第九十一話「シュエの軌跡 再会の時」
◆
帝城には、多くの貴族や学院の関係者が、ドレスコードに身を包み、続々と集まって来ている。 流石皇族の開くパーティだけあって、その規模はなかなかの物。 華やかな雰囲気に包まれている。
警備もしっかりしていて、廊下の曲がり角毎に、警備の兵士が二人づつ配されるくらい、厳重に警備されている。
私とラフィークは皇族と一緒に最後に入場するみたい。 丁度会場に貴族、学院の関係者が会場に揃ったみたいで、宰相さんが迎えにきてくれた。
私達は皇族に続きパーティー会場へと向かう。 そして、会場の中からパーティーの始まりを宣言する声が聞こえた。
「皆様、お待たせしました。 これより祝賀パーティーを始めます」
そして、その司会と思わしき男性の合図で料理がどんんどん運ばれて行き、準備が整った所で皇帝陛下の入場を知らせる。
「続きまして、皇帝陛下がご来場されます。 皆の者、臣下の礼を」
その言葉で会場に居た全ての人が、姿勢を正して胸に手を当てる。 皇族を迎える時の作法の様で、ざわついていた会場が一気に静まり返り、壇上に注目が集まる。
皇帝陛下は堂々とした態度で、皇族の面々を引き連れて先に会場へと入って行った。 ちなみに、私とラフィークは呼ばれるまで待機と言われている。
緊張するなぁ…… そんな事を思っていると、皇帝陛下は威厳に満ちた表情で、集まった貴族と学院関係者に軽く声をかけた。
「皆待たせたな、今宵のパーティーを存分に楽しんでくれ」
そして、ついに私の事が紹介される。
「それから皆も知っているかと思うが、今年は聖シュトレーゼ皇国より勇者が留学に来た。 この場を借りて改めて紹介しよう。 入りたまえ」
私は陛下の合図で、会場へと足を踏み入れた。 後ろからラフィークが付き添う。 なんか、シュトレーゼ皇国を出てから、初めてここまで注目されているかもしれない……
私とラフィークは皇帝陛下の前まで歩むと、膝を折って頭を下げた。
「この度は、私共聖シュトレーゼ皇国の無理なお願いをお聞き届け頂き、こうして学院への入学を受け入れて頂けた事に感謝申し上げます。 今宵はこの様な場まで設けて頂き恐縮です」
ラフィークのその言葉に、陛下は「うむ」と頷くと、言葉を付け加える。
「同盟国の頼みだ。 それに勇者が誕生したとなると世界の危機が迫っている証拠。 我が帝国も無関係とは行かぬ。 人々の希望となる勇者を拒む理由はない。 我が帝国で存分に勉学に励むが良い」
私とラフィークは「「感謝致します」」と再び頭を下げた。
「さぁ、勇者よ。 皆に名乗るが良い」
私は皇帝陛下に促され、立ち上がるとカーテシーを決めて深々と頭を下げる。
「皆様はじめまして。 聖シュトレーゼ皇国にて勇者に選ばれました、シュエ・セレジェイラです。 選ばれたと言っても、まだ実感があまり無いのですが……」
私はそう言って苦笑いを浮かべる。
「ご存知の方も居られるかと思いますが、聖シュトレーゼ皇国では、五歳の誕生日に必ず神託の儀が執り行われます。 無事の成長を祝い、そしてこれからの成長を祈って、神器として祭られている聖剣に触れるのです。 その神託の儀にて、私は何故か聖剣の主に選ばれてしまいました。
なぜ私が選ばれたのかは解りません。 ただ、私は聖剣に選ばれたと言うだけで、皆様となにも変わらないただの女の子です。
ですが私は、聖剣に選ばれてた事で、同時に勇者としての使命を背負う事になってしまいました。 何れ訪れる災厄に立ち向かう義務を負ってしまいました。 ですのでどうか…… 皆様の力を貸してください」
私は再び頭を下げる。 それを聞いた会場の人たちが、暖かい拍手を送ってくれる。 上手く挨拶できたかな?
