2話目

「ただいま……」

家に帰り、玄関を開け、誰もいない部屋に向かってそういうが、その声はただ虚しく部屋に響いて溶けていった。

「あれ……俺今日なんか飯食ったっけ……」

鞄を床に投げ捨て机の上を見ると一枚の皿が机の上にあった。ただ出してそのままにしたかとも考えたが、明らかになにか皿の上に載っていたような汚れがあった。

「昨日のやつ洗ったと思ったんだけどな……また忘れてたかな……」

最近物忘れが多くなってきたからなと思いながら皿を水につける。

「あー……洗濯物干して、薬局行って……めんどくさいな……」

ぶつくさ文句を言ってるとスマホの着信音が鳴り響く。

「『採用選考のお知らせ この度、慎重に選考致しました結果、誠に残念ながら貴殿の採用を見送らせていただくことになりましたのでここにお知らせいたします』ね……これで何社目だっけ……まぁ……そりゃそうだよな……どうせ俺なんて、社会から必要とされてないようなゴミですよ……いくら大丈夫とか言われてもここまでくるとな……余裕もねぇし、生きる気力もうせてくるわ」

スマホを布団に投げ捨て倒れこみ笑いながら自虐する。最近はお祈りメールが来るたびにずっとこれだ。

「消えてなくなりたいな……」

そう呟いたときにスマホから電話の着信音が鳴り響いたが、電話に出る気力なんてものはない。

「無視して寝よ……」

スマホの電源を切り投げ捨てる。ただ僕はこのときに電話出ておけばよかったのかもしれない。そうすれば僕の人生は狂わなかったのかもしれなかったのだから……。

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