第八十六話「シュエの軌跡 入学試験 前編」

 ◆


 学院に到着すると、皆の視線が私に突き刺さる。 聖剣も持ってないのに何で私が勇者だってバレてるんだろう…… そして、ふとラフィークの姿を見て納得してしまった。

 良く見ると、ラフィークは聖騎士の鎧に身を包んで帯剣している。 私が身分を隠そうとしてても、周りがこれじゃバレるよね……

 私は溜め息を吐き、ラフィークにジト目を送る。


「ねぇ、ラフィーク」

「どうされました?」


 本人はまったく気付いてない見たい。


「もういいや……」


 そんな私の様子に疑問符を浮かべるラフィーク。 どうせもう私の存在が学院にある事が知れ渡ってるし、今後、私のせいで被害者が出ない様にする事が先決。 プリムラとセレソの悲劇を繰り返してはいけない。 これからの事を考えないと……

 そうこうしていると、アラム教員統括が私達を出迎えてくれた。


「お待ちしておりました勇者様。 試験会場へご案内致します」

「ありがとう御座います…… あの、それからアラム教員統括先生?」


 なんて呼んだら良いか分からず、変な呼び方になってしまった…


「どうかされましたか?」

「その、できれば勇者様はやめて貰えると助かります。 これからは先生と生徒になるかも知れないのですし、普通に名前で呼んでもらえないかなと……」

「畏まりました。 では今後勇者様の事は、”セレジェイラさん”とに呼ぶ様、他の教員にも通達しておきましょう」

「ありがとう御座います」


 それから私は、アラム教員統括に案内されるまま試験会場へと到着し、ラフィークは教室の外で待機する事になった。 まずは筆記試験かららしい。 移動中に確認したんだけど、筆記試験の後、訓練場に場所を移して剣術の試験、魔法の試験と続くみたい。

 まだ試験が始まるまで時間があるので、私は一番後ろの席の一番端の席に座った。 襲撃があったとしてもすぐに動ける様になんだけど……

 それから少しづつ、入学試験を受ける子供達が教室に案内されてきて、すぐに教室は埋まった。


 ◆


 それから三十分ほど、教室で試験が始まるのをボーと待っていたら、やっと試験官の男性教員が教室に現れた。


「待たせたな。 これより筆記試験を始める」


 試験官の先生がそう言うと、サポートの先生だろうか、試験を受ける生徒達に答案用紙を裏向けにして配っていく。 私もそれを受け取り、全員に答案用紙が行き渡ると、試験官の先生は「始め」の合図をする。

 一斉に問題を解き始める受験生達。 こうしてメルトレス帝国学院の入学試験は開始された。


 ◆


 結果から言うと、筆記試験はまずまずだった。

 何問か帝国内の事が問題に出たので、そこが分からなかったくらいで、おおよその問題はすべて解けた。


「ふぅ…… これなら大丈夫かな。 あとは剣術と魔法の試験だけだし……」


 私は一人呟く。

 試験官の先生は答案用紙を回収し終えると、次の試験の概要を説明する。


「これから三十分の休憩を挟みます。 次は剣術の実技試験です。 三十分後にこの教室に戻ってきてください」


 試験官の先生の言葉に、受験生達は「はーい」と子供らしく返事を返す。

 んー なんか小学校の頃の教室を思い出すよ……

 試験官の先生が教室を出ていくと、子供たちは各々トイレに行ったり、友達同士喋ったり、試験の緊張から逃れたのか気を抜いて休憩に入る。 私はどうしようかな…… とりあえずトイレにでも行こう。 なんか教室に居ると皆の視線が突き刺さって居心地悪いし……

 私は席を立つと、教室を出てトイレに向かった。


 ◆


 それから三十分の休憩時間を終えて教室に戻ると、少し小太りな男性試験官の案内で、訓練場へと向かう事になった。 私達が訓練場に到着すると、別の通路から受験生と思わしき生徒達を連れた試験官が現れた。 どうやら別の場所でも筆記試験あ行われていた見たい。 この感じだと実技試験は合同で行う感じかな。 なんか別のグループの生徒達からも、私は見られてる気がする……

