8話目
彼女に浮気された日の帰りはとても惨めなものだった。
「あー……アホらしい……自滅すればいいのに……」
雨の中を傘もなしに歩き続ける。家に帰る気力なんてものは消え失せた。ただ、少しでもあそこから離れたいと思いただただ歩き続ける。
「あぁ‼っざけんな‼」
雨の音で聞こえないだろうと思い僕は腹に溜まっていた怒りや悲しみを声で吐き出す。別にそれでスッキリするわけでも、気持ちの整理がつくわけでもない。ようはただのストレス発散みたいなものだ。ただ、死んでしまえたらどれほど楽なんだろうか。誰かが肩代わりしてくれれば楽なんだろうなという考えがどんどん膨らんでいく。
「どうせ……僕なんて……いてもいなくても変わらねぇよ……」
そう呟きふと立ち止まると横に小さな古びた神社のような場所があった。普段なら特に興味も持たないようなそんな場所。ただ、何故か足はその神社に吸い込まれていく。小さな神社には特に変わったことはない。ただ一つを除けば。
「絵馬……?」
こんな神社に何であるのかわからない何も書いていない絵馬が一枚置いてあった。
「絵馬って……何書くんだっけ……願い事とかだっけ……」
僕の願い……それはただ消えていなくなってしまいたい。それだけだった。僕は近くにあった筆を手にその願いを書いていく。そしておまけのように、浮気相手たちが自滅してほしいことも。
「こんなこと神社で書いたら祟られそうだな……」
そんなことを呟き、絵馬を適当な木に掛ける。
「こんなこと書いて何になるんだか……アホらし……帰ろ……」
僕はそう言って神社から出ると雨は少し小雨になっていた。僕は絵馬を掛けた木の方から奇妙な視線を感じたが気のせいだと思いその場を小走りで去った。
自己肯定をできない僕とドッペルゲンガー 高山 響 @hibiki_takayama
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