第八十八話「シュエの軌跡 入学式 前編」
◆
入学式当日。 私は学院指定の制服に身を包み、ラフィークと共に学院を目指した。
学院指定の制服は、高校の時のブレザーを少し変えた作りで、襟がセーラー服みたいになっている。 なんか、ブレザーとセーラーを足して二で割った、不思議な感じと言えばわかるかな? それにニーソックスにブーツと言った組み合わせ。 ブーツはともかく、白を基調として銀糸の入った作りになっている。
ラフィークはいつも通り聖騎士の正装に身を包み、帯剣して私の側に控えている。 やっぱり普通の鎧を買ってもろうかな…… なんか絶対目立ってる。
「ねぇ、ラフィーク」
「何ですか? シュエ様」
「その聖騎士の鎧。 なんとかならない? 帝国じゃすごく目立っちゃてるよ……」
「そうですか?」
ラフィークは首を傾げる。 本当に気付いてないらしい……
「鈍感……」
「?!」
「今度、目立たないのを買いに行こ。 絶対その方がいいよ」
「わ…… 分かりました………」
私とラフィークは、そんなやり取りをしながら入学式へと向かった。
◆
学院に到着すると、私と同じく真っ新な制服に身を包んだ、新入生達と保護者達が、学院の広場を埋め尽くしていた。
私達は徒歩で来たけど、やはり貴族の方々は馬車で乗り付けていて、着ている物からも貧富の差が覗えた。
そして、そんな生徒と保護者からも、私を見る目が向けられる。
私も人様の様子を覗ってたから、お互い様と言えばお互い様なんだけど、一対多の構図はちょっと止めてほしい…… 私はそそくさと、そんな人混みの中を抜けて受付へと急いだ。
受付ではローデンリー先生が、保護者と新入生達を誘導している。 保護者は先に会場の保護者席へと誘導し、私と同じ新入生は控室へと案内している。
「シュエ様、では私は式が始まるまで周囲を警戒し、始まり次第保護者席にて待機しております。 式が終りましたら、入り口の所で合流致しましょう」
「うん。 それじゃまた後でね」
私はラフィークと別れ、新入生の控室として用意されている教室へと向かった。 これで少しは目立たずに居られるかなと思ったんだけど、甘かった……
私が控室に入ると、皆の視線が私に注がれ、興味の目が向けられる。
まぁ、分かってたけどね! 今更だし人目を気にする事を止め、私は空いてる席を探した。 そして、その中から英雄の娘ちゃんの姿を見つけた。
やっぱり彼女も合格してたみたいね…… ちょうど良い機会だし、英雄の娘として注目を集めている彼女となら仲良くなれるかもしれない。 この際、当たって砕けろで話しかけてみようかな。
私は他には目もくれず、彼女の元へと歩み寄った。
「おはよう。 少し話良い?」
私に急に話しかけられて、少女はアタフタして隣の男の子に助けを求めている。
近くで初めて見たけど、やっぱりこの娘可愛い。 まつ毛フッサフサだし、瞳も髪も神秘的だし、動きがいちいち可愛い。 あ、ちょっと怖がられちゃったかな? ちゃんと自己紹介しておこう。
「自己紹介がまだでしたね。 私、シュエ・セレジェイラと言います。 宜しくお願いしますね」
私が笑顔で自己紹介すると「えっと、えっと…」とアタフタしながらも「アイエル・フォン・グローリアです…」と、上目遣いで私の様子を覗いながらも自己紹介を返してくれる。 んん~っ。 何この可愛い生き物…… 抱きしめたい。
「アイエルちゃんね! 私の事はシュエと呼んでくれると嬉しいな」
「シュエ?」
首を傾げながら私の名前を呟く。 私は嬉しくなって試験の時のアイエルちゃんの魔法の話をする。
「ええ、入学試験の時の魔法すごかったわ。 あんな魔法、聖シュトレーゼ皇国でも見たこと無かったわ」
そう褒められたのが嬉しかったのか、照れるアイエルちゃん。
「ねぇ、アイエルちゃん。 私とお友達になりましょ!」
唐突にそう言われ、戸惑いながらお友達を見るアイエルちゃん。 そんな友達の一人が、私の言葉に待ったを掛けた。
「ちょっとお待ちになって下さい!」
私はその少女に「何かしら?」と聞き返す。
「急に表れていきなりそんな事言われても、アイエル様が困ってしまいますわ。
それに私たちを無視して、アイエル様の友達になりたいだなんて、何をたくらんで居ますの?」
どうやら警戒されちゃったみたい…… 企むってほど企んでる訳ではないんだけど、ここは正直に話した方が良いかな。
「んー 別にたくらんでる訳じゃないけど… ほら、私って勇者に選ばれちゃったじゃない? この学院に来た目的って、私自身のスキルアップの為と、旅の仲間を探す為なんだよね。 それで入学試験ですっごい魔法つかった、アイエルちゃんの事が気になって声をかけたの」
私はそう説明し、アイエルちゃんに向き直ると「ね! 私と友達になりましょ」と言って言い寄る。
そして、私はアイエルちゃんをハグしながら、友達の少女に言う。
「それにアイエルちゃんすっごく可愛いんだもん。 お近づきになりたいと思うのは当然じゃないかな?」
「ず… ずるいですわ… 私でもそんな事したことないのに…」
少女はなにやら羨ましそうにそう呟く。 あれ? 彼女もアイエルちゃんをハグしたかったとか? つまり嫉妬と言うやつかな…… なんかこの子も可愛い。
私はアイエルちゃんを開放すると、こんどはその少女に歩み寄りながら言う。
「じゃあ皆友達になりましょ! だって私、聖シュトレーゼ皇国から帝国に来たばかりで、知り合いは護衛のラフィークしか居ないもの。 友達になってくれると嬉しいわ」
私が笑顔でそう言うと、少女はなんか頬を染めながらも、仕方ないわねと言った様子。
「そ… そう言う事なら仕方ありませんわね… どうしてもと言われるのであれば、考えなくも無いですわ」
私は笑顔で「どうしても!」と手を握ってそう言うと、少女は戸惑いながらも受け入れてくれたみたい。 よかった。 これで学院生活で孤立する事は無さそう。
「それじゃ決まりね! 皆宜しくねっ」
私が笑顔でそう言ったら、今まで黙って居た少年が丁寧な口調で胸に手を当て「こちらこそ、お嬢様共々、宜しくお願い致します」と軽く礼を返してくれた。
お嬢様と言う事は家臣かなにかなのかな? その疑問も含め、式が始まるのを待っている間、控室で色々と教えて貰った。
それから程なくして、ローデンリー先生が控室に姿を現した。
「皆さん、おはよう御座います。
これからの予定を告げますので、皆さん席について下さい」
式の準備が整ったのかな? そう言って教壇に立つローデンリー先生。
立って居た生徒達は、ローデンリー先生の指示に従い、私を含め近くの席に座った。
「これから皆を会場まで案内します。 新入生代表のグローリアさんを先頭に、皆一列に並んで前の席から順に座って行って下さい」
グローリアさんと言う事は、アイエルちゃんが新入生代表? と言う事は主席はアイエルちゃんだったのかー まぁ、あの魔法見たら納得だけど、可愛いのに頭も良いんだ……
と思ってたら、アイエルちゃんが涙目で執事のロゼくんに助けを求めていた。
さっき話には聞いてたけど、天才美少女も苦手なものがあるんだね… そんな所がまた可愛いんだけど……
それからローデンリー先生は、式典の段取りを一通り説明し、アイエルちゃんを先頭に会場へと向かった。
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