 はぁ…… もう普通の学院生活は遅れないかもしれないな、私……


 そして受験生達が揃うと、男性の試験官がこれから行う実技試験の概要を説明してくれる。


「皆揃ったな。 これから実技試験を行う。 ここで試されるのは君達の剣術の腕前と、魔術の腕前だ。 これは剣士志望でも魔術師志望でも両方試験を受けてもらう決まりになっている。 それぞれの総合得点が入試の合否に影響するので、精一杯頑張ってもらいたい」


 男性試験官の言葉に受験生は皆「「「「「はい!」」」」」と元気よく返事する。 んー やっぱり小学校を思い出してしまう。


「では、まずは順番に剣術の試験から始める。 それぞれ木剣を手に試験官と手合わせしてもらう。 今回は特別に帝国騎士団から助っ人に来てもらった。 皆、胸を借りるつもりで、精一杯自らの実力を示してほしい」


 そう言うと、通路から帝国騎士の正装を纏った騎士が十名ほど姿を現し、騎士団長と思わしき壮年の男性騎士が、意味ありげにニヤリと笑う。

 そして、私達受験生に向けて言葉を発した。


「団長を務めるアムラ・クラディウスだ。 今回は我々帝国騎士団が、栄えあるメルトレス帝国学院の、実技試験を務めさせてもらう事になった! 今年はなかなか優秀そうな者が、中に混じっていると噂されているからな。 英雄の娘に勇者と目される少女… 他の者もしっかりと実力を見せて貰おう」


 私が学院の入試を受ける事から、実力を確かめる為にわざわざ騎士団を派遣したって事かな? それに英雄の娘って誰だろう……


「それでは実技試験を始める。 名前を呼ばれた者から前にでよ」


 男性試験官がそう言うと、名前を読み上げていく。

 そして、剣術の実技試験は順調に進み、受験生達は年相応と言った感じで、騎士達に軽くあしらわれている。 実力が違い過ぎるから仕方ない… 中には筋の良さそうな子も居たけど、流石に現役の騎士の前では手も足も出て居なかった。

 一人だけ、騎士団長と互角に渡り合っていた少年も居て、もしかしてその子が英雄の? と考えたんだけど… 娘って言ってたから違うなと思い直す。 少年は結局、騎士団長に不自然な形で負けていたし、英雄とは無関係かな……

 そんな事を考えていると、私の名前が呼ばれてしまった。


「次、シュエ・セレジェイラ」


 私は「はい!」と返事し、木剣を手に騎士団長の前に出る。


「シュエ・セレジェイラです。 宜しくお願いします」

「噂の勇者の実力、しかと確かめさせてもらおう」


 そう言って騎士団長はニヤリと笑う。 この人、戦闘狂?

 騎士団長は油断なく木剣を構え、私と対峙する。

 私は木剣を後ろ手に引き、構えて腰を落とす。 面倒くさそうだし、一気に終わらせる。

 私は試験官の「始め!」の合図で、一瞬にして身体強化を発動し、一気に抜刀して騎士団長の木剣を斬り飛ばした。

 ラフィークでも身体強化したこの抜刀術は嫌がる。 まして初見でどうこうできる人なんて、そうそう居ない。 騎士団長も一瞬の出来事に目を見開いて固まっている。 そんな状況の飲み込めない騎士団長に私は確認する。


「私の勝ちで良いですか?」


 騎士団長も、柄しか無くなった木剣では、どうする事もできないと思いたったのか。 「あ… ああ」と返事を返す。

 私はあまり人前に居たくないので、そそくさと列へと戻った。

 そして、私の組みのメンバーが試験を終え、次のメンバーが呼ばれた。 私の後に騎士団長に呼ばれた真っ白い髪の少女。 何となく騎士団長の次の相手が気になって見ていたら、すごく綺麗な少女が出てきたから、思わず見とれてしまった。 女の私でも羨ましく思う長くて綺麗な髪。

 そして、次の試験が始まった。 私は何となくその子を見てたらとんでもない事になった。 一見可憐に見えた少女は、見た目からは思いもよらない力で、騎士団長を壁まで吹き飛ばしたのだ。

 信じられない… 身体強化でもしてるのかな? それでも、あそこまでの力で騎士団長を吹き飛ばすなんて、可能なのかな……

 壁にめり込んで気絶する騎士団長。 もしかして彼女が英雄の娘?

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