私は皇帝陛下に向き直ると、再び頭を下げ、感謝の言葉を告げる。
「こうして私のわがままで帝国学院への入学を許して頂き、この様な場に立たせて頂いた事、とても感謝しております。 ありがとう御座います」
「よい、気にするでない。 我が帝国で学び、その使命に役立ててくれ。 我が帝国はそなた等を歓迎する」
「有難う御座います」
そして、私の挨拶が終わった事で、皇帝陛下はグラスを受け取り、祝賀会の始まりを宣言する。
「さぁ、今宵は皆楽しんでくれたまえ。 帝国の未来を担う若者達の門出を祝って…… そして新たな勇者の誕生を祝って…… 乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
陛下の言葉に続いて、それぞれがグラスを掲げてそれに続く。 私もグラスを受け取り、それに続いた。
◆
パーティは一気に賑わいを見せた。
皇族の下には次々と貴族が挨拶に訪れ、それぞれに名を売ろうと話を弾ませている。
そんな皇族に負けないくらい、私の所にも貴族の方々が挨拶に来て、正直すごく困った。 元々そんな貴族のお偉いさんを相手に、話す機会なんて無かったので、ラフィークに大分助けてもらっちゃった。
シュトレーゼ皇国で偉い人って言えば、教皇様と一部の司祭様とだけだったので、あんまりそう言うのに慣れてないんだよね…… だいたい私とお話するのは、修道院の人達だったから、そこまで気を使わずに済んでたんだけど、ここは帝国。 そう言う訳にも行かず、愛想笑いで無難に対応するので精一杯だったよ…… ほんと、すっごく疲れた……
食事もままならないし、アイエルちゃん達とお話したかったんだけど、周りを固められてそれどころじゃなかった。
暫くそんな状況が続き、あらかた挨拶が終わった時だった。 ≪ガシャンッ!≫と言うステンドグラスの破壊音と共に、黒ずくめの賊の一団が突如としてパーティー会場へと乱入して来た。
「「「「「きゃぁああ!」」」」」
いきなりの事に、会場のあちこちから悲鳴があがる。
ラフィークは咄嗟に私を庇うと、警戒を強めてくれる。 まさか、あれだけ厳重に警備していた帝城に、賊が襲撃してくるとは思いもしなかった。 私もラフィークも武器を持っていないので、ここは様子を伺うしかない。
すぐさま警備の兵士が、対応に動いていたので大丈夫だとは思うけど……
それに、皇族の側には、あの英雄とアイエルちゃんも居る。 さっそく陛下を護る為に、アイエルちゃんが魔法で結界を張っていた。
そんな様子に気を取られて居たら、どうやら賊の目的は私だったみたい。 気がついたら賊が目の前で剣を振り上げ、私にせまっていた。
「しまっ!」
私は焦った。 この距離では魔法の詠唱は間に合わない。 聖剣を召喚するにしてもワンテンポ遅れて対応ができそうもないし、ここは体術で一旦凌いで…
そう考えた時だった。
この世界では聞きなれない発砲音と共に、今まさに私に剣を振り下ろしていた賊が力なく崩れ落ちた。
私は驚き、射線の先を追う。 そこには急いで私達のもとへと駆け寄るアイエルちゃんの少年執事の姿があった。
少年は見覚えのある銃を二丁構え、私達を囲っていた賊三人を一瞬にして射殺してしまう。
その動きに、私は見覚えがあった。 確かに私は知っていた。 隙のない、人とは思えない華麗な銃技。 あの人と同じシグザウエルP二二六と言う、この世界であるはずのない銃器。
そんな事があるの? 私は少年に、かつての先輩の姿を重ねてしまっていた。
そして彼は、私達を護る様に机の上に飛び乗ると、次々と発砲し、あっと言う間に賊を制圧してしまう。
「二人とも、大丈夫でしたか?」
口調は違うけど、そんな少年の姿が、私には先輩にしか見えなかった。
だとしたら、先輩は…… 先輩は私と同じで転生していたの? 姿形は違うけど、女神レーゼが言っていた事が思い出させる。
帝国と言うキーワード。 そして私の未練。 もし、本当に目の前に立つ少年が、先輩なんだとしたら…… 私はそう思うと嬉しくて、自然と涙が溢れた。
もう合えないと思っていた。 本当に彼が先輩なら…… 私はなんとか言葉を紡ぐ。
「……せっ ……センパイ……なの?…」
その私の言葉を聞いた少年は…… ううん。 少年の反応は紛れも無く先輩のものだった。
「セッカ…… なの… か?……」
驚愕の表情を浮かべる先輩に、私は名前を呼ばれ、我慢できずに「センパイ!」と思わず抱きついてしまった。 そして、何度も、何度も先輩の事を呼んだ。
「センパイ…… センパイだ… センパイだよ。 センパイ……」
もう会えないと思っていた。 あの時の後悔が、あの時の先輩の事が、感情が、次々と蘇る。
周りの事なんて考えられない。 今はただ、先輩の事で頭がいっぱいで、ただ先輩の胸に顔をうずめる事しかできなかった。
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