌損ねたまったし、ルージュの学校終わりを見計らって一緒に帰るか。ウザがられるかもしれねぇが。
だがまぁ、報酬も入ったし、飯でも食べに行けば機嫌も治ってくれるだろう。
ルージュの学校が終わるのが、後1時間後ぐらいだし、それまで、カフェでも行って時間潰すか。
よし、この辺りのカフェはーー
ドカーーーン!!!!
鋭く、重い爆発音が街中に響き渡る。
っておい、まさか爆発したのって……
「まさか、爆発の方向は、ルージュのいる中等部の校舎の方……ル、ルージュ!!!」
俺は走った。自分が行ってどうこうできるとは思ってなかったがそれでも走った。頭にあるのはルージュの事だけだ。
ひたすら走り、東魔法学院中等部へとたどり着いた。
学校の門前には、倒れた警備兵と血まみれの一般人が地面に横たわっていた。
おそらく一般人は子供達を助けに来ようとした保護者達だ。それが無残にも、殺されていた。俺は、あまりの光景に嘔吐した。
「あ……あ。うっ! おぇぇ!」
目の前の光景を一言で言うならまさに地獄絵図だ。あまりにも酷すぎる。
「な、なんだよ……これ……。ひでぇ」
俺は頭が真っ白になり恐怖だけが体にびっしりとこびれついた。
足はすくみ、声は震え、体は……動かない。ひとえにこれを恐怖と呼ぶのだろう。
正常に働かなかった頭に、妹の顔が浮かび上がった。刹那、俺の恐怖は一旦どこかにしまわれた。
そうだ……俺が怖いなら、あいつはもっと今頃震えてる。俺が……俺が助けなきゃ。
足がすくむなら、足をへし折ってでも動け。声が震えるなら、唇を噛みきれ。体が動かないなら、死んででも動け!
そう自分に言い聞かせ、俺は門をくぐり学校へと入った。
ーー学校内
中に入ると、靴箱が真っ先にある。まぁ、どこの学校でもそうだ。
が、ここからが違う。靴箱の……言えば学校の入り口ですでに死体が転がってる。恐らく教師だ。2名の若い女性に、1名の中年の男。
無残にも、焼き殺された死体だ。炎系統の魔法にやれたのだろう。
連続して、見る遺体に俺はまた嘔吐を我慢できなかった。
「うっ……な、なんなんだよ……なんでこんな。酷い事!」
俺は遺体に手を合わせ先に進んだ。階段を登り上に進むと、また死体が転がってる。今度は、生徒だ。中等部の学生だ。 まだ……まだ、未来のある若人に……。
怒りを胸に込めた。込み上がる思いは妹のためだけでなく殺された人たちの思いもある。
よし、今日は調子がいいんだ。魔法を使用しても目眩はしないだろ。
「よし! 中級魔法<悪意感知>」
悪意感知。悪意を抱いてるものを感知しどこにいるかを割り当てる魔法。
よし、捉えた。なるほど、二階。つまり、この階の体育館にいる。
「もういっちょ、中級魔法<魔力感知>」
これで、ルージュの魔力を検索する。
結果は、最悪だ。殺人犯と同じ体育館。ほぼ全員の生徒が体育館に監禁されてる感じか。急がないと!
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