不幸代行人

たに。

不幸代行人

 僕は金持ちの家に産まれた。物心つく頃には、ピアノ、バイオリン、フルート、サックス、ダンス、といくつも習わされていた。あと不細工な家庭教師もいた。自分で言うのもなんだが容姿も誰が見てもイケメンと言うようなやつだと思う。小学生の入学式の時にはとても可愛い許嫁がいた。正直、窮屈で生きにくいけど、貧乏よりましだし、ブスよりましだし、独身で死ぬ心配もない。けれど僕は、それを幸せとは言えなかった。母は僕に教養をつけさせるためと言い、あらゆる文学や音楽を聞かせてきた。父はもう何日も家に帰って来ていない。いつも遊んでいたのは、家政婦やメイド達だった。けれど、遊ぶ時間も限られていて、遊ぶ時間は30分だけだった。それでも僕の事を周りは幸せ者だと口々に言い、家にいるものは、親以外坊っちゃんと言ってきた。

 そんな僕も許嫁と結婚をして今日から社会人だ。毎日嫁の作る弁当を持って、会社に向かう。自動ドアを通ると会う人全員が「おはようございます」と挨拶をしてくる。僕は「おはよう」とそれぞれに返す。そう僕は父が経営する会社の副社長になった。何もかも与えられて、周りからは、幸せなやつと言われてきた。僕は、努力を一切していない。とりあえずやらないといけなかったからやっていただけ。僕も周りと同じように、バカな点数とったり、今月は女と何人やったかとかそんな話もしたかった。僕は親が作ったレールの上を走らされていた。けど、親には産んでくれたことは感謝はしている。

 副社長の椅子はとても座りやすくて、居心地がいい。けど、この会社は居心地が悪い。別にしたかった事もなかったから、父を手伝うと決めただけだ。僕はこのままではただ無駄な時間を浪費するしかない。僕は副業として最近噂になっていた不幸代行人と言うバイトを始めた。

 手始めに妻が死ぬという不幸を引き受けた。次の日僕の妻は死んだ。引き受けた男の妻は、後日家に戻ってきた。お礼として、その家族の子どもらしき子に柊の葉を型どったキーホルダーをもらった。妻が死んで悲しいとは思わなかった。キーホルダーはポケットに投げるようにしまった。

 次に骨を折る不幸を引き受けた。なぜか骨が折れた。疲労骨折だった。引き受けた人の骨は1日でくっついて何事もなかったように、去っていた。ここで確信した。これは本当に代行しているんだ。しかし、バイトの日給がクエスチョンになっていた。すぐに銀行で確かめると50万振り込まれていた。

 次に突き指を引き受けた。確かめると500円だった。ここでこの不幸代行がわかってきた。大きい不幸ほど、稼げる。

 僕はそこからいろいろ試した。するといつしか僕の前からはほとんどが消えていた。唯一残ったのは、60億と言う金だけだった。

 僕はそれを使って、今までしたこともないことをしようと決めた。しかし、結局僕は誰かにとっての幸せに愛されてるのかと思うくらいに、お金は入ってくるし、女は寄ってくる。望まないことしか訪れない。「お前は幸せで良いよな」「羨ましいよ」こんなこと言われる為に全てを捨てたんじゃない。僕は誰かに「不幸だね」と言われたかったんだ。そう思った僕は借金で困ってる人の不幸代行で60億を使っていくことにした。その代行では、金は振り込まれなかった。だが、すぐには無くならなかった。3年たった。僕は金を使い果たした。もう僕には何もないんだ。あるのは、不幸だけ。それで僕の夢は叶った。って言ってるはずだった。使いきった次の日、今まで僕が捨ててきた家族や家、会社、地位が全てを元通りになった。パラレルワールド。僕は夢を見ていた。

 不幸代行のバイトなんかなかった。僕が作った想像。自分が幸せとは思ったことがないが、僕は人から見て幸福なんだろう。不幸代行。僕はそんな夢のような出来事を忘れないだろう。ポケットには柊の葉を型どったキーホルダーが入っていた。どこか懐かしい気がした。僕はそれをポケットに優しく入れた。

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