相棒は魔王ですが何か問題でも?

ラガーさん

プロローグ


 これは、この先に起こる物語より遥か昔。魔族と人間が、まだ戦争をしていた時代のお話。



 ***



 〜〜魔王城最上層〜〜




 神でさえも目眩のするような魔力を纏い、世界すらも超越した魔王の前に一人、凛々しくも弱々しく立ち塞がる青年がいた。

 連戦続きか、ボロボロでそよ風にさえ飛ばされそうなほど弱っている。だが、未だ闘志だけは消えておらず、じっと鋭く魔王をにらんでいる。いつでも喉笛をかっきらんとばかりに。



「さて、やっと2人で喋れるな魔王よ。どこに行くのが望みだ? 地獄か? それとも無か?」


 この問いに、ゆっくりと玉座から立ち上がり勇者に近づき答える。


「どちらも生温いな。ところで、俺の幹部や部下は、とっくにその地獄とやらに行っているのか?」


「さあな。悪いことしてるなら行ったかもーー」ドゴォ



 ドゴォ! と鋭く重い重音が魔王城に響き渡る。勇者の言葉を聞いた瞬間、魔王の拳が勇者に当たっていた。

 勇者は吹き飛ばされ、壁に激突し壁に大穴が空いた。


 手練れの賢者や剣士でも今のは即死だろう。だが、そこは勇者なのか血などは吐いたりはするが、生きている。


「がっは! はぁはぁ、なんだ……情けか。それとも弱ったのか? 固有魔法はおろか拳に魔力すらこもってない」


 それを聞きニヤリと笑いながら魔王は勇者に答える。


「いやなに、俺の周りを飛び回るだけの小蝿を、わざわざ魔力など使って殺す必要などあるまい。今のは部下をやられた腹いせだ。それに、魔法を使えないほど弱ってるのは貴様の方ではないのか?」


 それを聞くと勇者は、突然大声で笑い出した。魔王は錯乱したのかと頭を傾げた。



「あっはははは! 確かにそうだ! 今の俺は、もはや固有魔法すら発動できないほど弱ってる。お前に勝てるわけもないよな」


「なんだ? 己の無力さを理解して、何もできぬという己の嫌悪感故に狂ったか?」


「違うよ。覚悟ができた」ニヤ


「諦めて消える覚悟か?」


 その問いに、勇者は笑顔で答えた。


「俺の命に代えても、お前を封じる覚悟だ!」


「何⁉︎」


「時間稼ぎは終わりだ。魔力の放出も充分。あとは、俺の全生命力でお前を封じる」


 それを聞き魔王は焦りをあらわにする。それと同時に、魔王のすぐ下に赤くそして黒い禍々しい魔法陣が出現する。


(馬鹿な! これは、人間が使うにはあまりにも……おのれ!)


「貴様ぁ!!」


「あばよ! 未来で俺の子孫に喰われちまえよアホ魔王!」ニッ

 <禁忌魔法・監全生命封>


 発動と共に勇者の体は砂になり風とともに散っていった。と同時に魔王は魔法陣の中に沈んで行く。


「お、おのれ! 勇者ぁぁ!! これで終わりと思うなぁ。必ずや復活を遂げ世界を俺の手にすーー」


 言葉を発し切る前に魔法陣に飲み込まれて消えていった。




***



 〜〜魔王の封印から500年後


 ここは、人間が住まう国の一つ、アルファーレ。

 その国の、端の村に1人の老人と、5歳の男の子、そして、4歳の女の子が住んでいる。

 今老人が、なにかの昔話を子供達に話している最中だった。


「こうして魔王は封印され、世界に平和が訪れたのでした。おしまい」


「え? じぃじ! じゃあ勇者様は死んじゃったの?」


 5歳の男の子は老人の昔話に入り込み一つの疑問を老人に聞いた。


「まぁ、そうじゃのう。勇気のある寛大なお方じゃ。お前も将来は勇者様のような人間になりなさい」


 5歳の男の子は大きく頷き眠りに入った。4歳の女の子は全て聞き終わる前に寝ていたという。


 寝た子供達の頭を撫でながら老人は独り言を毎晩たれこむ。これが、この家の日常だ。


「お主らは捨て子だった。別々の場所に捨てられてたから、本当の兄妹かも分からん。じゃが、わしの孫にあることは変わりない。健やかにそして元気に育っておくれよ。愛しい愛しい、わしの愛子達」



 そう言い、子供達の蹴った布団をかぶせ老人も眠りについた。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る